3%を基準に少なくとも2%以上を要求基準とする賃上げ方針を決定/UAゼンセン

(2015年2月4日 調査・解析部)

[労使]

UAゼンセン(逢見直人会長、約147万人)は1月28日、静岡県浜松市で中央委員会を開催し、正社員組合員の平均賃金での引き上げ要求基準について、賃金体系(カーブ)維持分に加え、3%を基準に少なくとも2%以上の賃金引き上げを要求するとする「2015労働条件闘争方針」を決定した。パートタイマーなどの短時間組合員の要求基準についても、職務内容などの組合員区分の異なりにかかわらず、基本的には引き上げ分を3%基準とする内容となっている。

UAゼンセンはわが国最大の産別労組で、スーパーマーケット・百貨店などの小売・流通業界や、繊維や医薬品などの製造業、外食産業など幅広い業種をカバーする。そのため、「流通部門」、「製造産業部門」、「総合サービス部門」の3部門に分けて組織運営を行っており、春闘方針も、まず産別としての闘争方針を策定したうえで、同方針をベースに各部門が部門の闘争方針を組み立てる。

UAゼンセンはまた、パートタイマーや女性の組合員が多く、UAゼンセン公表の組合員数152万1,852人(1月7日現在)でみると、うち短時間組合員の数は80万643人と5割を占めており、女性組合員は88万9311人で6割弱に達する。

過去の物価上昇を取り戻し、生産性の向上に見合う部分を求める/逢見会長

挨拶した逢見会長は、「2014年の賃上げは久々に体系維持分を含め2%を超える賃上げとなり、月例賃金は、政府の統計でも昨年比プラスが続いている。しかし、消費者物価がそれ以上に上がっており、実質賃金が大幅に低下している。今年の春の賃金引き上げの交渉は実質賃金の回復という大きな課題を抱えている。過去の物価上昇を取り戻し、生産性の向上に見合った適正な賃金配分を求めることは当然のことであり、労働組合の真価が問われる年といえる」と、実質賃金確保の重要性を強調。「労働者の将来への安心感を醸成し、賃金上昇を通じて消費拡大につなげるとともに、生活防衛の観点からもしっかりとした解決が必要だ」と訴えた。

また、「賃金の引き上げは労働組合があるところが要求し、団体交渉を通じて、経営側にその根拠や正当性を説明し、納得のいく解決をはかることで決まっていく。まず、それぞれの業種でリーダーとなる労使が相場を形成し、これを中小企業や有期・短時間雇用にも波及させ、最低賃金の相場にも影響させることで、世の中全体の賃上げに広めていくというのが、これまで築き上げてきた賃上げのメカニズムだ」と説明したうえで、「私たちUAゼンセンには多くの中小労組があり、多くのパートタイマーなどの短時間組合員がいる。こうした組合員の賃上げ相場を形成するのは、UAゼンセンに課せられた使命だ。2015闘争では、それぞれがその役割、責任を果たしていくことが必要。厳しい局面が予想されるが、団結を強化して闘わなければならない」と述べた。

実質賃金の維持・向上を第一優先に

中央委員会で決定した「2015労働条件闘争方針」は、正社員組合員の賃金に関する要求の考え方について、「実質賃金の維持・向上を第一優先に要求を組み立てる」とし、2014年度の物価上昇が3%程度の見通しとなっていることなどを考慮し、「賃金体系(カーブ)維持分に加えて、3%基準の賃金引き上げを基本とし、労働組合の社会的役割として、日本全体の消費回復も見据え、実質賃金の維持・向上に集中的に取り組む」と明記した。格差是正については「3%基準の引き上げを基本に、賃金水準に応じて基準を設定し取り組む」と記述する。

ミニマム水準未達の組合は1万500円を基準に

これをうけて平均賃金引き上げの要求基準について、「賃金体系(カーブ)維持分に加え、3%を基準に少なくとも2%以上の賃金引き上げを要求する」と設定。具体的な要求水準は、昨年に引き続き、①ミニマム水準(高卒35歳勤続17年:24万円、大卒30歳勤続8年:24万円)に届かない組合 ②到達水準(同:25万5,000円を基本に部門ごとに設定、同:25万円を基本に部門ごとに設定)に届かない組合 ③目標水準(同:部門ごとに設定、同:部門ごとに設定)に届かない組合――に分けてそれぞれ示し、まず、①のミニマム水準に届かない組合では、「賃金体系維持分4,500円に加えて3%、または、賃金体系維持分も含めて1万500円を基準に賃金引き上げを要求する。可能な組合はさらに格差是正分を要求する」とした。

なお、UAゼンセン加盟組合の基準内賃金はおよそ25万円。単純にここから3%を算出すると7,500円になる。これを、ゼンセンが賃金体系維持分として設定する4,500円と足し合わせると1万2,000円という水準に達することから、今回の方針では、1万円を大幅に超える要求が難しい中小労組にも配慮し、連合の中小共闘の要求基準でもある1万500円を含めた2つの設定方法から選択できる方式とした。

②の到達水準に届かない組合の要求水準は、「賃金体系維持分に加え、3%を基準に少なくとも2%以上の賃金引き上げを要求することを基本に、部門ごとに要求基準を設定する。可能な組合はさらに格差是正分を要求する」とした。

主に中堅以上の労組が該当する ③の目標水準に届かない組合の要求水準に関しては、「賃金体系維持分に加え、3%を基準に少なくとも2%以上の賃金引き上げを要求することを基本に、部門ごとに目標水準ならびに要求基準を設定する」とした。

