第3次賃金・労働政策を確認/金属労協定期大会

(2016年9月7日調査・解析部)

[労使]

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5つの産業別組織でつくる金属労協(JCM、201万4,000人)は6日、都内で定期大会を開き、2017~2018年度の運動方針を決めた。大会では2020年代前半までを念頭に労働組合として取り組むべき課題を展望した「第3次賃金・労働政策」も確認。金属労協としての「同一価値労働同一賃金」の考え方を整理している。

『底上げ・格差是正』は単年度ではなく継続性を必要とする闘い/相原議長

金属労協は2016年闘争で、賃金構造維持分を確保した上で、「3,000円以上」の賃上げ要求を掲げた。賃上げを求めたのは3年連続。今回は回答を引き出した2,761組合のうち、1,560組合が賃上げを獲得し、その平均額は1,224円となっている。

相原康伸議長はあいさつで、「2016年闘争の中心的な課題は『底上げ・格差是正』であり、連合方針を踏まえたマクロの観点からの雇用労働者の所得引き上げを図り、『人への投資』と『家計の改善』を通じて、デフレ脱却、『経済の好循環』の達成を目指してきた」と説明。その結果、① 規模別の賃上げ額では大手と中小の格差が2014年以降の3年間で最も縮小した ② 企業内最低賃金の引き上げ額が、賃上げ額を上回った ③ 非正規労働者の賃金・労働諸条件改善に向け、各産別が具体的な賃上げ水準を掲げて取り組むこととし、金属労協でもその要求・回答状況の把握を行った――ことなどの「前進があった」と評価した。

その一方で、「賃上げ獲得組合の比率は2015年を下回り、ほぼ2014年並みとなり、特に中小労組については2014年を若干下回る結果になった」ことを挙げて、底上げ・格差是正の取り組みの継続を訴えるとともに、2017年闘争に向けて「今後の経済情勢の動向を慎重に見極めながら、この3年間続けてきた賃金引き上げの流れを念頭に、議論を深めていきたい」と述べた。

誰もがいきいきと働ける賃金・労働諸条件の実現を目指す

大会で確認した2017~2018年度の運動方針は、① 「第3次賃金・労働政策」に基づく雇用環境の整備、賃金・労働諸条件の改善 ② 「攻めの産業政策」を基本とする政策・制度要求、産業政策の推進 ③ 国際労働運動の推進 ④ 組織強化への対応とより効率的な運動の構築――を活動の柱に据えている。

具体的な運動の取り組みを見ていくと、まず、今大会で確認した「第3次賃金・労働政策」において、2020年代前半までを念頭に置いた金属産業の雇用や賃金・労働諸条件のめざす姿を提示。雇用の安定を基盤とした多様な人材の活躍推進、「同一価値労働同一賃金」を基本とした均等・均衡待遇の実現、ワーク・ライフ・バランスの実現の3つを柱に、誰もが雇用の安定と公正な処遇の下でいきいきと働くことのできる賃金・労働諸条件の実現を目指す。

また、2014年闘争以降、3年続けて「継続的な賃上げ」を確保してきた取り組みでは、「今後も継続的に賃上げに取り組んでいくことを基本とし、とりわけ中小企業や非正規労働者などの『底上げ・格差是正』を最重要課題として注力していく」ことを強調。2016年闘争で提唱したバリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」構築の「具体的な取り組みを展開し、『人への投資』の環境整備に努めていく」ことを訴えているほか、企業内最低賃金協定の全組合締結と水準引き上げ、特定(産業別)最低賃金の水準引き上げなどの「JCミニマム運動」の推進、一時金の「年間5カ月分以上」の確保に取り組むことも明記している。

なお、特定最低賃金(いわゆる産業別最低賃金)に関しては、近年の地域別最低賃金の大幅な引き上げの動きに追いつかず、無効となってしまう事例が出てきている。今年の地域別最低賃金が全国平均で25円の引き上げ額が決まったことで、今後もこうした傾向が続くことが懸念されている。

相原議長はあいさつのなかで、この点について「それ(地域別最低賃金の引き上げ)自体は、底上げ・格差是正にとって非常に重要なことだが、特定最賃もこれに見合って引き上げていかなくてはならない。特定最賃に関する危機感を労働組合全体で共有したうえで、意義・役割に関する理解を深めよう」と訴えた。

