「継続した賃金水準改善の要求構築が必要」(有野委員長)/電機連合の定期大会

(2015年7月8日 調査・解析部)

[労使]

電機連合(有野正治委員長、約62万人)は6、7の両日、横浜市で定期大会を開催した。挨拶した有野委員長は2016年闘争の方向性について、2015年度の電機産業の業績見通しが2014年度とほぼ同程度であることなどから、継続して賃金水準改善などの要求を構築する必要があるとの認識を示した。

物価上昇への対応を強調

あいさつした有野委員長は、今春の2015年闘争について、(1)物価上昇への対応、(2)闘争の社会的責任、(3)統一闘争の取り組み強化、(4)底上げ・底支え――の観点にわけて振り返った。

まず、物価上昇への対応については、「電機連合の賃金政策では、賃金要求の基本的考え方として『実質賃金の維持・向上』をあげており、2015年闘争にあてはめて考えれば、過年度物価上昇に見合う約3%の賃上げ要求をするということになる」と述べつつ、「しかし、今回の物価上昇の大きな要因は社会保障制度の維持と充実を目的とした消費税率の引き上げによるものであることや、本来のインフレ下であれば物価上昇を超える経済成長を伴うはずだが、実態はマイナス成長であることなどから、電機連合としては『今次闘争の果たすべき社会的意義や組合員の生活実態を総合的に勘案して要求を組み立てることが現実的である』と判断し、この考え方を主張してきた」と説明。

個別賃上げの要求ポイントで3,000円の賃金水準改善を獲得した中闘組合の交渉結果について、「厳しい状況のなかで昨年実績(2,000円)を上回ることができたのは『組合員の実質生活を守るためには物価上昇をふまえた回答が必要』との考えで臨んだことと、経営側も物価が生活に与える影響に考慮したことなどが結果につながった」と評価した。

回答状況は昨年以上に「波及効果」を生み出したと評価

2点目の闘争の社会的責任については、60年の節目を迎えた春闘について「歴史的にも春闘が果たした役割は大きなものであり、経営側もこの春闘方式を前向きに評価している」と指摘。前年に引き続き政労使会議が開催されたことにも触れたうえで、「特に賃金と経済の相関関係が強いという、いわゆる賃金の社会性について共通の認識に立てたことは、今後の労使交渉におけるマクロ面での論議の重要性がこれまで以上に高まることを意味しており、産別交渉の強化が重要となる」との見方を示した。

3点目の産別統一闘争に関しては、「めざす水準が高ければ高いほど統一闘争は難しさを増す」としたうえで、今回の統一闘争について、「電機産業全体としては業績が好調だが、業績実態や企業体力などでは企業間の格差には顕著なものがあり、全体が合意できるベストな着地点を見出すことができたことは、まさに電機連合統一闘争の成果だ」と統一闘争の意義を強調。また、「回答状況は昨年以上に(拡大中闘組合、地闘組合などへの)波及効果を生み出す結果となっており、産別統一闘争の成果がここにも表れている」と評価した。

最後の底上げ・底支えについては、特に非正規労働者の労働条件改善が「まだまだ力不足だ」と指摘し、政治の場で与野党の垣根を越えて、この課題を解決していくための議論を求めていくとの考えを示した。

2016年闘争でも経済の好循環、実質生活の維持を

有野委員長は来年の2016年闘争にも触れ、「ギリシャ・リスクはあるものの、米国向けを中心に輸出が持ち直しをみせ、国内景気の好循環も継続することなどから、日本の実質GDPは1.7%成長と緩やかな回復軌道をたどるとみられること、物価は0.5%程度と安定して推移するものとみられること、また、電機産業の業績が2014年度とほぼ同程度の見通しであることをふまえれば、2016闘争は経済の好循環を維持し、そして実質生活維持をより確かなものにしていくためには、継続して賃金水準改善や総実労働時間短縮などワーク・ライフ・バランス実現に向けた要求の構築が必要だ」との持論を展開。ただ、その一方で、「この2年間の闘争の結果と経済の関係や、政府の経済政策の成否などを十分に検証し、経済成長をベースにした適正なインフレ構造が定着していくことが前提としてあるべきだ」と付け加えた。

大会では、2015年闘争の最終総括である「2015年総合労働条件改善闘争の評価と課題」を報告し、確認した。今回の闘争における電機連合の賃上げに関する統一要求基準は、「開発・設計職基幹労働者賃金」(30歳相当)の個別ポイントで6,000円以上引き上げるというもの。中央闘争組合を構成する大手メーカー(13組合)は、統一闘争を離脱したシャープを除き、12組合が3,000円の水準改善で決着した。

