フェミニズム,ケア労働,そして新しい資本主義

要約

河野 真太郎(専修大学教授)

本論は,フェミニズムとそれをめぐるジェンダー構造の歴史的変化を,とりわけ労働と資本主義の視点から概観しつつ,それらの問題についての私たちの現在地を確認することを目的とする。まず,これまでのフェミニズムの「波」がいかなるもので,その背後にどのような歴史的変化が存在したのかを確認し,21世紀に入って,「ポストフェミニズム」や「ポピュラー・フェミニズム」という用語で何が問題にされてきたのかを確認する。その際に重視したいのは,フェミニズムの波はそれだけが独立して生じたものではなく,社会歴史的な文脈の中で,その文脈への反応として生じてきたという点である。その「文脈」のうち最も重要なものは,現代の新自由主義的な資本主義である。それを確認した上で,新自由主義的な資本主義とジェンダー体制との関係を考究してきた政治哲学者ナンシー・フレイザーの思想の軌跡を確認し,最新刊の『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』(原題の直訳は『共食い資本主義』)の達成を検討する。そこで焦点が当たるのは,労働のうちでもとりわけケア労働となるだろう。本論では,フレイザーに依拠しつつ,現代の新しい資本主義の体制がケア労働のさまざまな意味での重要性の文脈となっていることを主張したい。現在ケア労働について考えることは,社会全体について考えることにほかならない。


2024年5月号(No.766) 特集●ジェンダー平等における「公正」と「経済合理性」

2024年4月25日 掲載