2年分で8,000円の賃金改善を要求/基幹労連のAP16取り組み方針

(2016年2月10日 調査・解析部)

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄、建設などの労働組合でつくる基幹労連(工藤智司委員長、約26万人)は9日、都内で中央委員会を開き、今春闘に向けたAP16春季取り組み方針を決定した。2016年度、17年度の2年分の賃金改善を求め、要求基準は2年分で「8,000円を基準」とした。鉄鋼大手などは12日に要求書を会社側に提出する。

基幹労連では、2年ごとに、2年分の賃金交渉を行ういわゆる「隔年春闘」を採用している。今春闘は、2016年度と17年度について賃上げ交渉する年にあたる。

基幹労連を構成する主な業種の最近の情勢をみると、鉄鋼業では世界的な供給過剰状態にあり、「中国経済の減速により世界中に中国鋼材が乱売されている」(工藤委員長)状況にある。新日鐵住金など鉄鋼総合メーカー4社の2015年度の業績状況は、各社とも経常利益が前年度より低い水準となっており、通期見通しの下方修正が相次いでいる。造船重機は、「事業分野ごとに状況に大きく差がある」(同)が、総合重工に関係する事業の2015年度上期決算は、全般的に増収増益となった。2015年度通期見通しも、全体的には連結ベースで増収増益基調となっている。非鉄は、「金属価格の下落が損益に影響を及ぼし」(同)ており、非鉄総合6社の連結での2015年度上期決算は、前年の増収増益から一転して減収減益に転じた。2015年度通期も、売上、経常利益ともに減少する見通しであり、住友金属鉱山では通期決算で14年ぶりとなる経常赤字が予想されている。建設は、復興事業やオリンピックなどで底堅い状況となっている。

ポイントは「全体の底上げ」「格差改善」がどれだけ波及できるか/工藤委員長

挨拶した工藤委員長は、デフレ脱却に向け、個人消費の回復や中間層の復活の必要性などを訴えたうえで、今春闘に向けて、「春闘の社会的側面はますます高まっている。基幹労連は、連合・金属労協(JCM)と一体となり賃金改善を行うことで『全体の底上げ』『格差改善』を行い、デフレからの脱却と経済発展の好循環実現をめざす」と強調。「AP16春季取り組みのポイントの1つは『全体の底上げ』『格差改善』がグループ全体、産業全体へどれだけ波及できるかであり、産別としての経営要請行動、親組合によるグループ組合への支援に力点を置いて進める」とし、「私を含め三役はどこへでもうかがうので全く遠慮なく要請してほしい」と呼びかけた。

方針をみると、定期昇給に関しては、制度的な定期昇給を実施し、制度がない組合でも定期昇給相当分を確保する。定期昇給制度が確立していない、または整備されていない組合は、制度化または同制度の整備に取り組む。

制度未確立の組合が取り組む場合の2016、17年度の定期昇給相当額については、年功的要素のみで、標準労働者(35歳・勤続17年)で3,700円と設定した。平均方式では、平均基準内賃金の2%相当を目安とする。

賃金改善では、「産別一体となって、2016年度・2017年度の中で2年分の賃金改善要求を行う」とし、要求額を8,000円基準と設定。具体的な設定方法については「業種別部会のまとまりを重視して要求を行う」として部会ごとによる柔軟性をもたせた。なお、業種別部会は、鉄鋼総合、総合重工、非鉄総合のほか、鉄鋼、特殊鋼、普通鋼など15部会に分かれている。

格差改善については、条件の整う組合が積極的に取り組むことにし、改善分の具体的な配分にあたっては基本賃金項目への配分をめざすとしている。

基幹労連の神田健一事務局長は、これらの要求設定について、継続的な賃上げの必要性、産業としての採用力の強化、産業の賃金の相対的位置、産別一体となって要求できる水準、組合員の頑張りへの対応、連合・JCM方針などを総合的に勘案した結果だと説明している。

企業内最低賃金の協定締結と引上げを

企業内最低賃金では、協定未締結の組合は新規締結に取り組み、締結済みの組合は、18歳最低賃金が「高卒初任給準拠、15万9,000円以上または月額2,000円以上の引き上げ」となるよう取り組む。また、非正規労働者を意識し、月間の所定労働時間を踏まえた時間額の協定盛り込みも図る。

年間一時金に関しては、産別として要求基準を示したうえで、各組合は「業種別部会でのまとまりを重視した要求を設定する」こととし、産別としての要求基準は「JCMの『年間5カ月分以上を基本』とする考え方をふまえ、要求方式ごとに設定する。要求方式を含めた基本的な考え方については、各業種別部会の検討にもとづき取り組みをすすめる」とした。

要求を組み立てる際には、従来どおり、構成要素を「生活を考慮した要素」と「成果を反映した要素」に区別して検討。具体的な要求基準は、金額で要求する方式では、「生活を考慮した要素」を「120万円ないし130万円」とし、「成果を反映した要素」を「40万円を基本に設定する」とし、「金額+月数」で要求する方式では、40万円+4カ月を基本とする。月数要求方式では5カ月を基本に、業績連動型決定方式を採用する場合は、産別が定めている中期ビジョンの考え方を踏まえた方式とする。

このほかの要求項目としては、退職金や労働時間・休暇、割増率、労災通災付加補償などを盛り込んだ。要求提出は、2月12日に集中して行うとし、要求提出ゾーンを同日~26日に設定した。

2年分の要求・交渉方法を業種別部会で選択可能な仕組みを評価

方針案の討議では、「大変厳しい局面で会社に対峙していくことになるが、鉄鋼総合組合として、中核的な役割を自覚し、マクロの視点そして生活を守る観点、さらに職場の課題解決などを主張しながら、最大限の取り組みを展開する」(JFEスチール労連)、「今次闘争における賃金改善については、2年分の要求を行うことを産別全体の枠組みで定めたうえで、具体的には業種別部会のまとまりを重視し、2年間のなかで要求・交渉方法を選択可能な取り組みとしている。このことは、各業種、単組がおかれた事情に合った対応であり、産別全体で全員がのれる船ができたと前向きに受け止めている。また、2年分の要求として8,000円を基準とし、総合重工部会としては16年度要求を4,000円としたことはJCMの3,000円以上の要求方針に合致するものであり、基幹労連全体、総合重工部会として賃金の復元に必要な改善額であるとともに、魅力ある産業・企業づくりと競争力の強化につながる内容だ」(川崎重工労連)、「月例賃金の改善1本に絞り、16年度4,000円、17年度4,000円を要求することを確認したところだ。月例賃金は生活の根幹を成すもの。物価上昇や賃金の社会性なども踏まえ、生活を守るために賃上げを図ることは労働組合の責務だ」(新日鐵住金労連)などの意見表明があった。