政策・制度要求、産業政策の積極的な推進を

金属労協は2016年4月に、「民間企業に働く者」「グローバル産業であり、かつわが国の基幹産業であるものづくり産業に働く者」「なかでも、その中心たる金属産業に働く者」の観点に立ち、① ものづくり産業を支えるマクロ経済政策 ② ものづくり産業の強みをさらに強化する「攻め」の産業政策 ③ ものづくり産業における「良質な雇用」の確立 ④ 革新的技術開発を促すエネルギー・環境政策――を柱にした、向こう2年間の政策・制度要求を策定している。

方針はこの政策・制度要求に掲げた、TPP批准に伴う国内体制整備や、労働災害防止のための教育・指導、工業高校教育の強化、下請け適正取引の確立、再生可能エネルギー固定価格買い取り制度の改善などの諸要求の実現に向けて、対政府要請、政治顧問との連携、理解促進・世論喚起の取り組みなどの取り組みを強化する姿勢を示している。

さらに、バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」の具体化に関して、経営者団体や業界団体に対する理解促進活動も展開。いわゆる第4次産業革命などの動きに対しても、「『現場力』が重視され、仕事や働き方の高度化、賃金・労働諸条件の改善、ワーク・ライフ・バランスの確立に寄与する変革が行われるよう、積極的に検討を深め、具体的な提案をしていく」。さらに、ものづくり・金属産業の持続的な発展に向けて、「労働組合としてのCSRへの関与の強化にも取り組む」とする。

インダストリオールの日本加盟協議会が1月に創設へ

2012年6月、IMF(国際金属労連)、ICEM(国際化学エネルギー鉱山一般労連)、ITGLWF(国際繊維被服皮革労働組合同盟)の3GUF(国際産業別労働組合組織)が統合して「インダストリオール・グローバルユニオン」が結成された。その後、移行期間としての4年が経過。この間、加盟費の統一や執行委員会の構成、女性参画などの課題が整理されてきており、今年10月に開催する第2回世界大会で一定の合意形成が図られる予定になっている。

方針は、「世界大会以降、『本格稼働』のフェーズに突入し、一つのGUFへと発展する重要な時期を迎える」と指摘。「『更なる統合と改革』を第2期における基本姿勢とし、活動強化に向け積極的に役割を果たしていく」としている。具体的には、インダストリオール執行委員会への対応に加え、各種委員会やワーキンググループなどの場で、JCMの立場・主張を反映させていく考えだ。

また、来年1月には、インダストリオールに加盟する国内組織(JCM、インダストリオール・JAF、UAゼンセン)が、「インダストリオール・グローバルユニオン日本加盟組織協議会」(IA-JLC)を創設する。関連活動の重複の解消や産業横断的な交流による相乗効果の発揮などが目的。方針は「日本加盟組織としての連携を強く意識し、更なる効果的・効率的な運営に努める」としている。

グローバル化の進展に伴い、日系多国籍企業の海外事業拠点での労使紛争が増加している。方針は、直近の労使紛争の実態なども踏まえた、中核的労働基準の順守に対する理解活動と建設的な労使関係の構築に向けて取り組むとしている。

一方、組織の強化に関しては、連合金属部門連絡会の活動の充実に向けて、役割と機能のあり方を検討する必要性や、地方連合会に設置されている金属部門連絡会の活動内容の精査と平準化、教育活動の推進や広報活動の抜本的な見直しなどを提起している。

「第3次賃金・労働政策」を確認

大会では、「第3次賃金・労働政策」も確認した。金属労協は「1980年代末にバブル経済が崩壊し、失われた20年と呼ばれるデフレと低成長・マイナス成長のなか、雇用の移動が不利にならない長期安定雇用(ヒューマンな長期安定雇用)を基本に、賃金の下支えを強化しながら、日本の基幹産業である金属産業にふさわしい賃金水準を実現するとともに、ワーク・ライフ・バランスを実現する」観点で、1997年に「賃金・労働政策」、2004年には「第2次賃金・労働政策」を策定してきた。

今回は、就業者の減少や非正規労働者の拡大、構造的な労働力不足等の取り巻く環境や賃金動向の変化などに対応するため、① 雇用の安定を基盤とした多様な人材の活躍推進 ② 「同一価値労働同一賃金」を基本とした均等・均衡待遇の確立 ③ ワーク・ライフ・バランスの実現――を3本柱に、2020年代前半までを念頭に置き、労働組合として取り組むべき具体的な課題を提起している。