なお、各部門は29日にそれぞれ評議員会を開催し、部門の闘争方針を決定している。

到達水準以上の組合、2%超部分は時短要求も可(試行)

2015闘争では、2014年以降の賃上げ闘争の進め方について検討するために内部に設置された「第2次労働条件闘争あり方委員会」の中間報告の内容を試行的に実施する。同中間報告では、到達水準以上の組合については、要求基準の一定率を上回る部分について「部門ごとに賃金引き上げ以外の内容を設定できる」という考え方を提起した。今回の闘争方針では、部門の決定に基づき、到達水準以上の組合については要求基準のうち2%を超える部分について所定労働時間の削減として要求できるようにするとしており、これをうけて、所定労働時間が比較的長い「流通部門」は、部門到達水準を上回る組合については、「賃金引き上げ2%以上を上回る部分については所定内労働時間短縮を含むことを可とする」方針を掲げている。

短時間組合員の要求基準は正社員の職務との異なり具合に応じて設定

一方、短時間組合員の要求基準をみていくと、①仕事内容、働き方に応じた正社員との均衡ある要求をする ②賃金引き上げとともに処遇改善に総合的に取り組む③仕事内容、働き方に応じて要求を示す――の3本を柱として内容を設定。

正社員の職務との異なり具合に応じて要求基準を設定し、①<正社員と職務の内容が異なる短時間組合員等>については、昇給制度が導入されている場合、制度に基づく昇給・昇格分に加え、正社員組合員と同様に、「3%を基準に少なくとも2%以上」で、「正社員組合員との均衡を考慮した賃金引き上げを要求する」とした。

昇給制度がない組合は、昇給・昇格相当の引き上げ分(加盟組合データを参考に1%と設定)を含めて、「4%を基準に少なくとも3%以上」とし、正社員組合員との均衡を考慮した要求とする。

②<正社員と職務の内容が同じ短時間組合員等>については、昇給制度が導入されている場合、制度に基づく昇給・昇格分に加え、3%を基準に少なくとも2%以上で、正社員組合員との均衡を考慮した賃金引き上げを要求するとした。

昇給制度がない場合は、昇給・昇格相当の引き上げ分(加盟組合データを参考に1.5%と設定)を含めて、4.5%を基準に少なくとも3.5%以上で、正社員組合員との均衡を考慮した要求とするとした。

③<正社員と同視すべき短時間組合員等>については、パート労働法の規定を踏まえ、正社員組合員と同じ制度、考え方に基づいて賃金引き上げを要求する。

闘争の進め方については、昨年と同様、闘争全体を2015賃金闘争と位置付けて全加盟組合が参加する。ただし、昨年同様、妥結権を中央闘争委員会に集約する「統一賃上げ闘争」に参加できない組合は、妥結権を中闘に集約しない「賃上げ闘争」に登録することも認める。賃上げ闘争に登録するのは、統合前にJSD(サービス流通連合)に加盟していた組合で、いまだに統一賃上げ闘争に移行できない組合。ただ、その数は徐々に減っている。

要求書の提出は2月末日までとし、闘争日程は中央闘争委員会で決定するが、松浦書記長は、「相場に好影響を与える回答が出れば連合や金属労協のヤマ場(3月18日)前に妥結承認することも考えられる」と話している。

なお、各部門の要求基準の概要は以下のとおり。総合サービス部門ではまた、フードサービス部会が、部会別必須項目として勤務間インターバル規制の導入を昨年に引き続き統一要求項目に設定した。同規制を未導入の組合は要求書を提出するとしている。

 

製造産業部門

流通部門

総合サービス部門

要求基準

・すべての組合は、賃金体系維持分に加え、3%を基準に少なくとも2%以上の賃金引き上げを要求する。

(1)部門が設定したミニマム水準(産別設定額と同じ)を下回る組合:ミニマム水準を超えることを最優先して要求する。

1)賃金体系維持が確立していない組合は、カーブ維持分を含め5%基準または1万500円基準。

2)確立している組合は、維持原資とは別に3%基準または6,000円基準に要求する。

(2)ミニマム水準を上回り、到達水準を下回る組合及び到達水準を上回る組合:

1)確立していない場合、維持分を含め5%を基準に少なくとも4%以上を要求。2)確立している場合、維持原資とは別に3%基準に少なくとも2%以上を要求する。

1)賃金水準が把握できない組合や産別の示すミニマム水準を下回る組合:産別が示すミニマム統一要求基準とする。

2)産別のミニマム水準を上回り、部門が設定した到達水準(大卒30歳:基本賃金26万円、大卒35歳:30万円)を下回る組合:維持分を確認できている等の組合は、ベアを含む賃金改善一人平均3%を基準に少なくとも2%以上。またはベアを含む賃金改善一人平均5,500円以上。

3)部門到達水準を上回っている組合:維持分を確認できている等の組合は、ベアを含む賃金改善一人平均3%を基準に少なくとも2%以上またはベアを含む賃金改善一人平均5,000円以上。なお、2%以上を上回る部分については、所定内労働時間短縮を含むことを可とする。

1)ミニマム水準未達組合:賃金引き上げ3%または1万500円以上。1万500円以上に満たない場合は不足額を格差是正分として要求。

2)到達水準に未到達:賃金引き上げ3%または一人平均1万500円を基準に要求。基準の下限は500円。

3)到達水準未達、目標水準未達:3%を基準として2%(または5,000円)以上または1万500円を中心に要求。ただし、中心の下限幅は1,000円)。

4)目標水準に到達:3%を基準として2%(または5,000円)以上または1万500円を中心に要求。