2017春闘の基本構想や60歳以降の働き方を討議/基幹労連のAP17討論集会

2016年12月9日 調査部

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄関連などの労働組合で構成する基幹労連(工藤智司委員長、約25万8,000人)は7、8の両日、宮城県で「AP17春季取り組み討論集会」を開き、来春闘方針のたたき台となる「AP17春季取り組み基本構想」について討議した。来春闘は「2年サイクルの労働条件改善」の中間年に当たるため、「個別年度」として年間一時金と格差改善を中心に取り組む一方、2016春闘で別途協議や回答見送りなどとなった組合は、必要によりAP17期間も通じて解決を図る方向も示した。方針は来年2月の中央委員会で決定する。

基幹労連の春季労使交渉は、働く人への投資で魅力ある労働条件をつくり上げることで、産業・企業の競争力強化との好循環を生み出すとの考え方を基本に、2006年の労使交渉から「2年サイクルの労働条件改善(AP:アクションプラン)」で統一要求を掲げる形をとっている。2017年の春季労使交渉は「2年サイクル」の中間年にあたるため、業績連動方式を導入していない組合の「年間一時金」と、中小組合等の「格差改善」の取り組みが要求の軸になる。

基本構想は、「わが国経済は、緩やかな回復基調にあるものの、いまだ『好循環』軌道に至っている状況ではない」と指摘。「AP17春季取り組みは、引き続きデフレからの脱却を確実なものとし、『経済の好循環』を実現するための取り組みになる」と位置付けたうえで、「連合・JCMとの連携はもとより、産別加盟各組織全体が連携を密にして取り組みを展開し、労働組合としての役割を発揮することで社会的責任を果たしていく」とした。

年間一時金と格差改善を取り組みの軸に

具体的な主要項目を見ると、年間一時金要求は、金属労協の「年間5カ月分以上を基本」とする考え方を踏まえて、要求方式ごとに設定する。構成要素は、「生活を考慮した要素」と「成果を反映した要素」とし、前者を「年間4カ月(額では120~130万円)程度」としたうえで、成果反映分をめざせる組合は、その増額に取り組む。

要求方式ごとの要求については、① 「金額」要求方式の場合、「生活考慮要素120万円ないし130万円」+「成果反映要素40万円」② 「金額+月数」要求方式の場合、40万円+4カ月 ③ 「月数」要求方式の場合、5カ月――を基本に設定する。

格差改善では、賃金、一時金、労働時間、休日・休暇、退職金、福利厚生等「トータルでみた労働条件の納得性」を追求した取り組みを進める。賃金や退職金について、業種別部会ごとに設定している「当面の目標」を踏まえ、部会のまとまりをもって相乗効果を発揮する取り組みを行うほか、各種労働条件に関しても、① 年次有給休暇初年度付与日数 ② 時間外・休日割増率 ③ 労働災害・通勤途上災害付加補償――の「速やかに改善すべき3項目」を基本に、具体的な改善項目の検討にあたる。

「別途協議」「継続協議」等の組合はAP17で解決を

一方、月例賃金に関しては、2年サイクルの基本年度だった2016春季労使交渉で、「2016年度・2017年度のなかで2年分の賃金改善要求を行う」として、要求額8,000円を基準とする賃金改善を統一要求に掲げて交渉に臨んだ。その一方で「具体的には業種別部会のまとまりを重視して要求を行う」との考えも示し、業種別部会の判断によって、要求や交渉に柔軟性を持たせる形を取った。その結果、鉄鋼の総合大手労組を中心に2年分の有額回答を引き出した一方で、造船重機の大手労組は単年度の要求・交渉で決着した。このほか、事業環境の急激な悪化で要求を見送った組合や、交渉段階で「別途協議」や「回答見送り」となった組合も見られた。

こうした状況も踏まえ、基本構想は「格差改善の観点を基本に、条件の整う組合はその実現に向けて取り組む」としたうえで、「AP16春季取り組みにおいて、賃金改善が『別途協議』『継続協議』の組合は、必要によりAP17春季取り組み期間も通じて解決を図る」「AP16春季取り組みにて妥結した2017年度賃金の配分が確定していない組合は、2017年度からの配分に向けて確実にフォローを行う」などとした。

また、定期昇給に関する取り組みが必要な組合は、「定期昇給相当分を確保する」ことを前提に、定昇制度が未確立・未整備の状態で取り組む場合の定昇相当額・率については、標準労働者(35歳・勤続17年)を基準とする場合は3,700円(年功的要素のみ)、平均方式の場合は平均基準内賃金の2%相当を目安にする。

