資料シリーズ No.164
メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立に関するヒアリング調査

平成27年12月25日

概要

研究の目的

近年の医療技術の進歩により、これまでは治らないとされていた疾病が治るようになるとともに職場復帰を目指して治療を受ける労働者や、治療を受けながら就労する労働者が増えている。その際に、労働者が治療と就労の両立ができないために、療養後の職場復帰を断念する、あるいは、復帰後に就労を継続できず、離職せざるを得ない状況に陥るケースが生じていると言われている。少子高齢化の急速な進展により、労働力人口が減少に転じるなかで、より多くの人々が可能な限り社会の支え手として活躍できるような全員参加型社会の実現は、喫緊の政策課題となっている。本調査は、病気休職や職場復帰にかかわる企業実務上の対応、休職者の職場復帰の実態などを明らかにするため、ヒアリング調査を実施した。

研究の方法

ヒアリング調査。調査対象は15社。業種は、建設業、製造業、金融・保険業、運輸業、情報通信業、卸売・小売業、飲食店、サービス業。

主な事実発見

  • 健康診断で異常所見がでた場合の措置として、ほとんどの企業が人事部門から当該社員に通知し、再検査を求めている。ただし、通院治療を継続しているか等のフォローアップまではしていない場合が多い。
  • 常時50人以上の労働者を使用する事業所を有する企業は、すべて産業医を選任。産業医に委託されている業務としては、すべての企業で共通しているのは、安全衛生委員会開催時等に来訪するなど、月に1回程度訪問。
  • 産業医以外の相談受付体制として、①医療従事者(看護師、カウンセラー等)の常駐・相談受付、②社内相談窓口(人事・総務、社内専用部署)、③外部相談窓口(委託)――の三つのルートがみられた。とくに、大企業で社外相談窓口などのルートがあり、全般的には、利用者数が多いわけではないが、特定の人物により何度も活用されているとの認識があり、不満や悩みの相談先のルートの確保を評価する企業もある。
  • 過去3年間の休職者・退職者をみると、身体疾患では、とくに、がん、脳血管疾患、心疾患での休職者は高齢層(50歳代以上)に多い。メンタルヘルス不調の休職者の年齢属性では、若年層(とくに勤続の短い層)に多いとの認識を抱く企業が一部にみられた。若年層にみられることから、ストレス耐性の弱さに原因があるとする企業もある。また、近時のメンタルヘルス疾患に対する社会的認知度の高まりが、相談体制の充実と相まって、相談者を増やしたとの見解を示す企業もあった。
  • 休職前に積立休暇(失効年休積立制度)、長期の欠勤期間がある企業など、疾病に長期療養ができる企業では、疾患が軽度であるほど、休職前に職場復帰する者がみられる。ただし、身体疾患に比べ、精神疾患のほうが治療期間が長い傾向にあった。疾患が軽度であるほど、早期の復帰がしやすいことから、いずれの企業も、早期発見・早期治療が職場復帰で有益であることを指摘していた。疾患が重度で長期療養の期間が長くなるほど、主に大企業で、職場復帰するまでに回復せず、休職期間満了となるケースもみられる。それゆえ、年休・積立休暇(有給)の取得段階、もしくは欠勤期間(無給・傷病手当金)までに、早期復帰するよう促している企業もみられた。疾病の早期発見・早期治療につながる相談体制の整備やラインケア、セルフケアが重要とする企業もある。

政策的インプリケーション

大企業を中心として、長期療養ができる企業(失効年休積立制度や長期の欠勤期間がある企業)においても、重度の疾患の場合、休職期間満了で退職する者がいることから、疾病の早期発見、早期治療が重要である。そのためには、相談体制の整備やラインケア、セルフケアの強化が望まれる。

政策への貢献

本研究では、企業の休職制度や規定面と運用面の実態を明らかにしている。今後、疾病治療と仕事を両立させるための政策立案においての基礎資料の一つとして活用されることが期待される。

本文

  1. 資料シリーズNo.164全文(PDF:2.3MB)

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研究の区分

課題研究「職業生活における就労と治療の両立に係わる調査」

研究期間

平成25年度

執筆担当者

郡司 正人
労働政策研究・研修機構 調査・解析部次長
奥田 栄二
労働政策研究・研修機構 調査・解析部主任調査員補佐

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