月額3,000円以上の引き上げを統一要求基準に/電機連合の闘争方針

(2016年2月3日 調査・解析部)

[労使]

電機各社の組合で構成する電機連合(有野正治委員長、約62万1,000人)は1月28、29の両日、横浜市で中央委員会を開き、開発・設計職基幹労働者を要求ポイントとする賃金水準引き上げの統一要求基準を、3,000円以上とする2016闘争方針を決めた。中央委員会では、構造改革に取り組むシャープの労働組合が産別統一交渉から離脱する方向にあることも明らかにされた。2月22日の中央闘争委員会で正式決定する。

中堅・中小組合への支援強化で波及効果の拡大を/有野委員長

電機連合の春闘は、本部と日立製作所、パナソニック、三菱電機などの大手組合で構成する中央闘争組合で「中央闘争委員会」を設置。中闘組合はストライキ権を中央闘争委員会に委譲し、要求から交渉スケジュール、回答まで足並みを揃えて統一闘争する。産別全体としては、中闘組合が引き出した回答を、グループ加盟の各組織や、準大手組合で構成する拡大中闘組合、地場の主要労組である地闘組合へと相場を波及させる取り組みを展開する。

2015闘争での賃金水準改善の波及効果をみると、中央闘争組合13組合のうち、統一闘争を離脱したシャープ労組を除く12組合が有額回答を引き出した(引き出し率92%)。その後、拡大中央闘争組合23組合のうち20組合(同87%)、地闘組合でも128組合中63組合(同49%)が有額回答を引き出している。2014闘争での有額回答の引き出し率は、拡大中央闘争組合が83%、地闘組合も41%だったことから、波及効果の拡大傾向がうかがえる。

こうした状況について、有野委員長はあいさつで、「『ベア実施組合』は着実に増加している。この流れを止めないためにも、今次闘争における中堅・中小組合への支援強化を図り、波及効果の拡大に全力を尽くしていく」と強調した。

3年連続で賃金水準の引き上げを要求

2016の闘争方針では、賃金水準の引き上げと産業別最低賃金(18歳見合い)の水準改善、一時金を中闘組合の「統一要求基準」に据えた。

賃金水準の引き上げは、開発・設計職基幹労働者(30歳相当)の賃金を3,000円以上引き上げることを要求基準とした。電機連合は2015闘争で、賃金水準引き上げの要求基準に6,000円以上を掲げ、3,000円の引き上げを獲得した。今回で賃金水準の引き上げ要求は3年連続になるが、要求額は前年の半分にとどめた格好。産業別最低賃金(18歳見合い)については、現行の協定水準である15万8,500円を2,000円引き上げて16万500円に改善することを求める。一時金は前年同様、平均で年間5カ月分を中心とし、「産別ミニマム基準」を年間4カ月に設定する。

有野委員長は今回の要求設定について、「2015年闘争との比較では要求水準を下げているが、連合や金属労協の方針、そして電機連合の賃金政策に基づき、賃金決定の3要素である生計費、生産性、労働市場を勘案し、さらに今次闘争で果たすべき社会的役割を認識し、主体的に決定した」と説明した。

また、経団連の経営労働政策特別委員会報告が2016年交渉の基本スタンスとして「デフレからの脱却と持続的な経済成長の実現に向け、経済の好循環を回すという社会的要請がある」としていることに触れながら、「交渉に対する取り組みスタンスは組合とベクトルが合っているかに見える。しかし、電機産業を取り巻く情勢の厳しさが増していることや、企業間の業績のバラツキがこれまでになく大きくなっていること、さらにこの2年間の交渉で既に賃金水準改善5,000円を獲得し、実績も積み上がっていること等を考えれば、決して楽観できる状況にはない」と指摘。「賃金の社会性が大きいこともあり、産別労使交渉では、まず入り口でのマクロ論や電機連合の統一闘争の意義について認識合わせをしっかりしておきたい」との決意を示した。そのうえで、「個人消費への影響が大きい月例賃金の引き上げが不可欠とする労働組合の考えとの溝をいかに埋めていくかも交渉のポイントだ」と述べた。

年齢別最賃を2,000円引き上げて一律の底上げを

一方、統一的に取り組むものの、ストライキの行使を背景とはしない「統一目標基準」の取り組み項目では、製品組立職基幹労働者(35歳相当)の賃金の水準引き上げや、年齢別の最低賃金、高卒・大卒の初任給、技能職群(35歳相当)のミニマム基準で、それぞれ要求基準を設定した。

製品組立職基幹労働者賃金の水準引き上げは、具体的な金額で設定することはせず、「開発・設計職の水準改善額に見合った額」とした。

25歳最低賃金は、現行水準を2,000円引き上げて17万9,500円以上の水準を要求。40歳最低賃金も同様に、現行水準を2,000円引き上げて22万6,500円以上とすることを求める。

高卒初任給では、現行水準を1,500円引き上げて16万1,500円以上とするよう要求。大卒初任給は2,000円引き上げて21万1,000円以上の水準に改善するよう求める。

電機連合では、各年齢別最低賃金の引き上げ幅を2,000円で揃えることで、一律の底上げを図る構え。ただし、高卒初任給の引き上げ幅に関しては、「現行で差が生じている高卒初任給と(企業内のミニマム基準である)産業別最低賃金の格差を縮小させる」(野中書記長)から1,500円としている。