最低賃金については、「すべての働く者の処遇改善に向け、特定(産業別)最低賃金の引き上げに資するよう企業内最低賃金に関する取り組みを積極的に行う」考え。企業内最低賃金協定が未締結の組合は協定化に取り組み、18歳最低賃金の改定に取り組む組合は高卒初任給に準じた水準を目指して、金属労協方針の月額15万9,000円以上の水準または月額2,000円以上の引き上げを求める。

「2年を一つの単位として『要求額8,000円基準』の考え方を堅持」(工藤委員長)

あいさつした工藤委員長は、2016年度・2017年度の2年サイクルの春季取り組みについて、「基幹労連は、『魅力ある労働条件づくりと産業・企業の競争力強化は好循環の関係にある』としており、その推進のためには2年を一つのパッケージとした考え方をAP16の基本方針とした。しかし、直近の産業・企業の動向を見据えた場合、おのおのにバラツキがあり、2年に一度、全体で取り組んだ方が効果的な産業と、産業・グループ・企業労組全体で単年において取り組んだ方が効果的な産業の双方があることも否めない事実。今次2年サイクル期間に関しては、目的の底上げ・底支えと格差是正を図るために、全体の枠組みを定めたうえで取り組み方法を業種別部会のまとまりの下、2年のなかで選択できるようにする方が効果的と判断した」と改めて説明。そのうえで、「具体的な水準は、2年を一つの単位として『要求額は8,000円を基準』とするとした考え方をAP17春季取り組みにおいても堅持する」と強調した。

60歳以降者の安定雇用確保と処遇改善も

また、今回の基本構想には、超少子高齢化や長時間労働、育児・介護への対応などのワーク・ライフ・バランス実現に向けた「働き方改革」の取り組みの必要性についても記載している。とりわけ、60歳以降者の安定雇用確保と処遇改善に関しては、既に62歳まで無年金になる世代が存在し、2025年度には年金支給開始年齢が65歳に到達することなどを踏まえ、「公的年金支給開始時期の変更や超少子高齢化の進展等に対応できるよう継続的な取り組みを進める」とした。

具体的には、「希望者全員に対する年金支給開始年齢までの雇用の確保」や「生計費の確保と働き方に見合う処遇の確立」などについて2011年の定期大会で確認した「クリアすべきハードルの考え方」に沿って、必要な処遇改善の対応を行う。また、今後の60歳以降者の労働条件や各種制度のあり方の検討に向けて、労使で共通認識を図るとともに、賃金改善についても60歳以前者のAP取り組みの成果が適切に反映されるよう取り組むことも掲げている。

AP18からのスタートに向けた60歳以降の働き方の議論の深化を

集会初日の分散会でも、60歳以降の働き方に関する意見が相次いだ。

「仕事が変わらないのに賃金が下がることに対し、モチベーションや生産性が下がるといった、再雇用者からの声を聞く。安全への意識低下にもつながる問題であり、働きがいのある労働条件の確立が急務だ」「現場では危険作業に伴う体力不安が課題になっている。また、継続雇用で賃金カットされ、年単位の更新時の人事考課で企業内最低賃金に近くなっている人もいる。経験のある人が18歳高卒と変わらない賃金ということはなく、再雇用者の最低賃金も課題だ」「シニアの一時金が固定で決まっており、凄くパワフルな人とそれなりに働く人が同額で不公平感がある。ある程度の査定が入れられたらと考えている」「きつい現場で(現役と同じように)働いている人がいる。一方、そうでない人もいて、同じ60歳以降でも仕事が全く違う。いい加減、限界に来ている」等、現場実態を踏まえて仕事や能力に応じた処遇を図る必要性を訴える発言が多く出された。

また、「再雇用者から『交替勤務を外して欲しい』との訴えがある。高年齢者に夜勤などのある交替勤務は辛いが、新しい職場を設ける負担を抱えることもできない。定年延長を話すうえでは、交替勤務の取り扱いの問題が出てくるだろう」「意識調査では3つの選択肢がでているが、取り組む側としては絞った方が進めやすい。定年延長を見据えた取り組みを考えて欲しい」などと、定年延長要求を念頭に置いた発言も聞かれた。

これらの意見に対し、神田健一事務局長は、「(60歳以降の働き方について)相談してきたことは、AP17では段取りできないが、何らかの打ち出しをするなかで、今日の意見をどうしていくかだ」と指摘。そのうえで、「組合員の意識アンケート調査では、定年延長、選択定年制、継続再雇用が3分の1ずつになっている。しかし、なにかを指向していかないと議論にならない。定年延長を軸に据えたら過渡期のなかでどんな問題が生じてくるか。議論にあったモチベーション、インセンティブ、若い世代との関わり等をどうしていくか。それぞれのなかで引き続き、議論していきたい」などと説明し、今後、AP18からの取り組みのスタートに向けて議論を深めていく考えを明らかにした。

基幹労連は来年2月に開く中央委員会で最終的なAP17方針を決定する。