第7次賃金政策の策定に向けた検討へ/電機連合の新運動方針

(2016年7月6日調査・解析部)

[労使]

電機連合(有野正治委員長、約62万人)は4、5の両日、神奈川県横浜市で定期大会を開催し、向こう2年間にわたる新運動方針を決定した。2009年に確立した「第6次賃金政策」にかわる新たな賃金政策の検討に着手し、2018年の大会で素案を提示するとしている。大会では、「2016年総合労働条件改善闘争の評価と課題」を確認し、今後の賃金の取り組みについて、「社会性の観点からの取り組みを行っていく必要がある」と明記した。役員改選では、3期6年の任期を務めた有野委員長が退任し、後任に野中孝泰書記長を選出。新書記長には神保政史副委員長が就任した。

「エイジフリー」や「同一労働同一賃金」の実現を展望

方針によると、第7次となる新賃金政策の策定に向け検討を開始し、18年大会で素案を組合員に提示。19年大会で確立するとしている。現行の賃金政策は、2009年大会で確立した第6次賃金政策。第6次政策では、長期安定雇用を前提とするものの、適切な労働移動にも対応できる「仕事基準」による公正な賃金決定システムとすることを基本的な考え方に据えた。賃金制度の基本フレームは、「一般職群」と「専門・専任・管理(監督)職群」に区分したキャリアステージ別の賃金体系とするとしている。概ね35歳相当までにおける早期立ち上げカーブを形成するとし、要求方式と要求基準では、個別賃金要求方式のもとで「目標水準」への達成をめざして水準の改善をはかることなどを基本的な考え方とした。

2015年闘争から、加盟組合の労働条件向上の目標となる「政策指標」(目標基準や到達基準など)や「ベンチマーク指標」(自組合の立ち位置を理解するもの)を電機連合本部が示すようになったのは、この現政策の考え方に沿ったものだ。

方針は、新賃金政策に向けた検討に着手する理由として「この間、社会・経済情勢の変化などにより、雇用・労働市場をめぐる環境は大きく変化しており、こうした環境変化に対応した賃金決定のあり方など処遇政策全体の見直し・補強が求められている」と指摘。「とりわけ『エイジフリー社会』を展望した雇用システムの構築や『同一価値労働同一賃金の実現』などの検討が求められている」と主張している。

データの共有で産別統一闘争の強化を

方針によれば、このほか、産別統一闘争の強化に取り組む。すでに運用している「政策指標」や「ベンチマーク指標」の充実を図るとともに、内部共有する各組合の要求・回答データに、グループ一括加盟の各構成組合の要求・回答データも追加することを検討するなどとしている。

来年の総合労働条件改善闘争に向けては、従来どおり、「賃金・一時金を中心とした取り組みとする」とし、8月の政策委員会で要求基準のあり方などについての課題提起からスタートし、12月までに方針案をとりまとめるとしている。労働協約の改定年にあたる2年後の18年闘争では、加盟組織が一体となって取り組む産別統一闘争課題として、「エイジフリー社会を展望した雇用のあり方」や「非正規労働者の公正処遇の実現」などを掲げた。

さらに、多様な働き方に対応した均等・均衡処遇をめざし、「同一価値労働同一賃金」の実現に向けても取り組む。「同一価値労働同一賃金」は、現行の賃金政策でも明記されている基本方針であり、電機連合もこれまで、「スキル・能力基準」による個別賃金要求方式による賃金水準の産業内平準化などに取り組んできた。方針は、正社員の賃金についてだけでなく、パートタイム・有期契約労働者などの直接雇用の非正規労働者の処遇についても「同一価値労働同一賃金」の観点から取り組むと強調。具体的な取り組みは今後検討するものの、通年の取り組みや闘争での処遇改善を通じて取り組みを強化するとしている。エイジフリー社会の実現に向けても、希望する人が年齢に関わりなく働き続けられるための多様な働き方や処遇のあり方などの総合的な施策の検討を行うとした。

継続的な賃上げがモチベーションの維持・向上につながる

大会ではまた、今春闘の総括である「2016年総合労働条件改善闘争の評価と課題」を報告し、確認した。今季、電機連合は賃上げの統一要求基準を、「開発・設計職基幹労働者賃金」ポイントでの3,000円以上の水準改善と設定。交渉の結果、中闘に参加した11組合すべてが1,500円の水準改善を確保した。評価と課題は回答内容とその評価について、賃金では「経済の先行きが不透明であり、企業業績のばらつきが大きいなかで、デフレ脱却と経済の好循環実現に向け、電機労使に課せられた社会的役割と責任を果たすうえで、ぎりぎりの水準であったと考える」と総括し、「今回、継続的な賃上げが行われたことは、マクロに一定程度寄与し、『人への投資』によるモチベーションの維持・向上にもつながるものであると考える」と評価した。

「政策指標」と「ベンチマーク指標」を活用した産業内格差改善の取り組みについて、評価と課題は「産業内格差改善や賃金水準の歪是正について、直加盟組合のうち、33組合が取り組みを行った」とし、4月28日現在で、22組合で前進が図られたと報告。一時金については、直加盟組合全体で年間月数で回答を引き出した45組合のうち、8割弱(76%)となる34組合が産別ミニマムである4.0カ月を確保したと報告した。一方、仕事と介護・育児の両立支援については、今回、電機連合では加盟組合全体で「介護」を統一目標基準として位置付け取り組んだが、「制度整備のみならず独自の経済的支援を導入した組合など、一歩踏み込んだ対応も出てきている」として、「『仕事と介護の両立支援に真剣に取り組んでいく』という気運を高め、職場風土を醸成することにつながったと考える」と前向きに評価している。