主要な中堅組合で構成する拡大中闘組合では、同要求ポイントで水準改善を図ることができた組合が91%(昨年83%)に達し、3,000円以上獲得できた組合が60%に上った。中小を中心とする地闘組合は、61%(昨年24%)が水準改善を果たし、3,000円以上を獲得できたところも41%に及んだ。電機連合全体で、「3,000円~3,500円未満」の水準改善を獲得できた組合は、昨年は6組合だったが今年は200組合に達した(昨年は「2,000円~2,500円未満」がピークで209組合)。

「評価と課題」は、こうした回答内容とその評価について、中闘組合は「1998年に個別賃金方式に切り替えて以降、最大の上げ幅」での改善を図ることができたとし、「この回答は、物価上昇局面における実質生活の維持を図り、デフレ脱却と経済の好循環の実現に向け、電機労使に課せられた社会的責任と役割を果たすことができたことから評価できるものと考える」と総括。また、「交渉を通じて、経営側が、デフレ脱却に向けた経済の好循環実現の必要性や、そのためには、労使の社会的責任・役割の発揮が重要であること、物価上昇が組合員の生活に少なからず影響を与えていること、『人への投資』の重要性、などについて労使の認識あわせができたことは大きな意義があったと考える」と記した。

一方、産別統一闘争については、「デフレからの脱却や経済の好循環実現、さらに物価上昇に対する認識が重要な論点となった」と振り返りつつ、「このような社会性を踏まえた論議が求められているからこそ、電機連合の産別統一闘争という枠組みの意義をあらためて確認することができた」と評価した。

今後の課題については、「賃金引き上げ(賃金水準改善)を行うにあたっては、実質生活維持の必要性はいうまでもない。また、賃金引き上げは社会的な責任を帯びており、マクロな視点に立った論議が重要」と強調。「個人消費の活性化によるデフレからの脱却と経済の好循環実現のためには、安定的、継続的な賃金水準改善が必要だ」とし、さらに、すべての労働者の賃金引上げの効果を波及させ、底上げを図ることが重要だとして、「賃金については、今後とも、このような社会性を踏まえた論議が求められる」と整理した。

長時間労働の是正、ワーク・ライフ・バランスの取り組み強化が課題

大会ではこのほか、昨年の大会で確立した2年間の運動方針の補強、10年のサイクルで作成している中期運動方針(現行は2011年~)の補強を確認するとともに、来年行われる参議院選挙の組織内公認候補としてパナソニックグループ労連の矢田わか子氏を擁立することを追認した。

運動方針の補強では、2015年闘争でスタートさせ、各組合が自らの労働条件の立ち位置を確認するための指標である「ベンチマーク指標」や、達成目標とする「政策指標」の活用状況についてフォローアップするとしている。また、加盟組合の非正規労働者の実態調査を実施する。中期運動方針の補強では、役員任期のサイクルを連合に合わせることの検討に着手するなどとしている。

運動方針の補強に関する討議では、来年の闘争で2年ぶりに、産別全体として労働協約改定に取り組むことになることから、長時間労働の是正やワーク・ライフ・バランスのための取り組み強化を求める意見が出された。三菱電機労連は「長時間労働の抑止はわれわれも最重要課題としており、職場でもしっかりと時間管理したいが現実は一進一退の状況であり、ルールや規制があっても例外適用に陥りがち。だからこそ産業内での横並びが必要であり、年間の時間外労働を何時間と決めて、例外を認めないなどの方向での議論を進められないだろうか。個社の論理を超えて産別として取り組む必要がある」と発言。明電舎労組は「時短について管理職、組合員、双方の意識改革が進んでいない」として、意識改革の効果的な事例提供を電機連合本部に求めた。

なお、大会が始まる直前に有野委員長は同会場で会見を行い、2016年闘争について個人的な考えとして、「来年は、物価上昇率はたぶん低迷したままだろう。しかし、だからといって賃金水準改善を要求しないということではいけない。2年間、経済の好循環実現とデフレ脱却のために賃金を引き上げることによって社会を支えてきた。また、その波及効果があったことや、景気の底支えに寄与したことは間違いない。この流れを断ち切ったら、2年間の取り組みが無駄になる可能性がある」などと述べた。