資料シリーズNo.277
高年齢者の多様な就業と生活
―中高年者縦断調査を用いた二次分析―

2024年4月1日

概要

研究の目的

厚生労働省のパネルデータ(中高年者縦断調査)を用いて、人的資源管理や教育訓練、家庭生活、社会活動といった側面からの二次分析を行う。

研究の方法

厚生労働省「中高年者縦断調査」の二次分析。

主な事実発見

第1章:高年齢者の雇用延長の在り方が仕事のやりがい・能力活用に与える効果―職種継続・利用する雇用延長制度に着目して―

  1. 2012年から2013年の職種の継続性と2013年の満足度の関係を分析した結果、管理職や専門職の仕事を継続している者は、継続していない者に比べて、能力活用や仕事内容・やりがいの満足度が高かった。ただし、2012年から2013年の満足度の変化に対しては、職種継続の有無による影響は示されなかった。
  2. 勤務先に再雇用制度や勤務延長制度がある場合は、ない場合に比べて、能力活用や仕事内容・やりがいの満足度が高かった。ただし、これらの制度がある者に限定して、制度利用の有無で満足度を比較すると、統計的な有意差は示されなかった。
  3. 2012年改正高齢法が施行された2013年時点において、定年が撤廃されている企業で働く者は、能力活用や自身の仕事内容・やりがいに満足していた。また、定年制撤廃と職種継続はそれぞれ単独で能力活用や仕事内容・やりがいの満足度に強い正の効果をもたらした。一方で、就業継続制度である再雇用制度はそれら満足度に与える影響は限定的、そして勤務延長制度がそれら満足度に与える影響は見られなかった。

第2章:50代後半の正社員の「能力開発・自己啓発」「免許・資格取得」経験の規定要因

  1. 50代後半における能力開発・自己啓発の経験は、男性よりも女性、そして学歴が高い者ほど多かった。また、ブルーカラーよりホワイトカラーの仕事に携わっている者、その中でも販売・サービス職に比べて、専門・管理・事務等の職の経験率が高かった。企業規模の面では、54歳~56歳までは、規模の大きさに比例して経験率が高まったが、57歳以降は概ね中企業と大企業・官公庁に有意差は見られなかった。他方、労働時間と能力開発等の経験に有意な関連はほとんどなかった。
  2. 免許・資格取得に関しては、55歳と56歳で男性の方が取得している傾向が見られた。また、60歳時点で販売・サービス職の者は、専門・管理・事務等の者に比べて有意に取得率が高かった。詳しく見ると、販売・サービス職の中で最も取得率が高い資格は「社会福祉専門職」関連の資格だった。他方、教育水準や企業規模、労働時間と資格取得との間に有意な関連はなかった。

第3章:介護は60歳以降の男性の働き方をどの程度左右するのか―60歳直前の階層的地位に注目して―

  1. 59歳時の所属企業の規模を考慮しない場合、介護の担い手となった男性は介護なしの男性に比べて、無業への移行確率が高い。ただし、59歳時の企業規模によって介護と就労の関係は大きく異なる。59歳時に中小企業に在籍していた男性では、介護の提供が無業への移行確率を高めているのに対して、大企業に勤めていた男性の場合は、介護提供による無業への移行確率に差は無い(図表1、モデル1, 2)。その一方で、男性には、介護の提供に伴い、非正規労働者等に雇用形態を変えたり、労働時間を40時間未満に短縮して働くような傾向は確認されなかった。
  2. 配偶者の有無によって男性の介護提供と働き方の関係が異なるのかを分析したところ、59歳時の所属企業の規模を考慮しない場合、配偶者の有無に関わらず介護の提供は男性の無業への移行確率を高めていたが、特に配偶者のいない男性でその傾向が顕著だった。また、有業から無業への移行に対する59歳時の企業規模の干渉効果については、「配偶者あり・介護あり」男性に関して、中小企業の男性は介護が無業への移行確率を高めているが、大企業の男性にそのような傾向は見られなかった(図表1、モデル3, 4)。ただし、雇用形態や労働時間の変化に対しては、一貫した違いが確認されなかった。

図表1 介護の有無、婚姻状況別の介護の有無、59歳時の企業規模が有業から無業への移行に与える影響(離散時間ロジットモデル)

   モデル1 モデル2
限界効果   robust s.e. 限界効果   robust s.e.
59歳時の所属企業の規模(大企業=1) 0.007 0.004 0.011 * 0.004
介護あり 0.013 * 0.006 0.027 *** 0.008
大企業×介護あり     -0.027 * 0.011
婚姻状況別の介護の有無(ref: 配偶者あり・介護なし)      
 配偶者あり・介護あり      
 配偶者なし・介護なし      
 配偶者なし・介護あり      
 大企業×配偶者あり・介護あり      
 大企業×配偶者なし・介護なし      
 大企業×配偶者なし・介護あり      
パーソン・イヤー 24234 24234
対象者 3834 3834
対数尤度 -7001.518 -6998.318
擬似決定係数 0.0575 0.0579
   モデル3 モデル4
  限界効果   robust s.e. 限界効果   robust s.e.
59歳時の所属企業の規模(大企業=1) 0.007 0.004 0.011 * 0.004
介護あり                   
大企業×介護あり                   
婚姻状況別の介護の有無(ref: 配偶者あり・介護なし)      
 配偶者あり・介護あり 0.012 * 0.006 0.028 *** 0.008
 配偶者なし・介護なし 0.013 0.009 0.012 0.011
 配偶者なし・介護あり 0.042 * 0.018 0.032 0.025
 大企業×配偶者あり・介護あり     -0.031 ** 0.012
 大企業×配偶者なし・介護なし     0.004 0.018
 大企業×配偶者なし・介護あり     0.024 0.037
パーソン・イヤー 24234 24234
対象者 3834 3834
対数尤度 -7001.172 -6996.988
擬似決定係数 0.0575 0.0581