「同一価値」の職務遂行能力を必要とする労働に「同一賃金」を適用する

3つの柱を詳しく見ていくと、「雇用の安定を基盤とした多様な人材の活躍推進」は、長期雇用安定を基本的に維持しつつ、転職や雇用の移動が勤労者に不利にならないシステムを追求する。非正規労働者については、積極的な正社員への転換を推進。有期雇用や派遣労働でも、雇用の安定が図られるとともに、職務遂行能力の向上を反映した賃金・処遇を求めていく。

「『同一価値労働同一賃金』を基本とした均等・均衡待遇の確立」では、ILOが「同一価値の労働」の評価基準として挙げる、知識・技能、負担、責任、ワーキング・コンディションに則り、あらゆる勤労者間の「同一価値労働同一賃金」を基本に、均等・均衡待遇の確立を目指す。

同政策について相原議長は、「特に『同一価値労働同一賃金』について、金属労協としての考え方を整理した。金属労協の提唱する『同一価値労働同一賃金』は、知識・技能、身体的・精神的負担、責任、職場環境などを判断基準として『同一価値』の職務遂行能力を必要とする労働に対して、『同一賃金』を適用していこうというもの。理解を深め、それぞれの場で生かして欲しい」と述べている。

一方、「ワーク・ライフ・バランスの実現」に関しては、やりがいを持って充実した職業生活を送ると同時に、過程における役割や社会貢献、地域活動、自己啓発などの個人の生活と調和を取ることができる働き方の実現を追求する。様々な両立支援制度をさらに充実させるとともに、制度を利用しやすい職場環境野整備や公正処遇に取り組む。

賃金制度の確立を

第3次賃金・労働政策は、賃金制度の整備やあるべき賃金水準、格差是正の観点からも言及している。

まず、1990年代後半以降に見られる賃金水準の低下の原因の一つに、「昇級基準が不明確なことや賃金表がないことなどが挙げられる」と指摘。「賃金制度が未整備な場合、その確立に取り組む」とともに、当面は賃金実態の把握と賃金分布の分析を通じて、「賃金構造維持分を明確にし、その確保に努める」とした。

そのうえで、定期昇給制度などによる賃金構造維持分は、「勤続年数の増加による職務遂行能力の向上を反映し、かつ増加する生計費に対応して昇給する仕組みであり、引き続き維持していく」ことを明記するとともに、「一定程度の賃金水準に達すると、昇給する者が極端に少なくなるような制度ではなく、職務遂行能力の向上を適切に反映する制度にしていく」方向性を提示。賃上げに関しては、「賃金表の書き換えなど、賃金制度上の反映を行っていく」としている。

また、非正規労働者に関しても、「賃金制度を整備し、賃金表の作成、賃金の決定基準の明確化、習熟による職務遂行能力の向上の反映などを行い、同一価値労働同一賃金を基本とした正社員との均等・均衡待遇を確立する」考え。生活関連手当については、「支給条件が性別や勤務形態、雇用形態などに中立であることに留意する」。

日本の金属産業が目指す賃金水準は、「先進国である日本の基幹産業を担うにふさわしい賃金水準」を実現する観点から、「全産業の上位水準を目指していく」考え。その確立と企業規模間の賃金格差の是正に向けて「基幹労働者の個別(銘柄別)賃金水準」を重視する。具体的には、「基幹労働者(技能職35歳相当)」の「目標水準(各産業をリードする企業の組合が目指すべき水準)」、「到達水準(全組合が到達すべき水準)」、「最低水準(全組合が最低確保すべき水準)」を示し、個別賃金の取り組みを強化する。

継続的な賃上げの裏付けを補強

賃上げについては、個人消費の拡大を促し、経済の好循環を図ることに加え、上記の「基幹産業にふさわしい賃金水準の確保」や「人への投資」、「勤労者に対する適正な配分の確保」などの観点から「今後も積極的に取り組んでいくことを基本」に、中小企業や非正規労働者などの「底上げ・格差是正」を最重要課題として取り組む。

さらに、継続的な賃上げの必要性の裏付けについて、「実質賃金を維持するため、過年度消費者物価上昇率を賃上げに織り込んでいく」ことや、「賃上げに関して、賃金表の書き換えなど、賃金制度上の反映を行っていく」こと、「賃金構造維持分、昇進昇格原資、ベアの区分を明確にして、着実にベアを確保する」こと、「重点的な配分については、労使で適切に協議しつつ、組合員全体の賃上げが行われる」こと――などの補強を行う考えを示している。

このほか、同政策は企業規模間の賃金格差是正やミニマム運動の推進、一時金や労働諸条件への対応、付加価値配分のあり方などについても、考え方を示している。