業種別部会の格差改善に全力で取り組む/基幹労連の2015春闘方針

(2015年2月20日 調査・解析部)

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄関連の労働組合でつくる基幹労連(工藤智司生委員長、25万2,000人)は18日、都内で中央委員会を開いた。2年サイクルで春季交渉を行っている基幹労連は、2015春闘では一時金と、中小組合で構成する各業種別部会が総合組合(大手)との格差改善を中心に取り組む。暴騰、あいさつした工藤委員長は、総合組合によるグループ組合への具体的な支援と業種別組合の労働条件の底上げの実現を強く訴えた。

基幹労連では、働く人への投資として魅力ある労働条件をつくり上げることで、産業・企業の競争力強化との好循環を生み出すとの考え方を基本に、2年サイクルの春季交渉方式を採用している。賃上げを中心に主要な労働条件全般について取り組む「基本的労働条件改訂年度(基本年度)」と、業績連動方式を導入していない組合の一時金と、中小組合の産別基準への到達・格差改善の取り組みが要求の中心になる「個別的労働条件改訂年度(個別年度)」に分けている。

2014春闘(AP14)では、大手鉄鋼メーカーや総合重工、非鉄大手などの労組が2014年度、2015年度それぞれ3,500円の賃金改善を求めて労使交渉し、「14年度1,000円、15年度1,000円を基本に2年で2,000円」とする賃金改善を獲得した。2015春闘(AP15)は個別年度の年にあたるため、大手を含めすべての組合が一時金に取り組むほか、中小労組が各業種別部会の方針に沿いながら、大手との格差改善に取り組む。基幹労連によると、業種別組合はそれぞれが労働条件の格差改善に向けた「当面の目標」を設定しており、その改善を柱に取り組んでいるという。

業種別組合の取り組める形を産別本部と総合組合が創り上げる/工藤委員長

あいさつした工藤委員長は、昨年末の政労使会議のとりまとめに触れ、「合意内容は賃金上昇の必要性、とくに99%以上の企業数、約7割の雇用を占める中小企業の賃金引き上げと格差改善をエンジンとして日本経済を好転していこうという表れ。中小企業における賃金上昇などの結果を親会社として適正に判断するよう求めている」と指摘した。

そのうえで、「低成長時代に『デフレ経済からの脱却』と『経済の好循環』を確かなものとするためには、その名のごとくボトムアップ方の取り組みこそがより重要だ。中小・業種別組合がきっちり取り組める形にしていくことが大切であり、これを産別本部・総合組合が支えていく形を創り上げていく」と強調。「具体的な交渉は個別労使の取り組みだが、総合組合によるグループ各組合等への具体的な支援と業種別組合の労働条件底上げにより、AP15を完遂していこう」と訴えた。

一時金は年間5カ月以上を基本に

年間一時金要求は、金属労協の「年間5カ月分以上を基本」とする考え方を踏まえて、要求方式ごとに設定する。構成要素は「生活を考慮した要素」(年間4カ月、額で120~130万円程度)と「成果を反映した要素」とし、各要求方式で示した水準以上をめざせる組合は、さらに増額を図ることとする。

要求方式ごとの基準については、 (1)金額で要求する組合は、生活を考慮した要素を120万円ないし130万円としたうえで、成果を反映した要素を世間相場の動向などを踏まえながら40万円を基本に設定する (2)「金額+月数」で要求する組合は、「40万円+4カ月」を基本とする (3)「月数」で要求する組合は5カ月を基本とする――としている。

年休付与日数や時間外割増率など3項目を必須要求項目に

格差改善は、業種別部会単位で取り組むことを基本に、「賃金」「退職金」「労働時間・休日」「諸割増率」「労災通災補償」の要求項目を設定している。さらに、これらのうち、 (1) 年次有給休暇の初年度付与日数を20日以上とする、(2)時間外・休日割増率の改善をはかる、(3)労働災害付加補償、通勤途上災害付加補償の総合組合水準への到達をはかる――3点については、「産別基準の達成に向けて格差を速やかに改善すべき項目」として、すべての業種別部会が取り組むことになる。

業種別部会ごとに定めた「当面の目標」を軸に要求を設定

賃金についても、格差改善の観点を基本に条件の整う組合が取り組む。定期昇給分の確保を前提に、明確な定期昇給ルールのない組合は、制度化・整備に取り組むとともに、未整備状態で取り組む場合の定期昇給相当分を3,700円(標準労働者35歳、勤続17年)もしくは平均基準内賃金の2%相当を目安にする。

