個別賃金要求方式への移行を提起/JAMの2017春闘討論集会

2016年12月9日 調査部

[労使]

金属、機械関連の中小労組を多く抱えるJAM(宮本礼一会長、36万人)は12月5日から2日間、滋賀県大津市で2017年春季生活闘争中央討論集会を開催し、本部が提示した2017春闘方針の職場討議案(闘争方針大綱)を討議した。大綱は、個別賃金要求方式への移行を打ち出しているのが特徴。今後、地方も含めた組織内で議論を進め、来年1月に開く中央委員会で方針を決定する。

「賃金の底上げ・底支え、格差是正の実現」の取組みを継続

JAMは、構成単組の8割以上を300人未満の中小労組が占める。他産別も含め中小では、厳しい財務状況や地方・地場賃金水準の低下などにより、依然として大手との賃金水準の格差が縮まらない状況にある。JAMの2016闘争では中小労組の妥結額が全体平均の妥結額を上回るケースもみられた。しかし、これまでの要求方式の柱である平均賃上げ要求方式では、大手からの相場波及効果によって賃上げ回答額・率が大手並みかそれ以下で決まるケースが多く、以前からJAMは個別賃金要求方式の重要性を主張していた。

闘争方針大綱は、JAMとしては初めて、平均賃上げ要求方式よりも個別賃金要求方式を前面に掲げた。大綱は「はじめに」のなかで、「JAMはあるべき賃金水準への到達闘争である個別賃金要求方式への移行を推進し、地域共闘を強化し、毎年の賃金引き上げの定着、賃金の絶対額水準の確認と開示による水準の社会化、生み出した価値にふさわしい価格取引実現に向けた環境の整備に継続的に引き続き取り組むと共に、政策・制度要求を運動の両輪として展開していく」と強調。「基本的なスタンス」では、「『賃金の底上げ・底支え』、『格差是正』の取り組みを継続し、すべての単組が、月例賃金の引き上げを中心とした『人への投資』の取り組みを行う。とりわけ、逼迫した雇用情勢により、人材の採用難となっている中堅、中小企業は、企業と産業の持続性の観点から中期的な賃金政策を持って賃金水準の引き上げを行う」と掲げた。

「個別賃金要求元年としたい」

討論集会で挨拶した宮本会長は、「2014年から継続してベアを獲得した中小と、努力したがこの間、ベアを獲得しきれていない中小、また、賃金制度を確立している中小と確立できていない中小など、同じ中小労組でも賃上げ額に差があり、賃金格差が拡大している」とし、「賃金格差を是正するためには、賃金制度を確立したうえで、賃金水準の上昇、上げ幅を求める平均賃上げ交渉から、賃金相場や銘柄要素を重視する個別賃金の絶対水準をもとめる交渉にシフトしていく必要がある」と述べた。

大綱の内容を説明した安河内賢弘・副会長/労働政策委員長は、2017闘争を「個別賃金要求元年としたい」とし、「ベアができているうちは平均方式でもよいが、今年も経済の状況は厳しく、過年度物価上昇もほとんどない。こうした状況が続けばいずれ一律ベアはできなくなる。一日も早く個別方式に移行すべきだ」と強調。日本全体で人手不足が進み、求人時の賃金水準が上昇していることから、「製造業の中小の賃金水準が他産業に比べ相対的に低下している」とし、「(このまま賃金が下がり、人材を獲得できなくなると)日本から製造業がなくなってしまうとの危機感」をもって今回の闘争に臨むと説明した。

標準労働者の要求基準は【目標水準】で30歳28万円、35歳32万円

個別賃金要求方式をメインの要求方式とするため、前年の闘争方針とは異なり、大綱の賃上げ要求基準に関する記載内容は、個別賃金要求基準が先に書かれている。

具体的な取り組み内容をみると、各単組は「自らの賃金水準のポジションを確認した上で、JAM一人前ミニマム基準・標準労働者要求基準に基づき、あるべき水準を設定し要求する」としている。JAM一人前ミニマム基準とは、個別賃金要求する際に単組が用いる各年齢ポイントにおける最低水準的意味合いの指標で、大綱は所定内賃金で18歳:15万9,000円、20歳:17万2,500円、25歳:20万6,250円、30歳:24万円、35歳:27万円、40歳:29万5,000円、45歳:31万5,000円、50歳:33万5,000円と提示した。

実際に到達をめざす標準労働者の要求基準としては、高卒直入者の所定内賃金との前提で30歳と35歳という2つの年齢ポイントで、「全単組がクリアすべき水準」として【到達基準】、「到達基準をクリアしている単組が目標とすべき水準」として【目標水準】を設定。金額は、【到達水準】では30歳が26万円、35歳が30万5,000円、【目標水準】では30歳が28万円、35歳が32万円と定めた。なお、到達基準は、JAMの単組を対象にした賃金調査における第3四分位の数字を参考に算出、目標水準は第9十分位の数字を参考に算出している。目標水準にすでに達している組合は、金属労協が掲げる目標基準(基本賃金で33万8,000円以上)の到達を目指す。

本部では「最初の年だけに内容は問わないので、できるだけ多くの組合が個別賃金要求を掲げて欲しい」(安河内・労働政策委員長)とするものの、個別賃金要求ができている単組数は2016闘争では約180組合(交渉単位組合数:約1,580)にとどまっており、2017闘争でも平均賃上げ要求で取り組まざるを得ない組合も出てくることが予想される。平均方式での賃上げ要求基準について大綱は、「連合中小共闘の賃金引き上げ目安を踏まえ、未組織労働者も含めた春闘相場の波及を目指し、平均賃上げ要求基準をJAMの賃金構造維持分平均4,500円に6,000円を加え、1万500円以上とする」とした。安河内・労働政策委員長は個別賃金要求の浸透に向けて、「地方オルグが各単組に入り込んで要求策定を指導・支援していきたい」と話した。

中途採用、無期転換者向けの「年齢別最低賃金基準」を新設

個別賃金要求方式への移行に伴い、大綱は、中途採用者や無期転換された有期雇用労働者の採用時の最低賃金規制も設けるため、「年齢別最低賃金基準」を新設した。水準は、18歳ポイントが15万9,000円、25歳が16万5,000円、30歳が19万2,000円、35歳が21万6,000円となっている。

闘争日程では、すべての単組が要求提出をめざす統一要求日を2月21日(火曜)とした。共闘体制を強化するため、2017闘争では「地方JAMリーディング単組」として、① 統一要求日に提出できる ② 要求内容がJAM方針に準拠している ③ 3月内決着できる――の要件を満たし、地方での相場の牽引役となる単組(各地方で5~20程度)を各地方で選んでもらう。地方JAMリーディング単組の高い回答水準を3月末に開示することで、4月以降の各地方での交渉につなげるとしている。

中小企業の適正な取引条件整備に取り組む

また、2017闘争では、「生み出した価値にふさわしい価格取引実現に向けた環境の整備」にも取り組むとしている。不当な値下げなど、不利な取引条件におかれ、業績が伸びずに賃上げ原資が捻出できない中小企業もあるからだ。JAMの構成組織では、春闘の要求とともに、新年度に向けた、適正価格とするための製品の価格引き上げの申し入れを取引先に行うことを経営者に要請する。一方、中小企業家同友会などと連携し、自治体で制定されている中小企業振興基本条例に関する学習会などを実施するとしている。