論文要旨 非正規雇用をめぐる政策課題─労働法の視点から

奥田 香子(近畿大学法科大学院教授)

本稿は、非正規雇用の量的増加と質的変容という構造変化が見られ、その構造変化が正規雇用を主たる雇用形態あるいは望ましい雇用形態としてきたこれまでの労使関係や労働法制などに様々な課題をもたらしている、というパネルディスカッションの問題意識をベースに、非正規雇用をめぐる政策課題を労働法の視点から考えることを目的としている。具体的には、雇用保障と均等待遇に焦点を当てて検討している。

まず、解雇や有期契約に関する法規制と処遇格差に関する裁判例等から、正規労働者と非正規労働者の間の雇用保障や処遇における二重構造を労働法が支えてきた面があること、しかし冒頭に述べた構造変化を踏まえると、今日では必ずしもそのような労働法システムが合理的なものではなくなっていることを指摘している。その上で、今後の課題・方向性として、(1)解雇の合理性基準の明確化、(2)有期労働契約の更新規制、(3)処遇格差に関する立法による規制の必要性をあげるとともに、その際の2つの留意点として、均衡処遇ルールの評価と労使自治による法ルールの具体化に言及している。

法政策としては多様な雇用・就業形態が有効に活用される方向で検討すべきであるが、その場合に生じる雇用保障や処遇の相違は実質的な違いによる合理的範囲内のものでなければならず、労働法はそれを保障する基本部分に関与すべきであるとしている。

2011年特別号(No.607) 会議テーマ●非正規雇用をめぐる政策課題/パネルディスカッション

2011年1月25日 掲載