2%基準の賃金引き上げを要求/UAゼンセンの労働条件闘争方針

(2016年2月3日 調査・解析部)

[労使]

国内最大の産別労組であるUAゼンセン(逢見直人会長、約154万人)は1月28日、都内で中央委員会を開き、2%基準の賃金引き上げを基本とする2016労働条件闘争方針を決定した。方針は「積極的に実質賃金の向上を目指す」としている。短時間(パートタイム)組合員についても、昇給昇格分に加えて2%基準の賃金引き上げを要求するとした。

UAゼンセンでは部門制で組織運営しており、部門は「流通部門」「製造産業部門」「総合サービス部門」――の3つに分かれている。流通部門は、スーパーや百貨店など小売が中心で、製造産業部門は主に繊維、化学、医薬などの単組で構成。「総合サービス部門」は専門店や外食チェーンなどで構成する。春の賃金闘争では、UAゼンセンが全体の方針を確立したうえで、同方針に基づいて各部門がそれぞれ要求内容を策定する。

積極的に実質賃金の向上を目指す

UAゼンセンが決定した闘争方針は、2016賃金闘争に対する要求の考え方について「2012年末から始まった景気回復の中で、企業の利益は最高益を更新する一方で、一般労働者の所定内賃金は微増で物価上昇に追いつかず、実質では2012年に比べて4%以上の減少となっている。経済の先行きに不透明感が広がる中、デフレ脱却を確実に図るために、継続的な実質賃金の向上が社会的に求められている」と、実質賃金維持の視点を強調。「2016賃闘においては、賃金体系維持分に加える賃金引き上げ分として、過年度物価上昇分に、実質生産性の伸びに相当する生活向上分、格差是正分を加えて2%基準の要求をし、積極的に実質賃金の向上を目指す」と打ち出した。

最低でも実質賃金の維持、そのうえで賃金の引き上げ/島田会長代行

あいさつした逢見会長は2016労働条件闘争について「今年の交渉は2014年、15年と続いたベアを含む賃上げの流れを確実なものとし、実質賃金を引き上げていくための重要な闘いになる」と強調。「個人消費は依然、力強さを欠いており、勤労者統計が賃上げを実感できなければ、デフレ脱却は遠のいてしまう。日本経済を取り巻く環境は、中東における緊張の高まり、中国経済、新興国経済の減速懸念など不安定材料もあるが、悲観論に陥ると、ますます経済の委縮を招くことになる。要求の根拠をしっかり確認し、納得のいくまで粘り強い交渉を続ける決意が必要だ」と訴えた。

会長に続いて挨拶した島田尚信会長代行は、今回の賃上げに対するUAゼンセンの考え方について「最低でも実質賃金の維持、そのうえで賃金の引き上げだ。消費者物価の上昇があれば、それと同等の賃金引き上げを実施しないと、これまでと同じものを購入することができなくなるということだ」と説明し、「まずは実質賃金を取り戻し、そのうえで世間より低い賃金の是正、生活水準の向上を要求し、勝ち取らなければならない」などと強調した。

3段階の賃金水準の指標を提示

UAゼンセンでは、組合員の約54%を、パートタイマーなどの短時間組合員が占めており、要求基準は、正社員(フルタイム)組合員と、短時間(パートタイム)組合員それぞれについて設定している。

正社員(フルタイム)組合員から、要求設定の考え方や要求基準をみていくと、【ミニマム水準】、【到達水準】、【目標水準】という3段階の賃金水準の指標を産別本部が提示し、部門要求基準を踏まえ各組合がこれらの指標への到達具合によって異なる要求を設定する形式を採っている。

【ミニマム水準】とは「最低限超えるべき賃金水準」との位置付け。金額は、「高卒35歳(勤続17年)」、「大卒30歳(勤続8年)」ポイントともに24万円に設定した。

【到達水準】は「すべての加盟組合が到達をめざす社会的水準」との位置付けで、高卒ポイントは「25万5,000円を基本に部門ごとに設定」するとし、大卒は「25万円を基本に部門ごとに設定」するとした。

【目標水準】は、「中期的に目指す賃金水準」との位置付けで、高卒・大卒ポイントそれぞれ「部会(業種)ごとに設定し、各部門で決定する」とした。

ミニマム水準未達の組合は9,500円を基準に

平均賃上げでの要求基準は、現行の賃金水準が【ミニマム水準】に未達の組合または水準不明の組合は、「賃金体系維持分に加え、2%程度の賃金引き上げを基本とし、賃金体系維持分を含めた要求総額は9,500円または4%を基準とする」とした。なお、同方式で要求額を組み立てた結果、要求総額が9,500円または4%基準に満たない場合は、格差是正を図る目的から可能な限り額を上乗せするとした。