一方、今後の課題として、賃金については、今後も「社会性の観点からの取り組みを行っていく必要がある」と強調するとともに、今後の総合労働条件改善闘争について、「『社会的責任型闘争』として位置づけ、継続的な取り組みを推進していく必要があると考える」と明記した。産業別最低賃金(18歳見合い)の改善については、今回は現行水準の1,500円引き上げを果たしたものの、「その水準のあり方については、経営側との価値観の違いは依然として残っている」と振り返った。

賃金水準改善を基軸にしながらも、社会性を強めた闘争が考えられる/有野委員長

あいさつした有野委員長は、2016年闘争について(1)要求議論の重要性(2)統一闘争の一層の強化(3)デフレ脱却に向けた政労使の役割――の3つの観点から振り返り、要求議論の重要性について「今次闘争における要求方針について、連合、金属労協、電機連合それぞれの要求の整合性が分かりにくい、という意見があった。連合は闘争全体の枠組みを形成する役割、金属労協は闘争の牽引役としての位置付け、また電機連合は産業情勢を踏まえながら相場形成する社会的役割など、これまでの歴史の中で形成された責任と役割がある。その役割を踏まえ、要求方針を決定することになるが、賃金引き上げ要求に関しては物価上昇分を基本とする考え方に加え、近年、私たちが主張しているマクロ経済に与える影響、格差是正など様々な要素を加味して要求を組み立てていくことが求められる時代になった」と述べながら、「こうした時代にあって、要求方針を決定するにあたっては十分な議論が重要となる」と強調した。

統一闘争の強化については、今回、中闘組合が1,500円の賃金水準改善を獲得できたことに対し「まさに統一闘争の成果であると同時に、産別労使の丁寧な交渉努力によるものだ」と評価。ただ、経営側が主張する企業の社会的責任は業績の伸びが前提となっている点にも触れ、「今後の業績動向がますます不透明感を増してきている中、企業内のミクロ的な視点に埋没することなく、今後も電機産業労使が社会的役割と責任を果たしていくために、まず電機連合として中闘組合の結束強化と労使の更なる信頼関係の構築が重要だ」と述べた。政労使の役割に関しては、消費税率引き上げの再延期などで社会保障に対する不安がさらに広がったなどとして、「デフレに絶対戻さないためにも政労使それぞれが果たすべき役割をしっかり果たすことが必要だ」と強調した。

また有野委員長は2017年闘争の展望についても語り、「『デフレ脱却』『経済の好循環実現』のためには、電機産業労使の役割と責任を継続して果たしていかなければならない。闘争の要求組み立てもこの3年間の流れを継続することが基本であると考えるが、賃金水準改善を基軸にしながらも、非正規労働者への対応、バリューチェーンにおける付加価値の適正配分、様々な好循環を生み出す経済システムの構築などより社会性を強めた闘争が考えられる」などと持説を展開した。

時代の潮流を見据えた賃金政策や雇用対策の強化を求める意見が

運動方針に関する討議では、村田製作所労連が現行の政策について、「第6次賃金政策は、電機産業の賃金として目指すべき水準が示され、一定の役割を果たしてきた」とする一方で、「昨今の社会・経済環境の変化に対応できるとは言いがたく、今日的に大きな課題になっているエイジフリー社会、同一価値労働同一賃金の政策の具現化の関与にも不十分であった」と指摘。これから検討を始める新賃金政策では、「今日的な課題について過去にとらわれることなく、時代の潮流をしっかりと見据えたビジョンを描いて欲しい」と期待の声を上げた。

また、三菱電機労連は、「個別企業において労働条件の改善を求める運動は、産別としてまとまった時に初めて、一労使の壁を越えて働く者全ての権利を守る社会性を身にまとえる。この3年間の統一闘争のなかで、それを強く感じた」と振り返ったうえで、「産業横断的な労働条件を上げていくことが、産別労働運動の最大の求心力。今後も産別運動の強化に努めていきたい」と発言した。

一方、日立グループ連合は、雇用問題に関して、「近年の事業構造改革に伴う人員施策を見ると、本当に雇用責任を果たしているかを問いかけたくなるものが多々ある。組織拡大ではザルで水をすくうがごとく、リストラで組合員が減っている」などと指摘。「大規模リストラに対して言及が少ない」として、方針の強化を求めた。

なお、加盟組合の報告では、1958年に結成し、かつて電機連合の中闘組合でもあった三洋電機労働組合が5月末に解散し、事業統合後に組織統合していたパナソニックグループ労連から6月30日をもって脱退したことが報告された。

野中委員長、神保書記長を選出

大会では役員改選を行い、3期6年、委員長を務めた有野委員長(日立グループ連合)が勇退。野中孝泰書記長(パナソニックグループ労連)が新委員長に選ばれた。書記長には、神保政史副委員長(三菱電機労連)が就任し、副委員長には中澤清孝氏(日立グループ連合)が就いた。

新執行部を代表して挨拶した野中委員長は、「難しい時代の労働運動を新体制で進めていく。その重責を思うと不安は多くあるが、信頼され頼りにされる産別運動を目指して、誠心誠意全力を尽くしていく」などと抱負を語った。