このほか、技能職群のミニマム基準は、金属労協が設定する「JCミニマム(35歳)」を念頭に設定した。

統一闘争強化に向け指標の浸透を図る

電機連合は2015闘争から、統一闘争を強化する目的で、「何としても守るべき領域」と「各組合が業績や処遇実態を踏まえ、主体的に処遇改善に取り組む領域」の2つの領域を設定している。

「何としても守るべき領域」は、賃金の引き上げや一時金、最低賃金が該当し、これまでどおり、闘争行動を背景に取り組む。

一方、「主体的に処遇改善に取り組む領域」では、各組合が「達成プログラム」を立てて、それに向かって交渉を推進する。その際、各労働条件の項目について数段階の目標数値を設定する「政策指標」と、各組合の電機連合内での立ち位置を検証・確認して、政策指標への到達に向けた取り組みの指標とする「ベンチマーク指標」を電機連合が提起し、取り組みを進めることとしている。

「政策指標」は、基本的に数年単位で検証・見直しを行うもの。たとえば、開発・設計職基幹労働者賃金では、「必達基準」を25万円、「到達基準」を27万円、「目標基準」を31万円、「中期的にめざす目標基準」を35万円に設定している。各組合は、達成できていない上位の目標基準をめざして、継続的に取り組む。他方、「ベンチマーク指標」は、本部が各労働条件項目について毎年、電機連合加盟組合の実態調査をもとに作成する。

2015闘争後に実施したアンケート調査では、34組合が政策指標やベンチマーク指標を格差是正等の取り組みに活用したという。今次闘争では、さらなる指標の活用による統一闘争強化の考え方の浸透を図りたい考えだ。

バリューチェーン全体での付加価値の適正配分を目指す

今年は、2年に一度の労働協約関連項目に取り組む年にあたることから、ワーク・ライフ・バランスの実現や、すべての労働者がいきいきと働ける環境づくりなどにも取り組む。

ワーク・ライフ・バランスについては、「働くことと介護・育児の両立を図る支援策の強化に取り組むとともに、介護・育児・女性活躍の土台として長時間労働を解消し、働き方改革を実現することも大変重要」(有野委員長)とのスタンスで臨む考え。すべての労働者がいきいきと働ける環境づくりでは、派遣・請負労働者、パートタイム労働者等の雇用安定や均等・均衡処遇等、「非正規労働者全般の課題について議論する労使協議の場の設置と、課題解決に向けた具体的な議論を求める」(同)。

このほか、政策・制度の取り組みでは、公平・公正な配分実現による格差是正等の観点から、中小企業やグループ内企業、取引先サプライヤーも含めたバリューチェーン全体での付加価値の適正配分を目指す取り組みを推進する。

シャープ労組は統一闘争離脱の方向

中央委員会の2日目、闘争方針案を提案した後、本部の野中孝泰書記長は、シャープ労組が統一闘争から離脱する方向であることを明らかにした。野中書記長は、「同社では構造改革に取り組んでいるところだが、いまだ再生途上にある。必ずや再生を実現する。その覚悟をもって委員長から相談があった。職場の実態を最優先に考えた対応として、以下の3点を提案したい」とし、 (1) 同労組には2016年においても、中闘としての使命を果たして欲しい、 (2) そのうえで、2016年闘争における中闘組合としての役割と責任を凍結する、 (3) 正式には2月22日の第1回中闘委員会で確認することになる――と述べた。

闘争方針に関する討議では、7労組が発言。三菱電機労連は「官製春闘などと言われるが、2014、15の電機連合の統一交渉でのベア決着は、労使が議論し、悩み抜いた結果であり、だからこそ賃上げ相場をつくる力を持った」などと強調しながら、「今年の春闘は労働組合の要求が弱いのではないかとの論評を目にした。本当に心外だ。こういう論調は、賃金は政府と経営者が決めて、組合は賃金決定に関わるべきではないという労組の社会的役割を認めたくない政権の意図を反映したものだ。しかし、賃上げは労使が真剣に向かい合って導き出した結果であり、責任ある結果を導ける労使間だからこそ価値がある。健全な労使関係が日本社会の発展に欠かせないことを示す交渉にしたい」と決意を語った。全富士通労組は「中国リスクの高まり、米国の利上げ、原油価格の低迷、為替動向など先を見通すことが難しく競争環境も大きく変化しており、電機産業各社の業績が従来にも増してばらついているなかで、富士通グループもIoT時代に向けたビジネスモデルの変革のなかにあって、足元の業績は不透明となっている。しかし、いっそう豊かな社会を実現する基幹産業としての責任と、デフレ脱却と経済成長に向けた社会的責任という認識のもとで、統一闘争の下でグループを含めて全力を尽くしたい」などと発言した。

中堅・中小労組を代表して発言したダイヘン労組は「14、15年と賃金改善を獲得したものの、賃金水準の格差は規模間で広がっており、産業内格差にかかる取り組みの難しさを感じさせた。16年は3年連続の賃金改善に向けた取り組みであるが、物価が上がっていない状況や中国リスクによる先行き不安もあることから、交渉環境は厳しい」と述べながら、交渉時の中堅・中小労組に対する本部や地協の迅速な支援態勢を要望した。

日立グループ労組も統一闘争の重要性を訴え、「底上げと高位平準化が統一闘争の意義であり、重要なところだ。バラバラに賃金決定していたら企業間格差が拡大する」など強調した。

加盟組合は2月18日までに要求書を経営側に提出する。