注: *: p<0.05, **: p<0.01 ***: p<0.001. クラスターロバスト標準誤差を使用。

統制変数:リスク期間、リスク期間2乗、配偶者の有無、学歴、60歳時の年、定年、貯金額、借金の有無、持ち家の有無、ローンの有無、同居家族、主観的健康。

第4章:高齢期における就業は高年齢者の地域参加を抑制するか

  1. 60歳前に地域参加をする人が若い世代ほど増加しており、とくに男性でその傾向が顕著であった(図表2)。
  2. 就業者と非就業者を含めて分析すると、60~70歳の男女では、正規の職員・従業員や非正規の職員・従業員で働くことは、非労働力と比べて地域参加を抑制していた。他方55~59歳では雇用と非労働力の間にこのような差は見られなかった(図表2)。
  3. 就業者のみに限定して分析すると、60歳以上の男性では中小企業に勤めている人のほうが地域に参加している。また、60歳以上の男女において、非正規雇用の仕事に携わっている人は自営業の人よりも地域参加しやすく、パートタイム就業者もフルタイム就業者より地域に参加する傾向が見られた。

図表2 地域参加に関する離散時間ロジットモデルの推定結果

就業者+非就業者(男性) モデル1(55〜59歳) モデル2(60〜70歳)
Odds ratio   Robust S.E. Odds ratio   Robust S.E.
出生コーホート
(基準:1947年=モデル1/1946年=モデル2)
           
1947年     1.066 0.049
1948年 1.018 0.157 1.023 0.049
1949年 1.120 0.164 1.140 ** 0.054
1950年 1.316 0.190 1.115 * 0.056
1951年 1.424 * 0.203 1.087 0.056
1952年 1.569 ** 0.224 1.120 * 0.060
1953年 1.845 ** 0.268 1.136 * 0.069
1954年 1.924 ** 0.284 1.046 0.066
就業状態(基準:非労働力)    
自営・家族・役員 1.329 * 0.170 0.960 0.034
正規の職員・従業員 1.154 0.146 0.809 ** 0.035
非正規の職員・重有形員 1.170 0.162 0.919 * 0.032
内職・その他 1.340 0.255 1.094 0.092
失業 1.253 0.191 1.201 ** 0.078
パーソン・イヤー 21,692 54,376
対象者 8,499 9,827
就業者+非就業者(女性) モデル3(55〜59歳) モデル4(60〜70歳)
Odds ratio   Robust S.E. Odds ratio   Robust S.E.
出生コーホート
(基準:1947年=モデル3/1946年=モデル4)
   
1947年     0.965 0.042
1948年 0.807 0.109 0.921 0.040
1949年 0.883 0.112 0.982 0.043
1950年 0.957 0.120 0.977 0.045
1951年 1.102 0.135 0.920 0.045
1952年 1.120 0.138 0.895 * 0.043
1953年 1.384 ** 0.171 0.939 0.050
1954年 1.397 ** 0.175 0.936 0.051
就業状態(基準:非労働力)    
自営・家族・役員 1.007 0.082 1.058 0.037
正規の職員・従業員 0.993 0.082 0.882 * 0.048
非正規の職員・重有形員 0.879 0.069 0.926 ** 0.026
内職・その他 0.800 0.111 1.242 ** 0.079
失業 1.340 ** 0.120 1.224 ** 0.078
パーソン・イヤー 23,926 62,970
対象者 9,413 11,363

注: †: p<0.10, *: p<0.05, **: p<0.01. クラスターロバスト標準誤差を使用。

統制変数:リスク期間、リスク期間2乗、配偶者の有無、配偶者以外の同居者の有無、介護の有無、日常生活行動の困難の有無、K6、収入の有無、預貯金の有無、自家のの有無。

政策的インプリケーション

第1章:定年制の撤廃や60歳から65歳の間の職種継続が、高年齢労働者の能力活用や仕事のやりがいを向上させるためには重要である。

第2章:今後、50代における能力開発や免許・資格取得の経験が高年齢期のキャリアや就業継続にどのように結びついているかを解明することが重要であり、第2章の結果は、その解明に向けた基礎的な知見を提供している。

第3章:60歳直前の階層的地位によって、介護などライフコースにおける偶発的リスクを回避するための選択肢に幅がある。また、男性は正規フルタイムで就業するか、辞めるかの選択肢しかないことが示唆されており、短時間労働等によって介護とのバランスを図る動きは、何らかの理由で選択されていない。

第4章:60歳以前における早期の地域参加に加えて、60歳以降の柔軟な働き方が、高齢期において就業と地域活動を両立させる鍵である。

政策への貢献

研究結果を高齢者雇用対策課に提供。政策立案の基礎資料としての活用が期待される。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「多様な人材と活躍に関する研究」
サブテーマ「多様な人材と活躍に関する研究」

研究期間

令和5年度

執筆担当者

森山 智彦
労働政策研究・研修機構 研究員

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

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