2016年も継続的な賃上げが必要/金属労協の定期大会

(2015年9月2日 調査・解析部)

[労使]

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5産別組織でつくる金属労協(JCM、約202万人)は1日、都内で定期大会を開催し、2016年度活動方針を確認した。挨拶した相原康伸議長(自動車総連会長)は、2016年闘争に向けて、継続的な賃上げを図るための議論を進めていく考えを提起した。

「ベースアップを含めて賃上げの検討進める」(相原議長)

金属労協は2015年闘争において、「6,000円以上の賃上げ」の額による要求を掲げた。JCM全体での賃上げ獲得組合数、平均賃上げ額は、ともに前年の実績を上回った。挨拶した相原議長は、こうした2015年闘争の結果について「継続的な賃上げによって、経済の好循環実現と生活を守るという2015年闘争の意義からみて、着実な成果をあげることができた」と評価した。全体集計では賃金構造維持分を確保した2,137組合のうち、1,607組合が平均1,751円の賃上げを獲得し、昨年を431円上回っている。

2016年闘争に向けた現下の取り巻く情勢については、「2015年度の経済見通しは8月時点の民間調査機関の予測の平均で成長率1.2%、消費者物価上昇率0.3%となっている。世界経済の不安定要素や中国・新興国の経済動向には、より一層の注視が必要だが、一方で、デフレを脱却し、日本経済を何としても持続的な成長軌道に導く重要性は変わりない」との見方を示した。

そのうえで、「超円高の是正局面以降、全体として企業業績の改善が進むなか、個人消費の回復は遅れている。2年連続の賃上げにもかかわらず、消費拡大につながっていないとの見方があることは承知する一方、だからこそ、実質可処分所得の向上に向けた継続的な賃上げにより、消費マインドの改善につながる家計の基盤整備を進める必要がある」と継続的な賃上げの必要性を強調。「金属労協としては、国内外の経済動向や各構成組織の取り組み課題などを十分に踏まえつつ、今後、2016年闘争に向けて、ベースアップをはじめとする賃金引き上げについて検討を進めていく」と明言した。

向こう1年間の活動方針を確認

大会で確認した2016年度活動方針は、賃金の取り組みについて「2016年闘争では、2014年、2015年の取り組みをさらに前進させ、継続的な賃上げによる勤労者生活の維持・改善、経済の好循環実現と金属産業の基盤強化に資する賃上げを図るべく、議論を尽くしていく」と強調。一方、一時金については、「業績にふさわしい、適正な成果配分を実現するため、年間5カ月分以上を基本とし、年間4カ月分以上を最低獲得水準として取り組む」とした。

金属労協では、企業内最低賃金協定の締結・水準引き上げ、その成果を特定(産業別)最低賃金に波及させることによる賃金底上げ、金属産業で働くすべての労働者が、35歳ポイントで21万円(月給)をクリアすることをめざす「JCミニマム(35歳)」の3つを「JCミニマム運動」と位置付けて展開しており、方針は、未組織労働者や非正規労働者も含めた賃金・労働条件改善を意識して運動を強化するとしている。

賃金についてはまた、近年の環境変化を踏まえ、金属産業における企業間・企業内の付加価値配分のあり方や、同一価値労働同一賃金の考え方、賃金・労働条件にかかわる諸課題などについて、JCM内の労働政策委員会で検討し、「第3次賃金・労働政策」をとりまとめることを打ち出した。JCMでは、来年の定期大会で提示したいとしており、方針提案した浅沼弘一事務局長は同一価値労働・同一賃金の確立など「正規以外の労働者についても何らかの方針が示せたらいいと考えている」と説明した。

政策・制度要求関連では、来年4月に「2016~2017年政策・制度要求(仮称)」を策定するが、策定にあたっては、ものづくり環境を支えるマクロ環境整備や現場力の強化、良質な雇用の確立といった内容が引き続き中心となるものの、適正取引確立に向けた公正取引委員会の対応強化やI o T(Internet of Things)やI o E(Internet of Everything)推進に向けた政府による環境整備などの項目についてとくに検討を深めていく方針だ。

なお、I o TやI o Eについては、ものづくり産業としての戦略を検討するうえで、そのシステム設計や実際の運用にあたっての現場力の活用などについて考え方を整理していくとしている。

国際産別組織「インダストリオール」加盟組織間の連携強化

国際労働運動では、日系企業の海外事業拠点での労使紛争が増加していることなどから、海外労組と日本の労組が一同に会するネットワーク会議の設置を見据え、例えば個別労組と欧州従業員代表委員会との交流など、日系多国籍企業の労働組合のネットワーク構築に向けた取り組みを進める。

金属労協の上部団体である国際産別組織のインダストリオール(本部:ジュネーブ)への対応では、国内組織間の連携強化を図る。インダストリオールがもともと複数の国際産別組織が統合して誕生した経緯から、現在、国内の加盟組織は、金属労協とインダストリオール・JAF(日本化学労組協議会)、UAゼンセンの3つに分かれている。

3組織は、国際機能の一元化を見据え、これまで担当者が同一の場所で勤務を開始し、定期的に情報交換の場をもってきた。今年に入り、3組織は、国際機能を一元化する具体的な検討に入ることで合意。インダストリオールは2016年10月に第2回世界大会を開催する予定だが、3組織は同大会をめどに、1)一元化する業務の範囲とそのステップ、2)事務所の設置と体制、3)運営に必要とされる財政計画――などについて検討する。

来賓として挨拶した島田尚信UAゼンセン副会長は「(日本組織が分かれたままでは)インダストリオールのなかで日本の発信力を担保できるか、というと微妙なラインだ。日本の組織が団結してことにあたらないといけない。事務局会合も開かれており、日本協議会の設立に向けた青写真が描かれている状況であるが、議論を加速させていきたい」と述べた。

2016年度活動方針に関する討議では、2016年闘争やインダストリオールへの対応などについて、加盟産別から意見や決意表明が出された。主な発言は以下の通り。

  • 自動車総連「2016年闘争の要求検討にあたっては、今後も持続可能な経済成長を成し遂げるために、いかに持続可能な産業基盤を確立し、それと整合性ある賃金引き上げを図ることを考えていくことが大切。職場の生産性向上に基づき、真剣で粘り強い交渉を通じて賃上げを実現し、それが社会全体の広がりとなるように好循環の実現を果たしていくことが重要だ」
  • 電機連合「デフレ脱却と経済の好循環を確かなものとし、実質生活を維持していくためには継続して賃金水準の改善を行う必要があると考える」
  • 基幹労連「AP16の検討に向けては、製造業をはじめ日本全体が好循環を実現できるものとなるよう、JC共闘の一員として尽力したい」
  • 全電線「昨今の日本経済の状況をみると、プラス基調となるとは認識するものの、さまざまな外的要因もあり、2015年より一層難しい取り組みとなる。2016年闘争に向けては、日本経済の状況、金属産業の動向、勤労者の生活実態をより精査して、JC共闘が一丸となれる取り組みをめざしたい」
  • JAM「賃金制度が確立している大手と、制度がない中小・零細との間の賃金水準の差は広がった。賃上げについては上げ幅より水準を重視し、JAMが展開する個別賃金の取り組みをはじめ、根っこからの賃金水準の開示と共有が中小労組への大きな支援となる」