資料シリーズ No.157
アメリカにおける個別労働紛争の解決に関する調査結果

平成27年5月27日

概要

研究の目的

現在の政策において議論されている、予見可能性の高い紛争解決システムの構築および透明で客観的な労働紛争解決システムの構築に係る論議に資すること。

研究の方法

アメリカの法制度等調査、現地ヒアリング調査。

主な事実発見

  • 【雇用仲裁】雇用仲裁は、歴史があり評価も高い労働仲裁とは異なり、過去20年程の間に広まったもので、その評価も分かれている。雇用仲裁のメリットとして、アメリカの特殊な訴訟状況を背景に、労使双方にコストのかかる訴訟を回避でき、柔軟・迅速・安価に利用可能な紛争解決手段を提供することが指摘されている。デメリットとしては、雇用仲裁合意により被用者は裁判所による救済の道が閉ざされ、実態的には、裁判手続を通じた紛争解決と比べて、判定者の選任、判定手続、救済において被用者に十分な保護をもたらしていない可能性が指摘されている。
  • 【解雇紛争解決】アメリカの雇用関係は随意雇用原則の上に成立しており、法による保護は特定理由に基づく解雇のみを違法としているに過ぎない。その上で、行政機関による救済額は裁判所におけるものよりも低いと推測される一方、州および連邦裁判所において判決・評決に至った事件については、行政機関による救済額よりも高いと推定される。また、雇用労働専門の司法制度がないアメリカにおいては、陪審審理が利用可能なため、企業にとって被用者の訴訟提起は大きなリスクとなる。このため、各企業は様々に裁判外紛争解決制度(ADR)を発展させている。ADRのうち調停や仲裁では、解雇の事由等によって異なると思われるが、裁判よりも柔軟かつ迅速な手続の下で、解決額の概ねの相場観が形成されていると考える余地がある。

政策的インプリケーション

  • 【雇用仲裁】アメリカの特殊な訴訟状況を背景に柔軟・迅速・安価な雇用紛争解決手段として雇用仲裁のメリットが指摘されているが、日本には労働審判制度など公正な公的紛争解決システムがこのようなニーズに対応しており、また、雇用仲裁の制度的問題点の指摘もあることを踏まえると、必ずしも、裁判外紛争解決制度としての雇用仲裁を早期に導入すべき論拠はないと考えられる。
  • 【解雇紛争解決】随意雇用原則を基盤として雇用関係に係るシステムが形成されているアメリカでは、多種多様な紛争解決ルートが構築され、解雇事由および紛争解決ルートごとに、手続や救済内容など相応の相場感が形成されているものと考えられること、また、随意雇用原則を基礎に例外的に解雇を違法とし、救済するという雇用労働法の現状から考えて、解雇の金銭解決制度を導入する土壌はないと考えられる。

政策への貢献

現行日本の労働紛争解決システムについては、現在議論されている政策に関し多方面から様々な主張がなされているところ、本資料シリーズは、様々な主張から成る議論に対し、実態的検討に基づいた客観的素材を提供するものと思われる。

本文

  1. 資料シリーズNo.157全文(PDF:4.1MB)

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研究の区分

課題研究「日本の雇用終了等の状況調査」

研究期間

平成26年3月~平成27年3月

執筆者

池添 弘邦
労働政策研究・研修機構 主任研究員

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