トラック業界における労働時間短縮に関わる政策の変遷

要約

首藤 若菜(立教大学教授)

本論文では,労働時間の規制強化を内容とする労基法改正の成立を受けて,トラック業界で労働時間短縮を実行していくために,いかなる議論が交わされ,どのような対策が講じられてきたのかを紹介する。トラックドライバーの実労働時間数は,フルタイム労働者の平均と比べておよそ2割長い。ゆえに,労基法改正の施行により物流の停滞が引き起こされることが懸念されてきた。とくに影響が大きいと考えられた法改正が,月60時間超の時間外労働の割増賃金率を引き上げる2008年の労基法改正と,時間外労働の上限規制を導入した2018年の労基法改正である。それぞれの法改正が成立し施行されるまでの間,いかにしてドライバーの労働時間を削減できるかが話し合われた。結果的に運送事業者と荷主―運送契約を締結する発荷主と荷物を受け取る着荷主―が行うべき物流負荷の軽減策が示された。加えて,運送に関わる価格を上昇させるために,標準約款が改正され,標準的な運賃が告示されることになった。本稿では,これらの施策がいかなる経緯で講じられることになったのかを,審議会の資料や議事録,業界団体や労働組合が発行するニュース,ヒアリング調査をもとに明らかにしていく。そのうえで,労使関係の視点から,これらの施策の特徴と意味を論じる。


2024年2・3月号(No.764) 特集●モノを運ぶ仕事の労働問題

2024年2月26日 掲載