【到達水準】に未達の組合は、同様に2%程度の賃金引き上げを基本としながら、「部門ごとに要求基準を設定する」とした。

そして、すでに賃金水準が【到達水準】以上に達している組合については、「『2%基準の賃金引き上げ』には、格差是正の考え方が含まれることを踏まえ、部門ごとに要求基準ならびに目標水準を設定する」とした。

なお、闘争方針は、賃金体系維持分が明確でない組合や、同分が低い組合は、同分を「4,500円を目安に要求する」としている。

到達水準以上の組合は一定部分を総合的な労働条件改善にすることもできる

また、【到達水準】以上に達している組合の要求については、部門の判断によって、要求基準のうち一定部分について、「総合的な労働条件の改善として要求できる」ようにした。これを受けて流通部門は、賃金体系維持分が区別できている組合は引き上げ額で2,500円を超える部分、区別できていない組合は全体の賃上げ額で7,000円を超える部分について「所定労働時間短縮・一時金・賃金換算可能な福利厚生等」の要求を賃金要求に含むことができるようにした。

2016年度採用者の初任給の要求基準については、昨年と同様、高卒を「16万5,000円基準」、大卒を「20万6,000円基準」とした。

企業内最低賃金では、現行の最低賃金を2%基準に引き上げるとし、最低賃金額は昨年要求から3,000円積み増して15万5,000円とした。

短時間組合員の要求は格差是正の観点で積極的な上乗せを

一方、短時間(パートタイム)組合員の要求内容をみていくと、「格差是正の観点も踏まえ、積極的に上乗せの要求を行う」との考え方の下に、平均賃上げでの要求基準は「昇給昇格分に加えて2%基準の賃金引き上げを要求する。昇給昇格分が明確でない場合、昇給昇格分を含めて3%基準の引き上げを要求する。その上で、要求設定の考え方を踏まえ、積極的に上乗せの要求をする」とした。

また、仕事内容や職責、働き方に応じた要求基準も示し、<正社員と職務の内容が異なる短時間組合員>については、「昇給昇格分に加えて2%基準の賃金引き上げを要求する。昇給昇格分が明確でない場合、昇給昇格分を含めて3%基準の引き上げを要求する」、<正社員と職務の内容が同じ短時間組合員>については、「昇給昇格分に加えて2%基準の賃金引き上げを要求する。昇給昇格分が明確でない場合は、昇給昇格分を含めて3.5%基準の引き上げを要求とする」、<正社員と同視すべき短時間組合員等>については、「パート労働法の規定を踏まえ、正社員組合員と同じ制度、考え方に基づいて賃金引き上げを要求する」とした。

一時金は年間4.8カ月を基準に

期末一時金についてはこれまで、春の労働条件闘争とは別方針で組み立てていたが、今期から労働条件闘争方針のなかに組み入れた。

正社員(フルタイム)組合員の要求基準は、年間協定の場合、4.8カ月を基準、各期別に要求する場合は「夏期2.4カ月基準、冬期2.4カ月基準」をもとに各部門で決定することにした。短時間(パートタイム)組合員の要求基準は年間2カ月基準とし、正社員と職務内容が同じ組合員は3カ月基準とした。

このほかの項目では、労働時間の短縮や労災付加給付の改定など。時短では、2016年から国民の祝日が1日増えることなども踏まえ、まずは、年間労働時間が2,000時間を超えない取り組みを展開する。

労災付加給付金では、業務上災害の遺族見舞金について、有扶養者で3,400万円などを要求するとした。

闘争の進め方では、原則として全ての加盟組合が闘争に参加することとし、昨年、妥結権を中央闘争委員会に集約する「統一賃上げ闘争」に参加できなかった組合は、妥結権を中闘に集約しない「賃上げ闘争」に登録することも認めるが、統一闘争への参加を推進していくとしている。統一闘争に参加できていないのは、組織統合前にサービス流通連合(JSD)に加盟していた単組の一部。ただ、その数は毎年減ってきている。要求書の提出は2月末日までとした。

1月29日には、3部門すべてが部門別要求基準を決定した。