そのうえで、単年度で取り組む労組はAP14(昨年の春季取り組み)の要求基準を踏まえ、改めて具体的な要求を掲げる。要求設定にあたっては、業種別部会ごとに定めた「当面の目標」を踏まえ、実情に応じて改善額を設定する。

また、AP14で何らかの回答を得て妥結したものの、「2015年分の配分については別途協議する」「2015年分はAP15で検討する」など、賃金改善が別途協議・継続交渉の形になっている組合についても、必要により今次春季取り組み期間を通じて解決を図る。

また、働く者すべての処遇改善の観点から、最低賃金に関する取り組みにも注力する。「特定(産業別)最低賃金の引き上げにも資するよう企業内最低賃金の取り組みを積極的に行う」として、企業内最低賃金未協定組合の協定化や、18歳最低賃金の高卒初任給に準じた水準への引き上げなどをめざす。

総合組合から格差改善の取り組み支援の声

方針に関する質疑では、業種別部会から「機器部会では半数以上が単年度の取り組みとして賃金改善を要求し、一部組合はそれに加えて格差改善に取り組む。交渉の最大限の支援をお願いしたい」(新潟原動機労組)、「(特殊鋼部会では、)退職金10万円の増額に取り組む。一方、賃金改善が継続協議や別途協議など回答が見送られた組合が8組合ある。部会内の連携を取りながら確実に格差改善につなげていきたい」(三菱製鋼労組)といった格差改善に取り組む声があがった。

それに呼応する形で、総合組合からは、「2015年度の配分のほか、旅費規則の改善など6項目を独自要求するが、今次取り組みの柱である業種別組合の労働条件の底上げや格差改善を進めるために、グループの加盟組織に対し、経営側への要請行動などのサポートを行う」(川重労組)「AP14で賃金改善が継続協議となっている単組がある。AP15で協議を再開し、賃金改善に強いこだわりを持って取り組みを展開する」(住重労連)「総合組合の役割と責任のもと、グループ傘下で働く組合員はもとより、二次三次も含め、組合のない労働者にも賃金改善を波及させる。AP14の取り組みからの継続協議となっている組織のフォローや経営側への要請行動などを通じて、働く者すべての労働条件の底上げに全力を傾注する」(新日鐵住金労連)など、格差改善の取り組みを支援する考えが示された。

エネルギー問題や2年サイクル運動に関する意見も

また、業種別部会からは、「電力料金の上昇が死活問題になっており、労使交渉の障壁にもなっている。家計も圧迫しており、急激な円安による物価上昇や消費税増税で実質賃金が減少し、家計は悲鳴を上げている。経済を左右するエネルギー問題について、支持政党である民主党や関係省庁への要請を続けて欲しい」(新潟原動機労組)、「電気料金の高騰は電炉メーカーにとっては死活問題であり、事業の廃止に追い込まれた企業もでている。引き続き、産業政策課題としての対応を要請する」(中山製鋼所労組)など、エネルギー問題への取り組みの継続を求める発言も出された。

一方、2年サイクルで春季交渉を行っていることについて、「連合が2%以上、JCMも6,000円以上の賃上げ方針を掲げる状況において、組合員には他産別との間に格差が生じるのでは、との不安や不満を抱いている。デフレ経済下で2年分の賃金改善を要求することは効果があるかもしれないが、現在のように経済がインフレに動きつつあり、先の見通せない状況で2年分の賃金改善を要求することが妥当なのか。改めて全体で検討する必要がある」(IHI労連)、「経済情勢や世間動向は明らかに変化しており、これらを踏まえて連合やJCMの方針も変化している。賃金改善の取り組みは組合員の関心が高く期待も強い。だからこそ、常に組合員に対して姿勢をしっかり示しながら展開していかねばならない」(住重労連)などの検証と検討を求める意見が出た。新日鐵労連は「AP14では複数年協定のもと、2年に渡る月例賃金への財源投入の回答を引き出す成果を上げた。AP15は個別年度だからこそ、持てるエネルギーを傾注し、全力で業種別部会を支援できる重要な取り組みだ」と、2年サイクル運動の意義を訴えた。

要求提出は、2月20日に集中して行い、2月末日までに提出できるよう努力するとした。