資料シリーズ No.155
韓国における労働政策の展開と政労使の対応
―非正規労働者問題の解決を中心に―

平成27年5月29日

概要

研究の目的

非正規労働者問題の解決に向けた韓国の政労使の対応を研究することによって、韓国の労働情報を提供するとともに日本の問題解決に示唆を与えること。

研究の方法

文献研究、韓国の労働委員会や裁判の判例研究、現地ヒアリング調査

主な事実発見

2007年に施行された非正規労働者保護関連法の主要内容は、次のとおりである。第1に、使用者が契約社員やパート労働者を2年以上雇い続けると期間の定めのない雇用としたとする「2年みなし規定」、第2に、パート労働者に所定外労働をさせるためには本人の同意を得ること、それの拒否を理由に不利益取り扱いをすることを禁止するとともに、契約労働者、パート労働者との雇用契約の際には労働条件の書面開示を義務付けた。前者の違反の際には2年以下の懲役または約100万円以下の罰金、後者の違反は50万円の過怠料が賦課される。第3に、2年を超えて派遣労働者を雇い続けた場合、直接雇用をしなければならず、その際、労働条件は同種・類似業務労働者がいる場合、それと同水準、いない場合派遣の時を下回ってはならない。第4に、契約社員、パート労働者、派遣社員の非正規労働者の従事する業務に新たな採用をするときには彼らを優先的に雇用すること、第5に、非正規労働者が当該事業所で類似・同種業務に従事している通常労働者に比べて非合理的な差別を受けた場合、その是正を労働委員会に申請することができる。その立証責任は使用者側にある。使用者が、正当な理由がないのに、労働委員会の是正命令に従わない場合、1,000万円の過怠料を賦課される。そして、第6に、労働委員会は差別是正の申請を受けた場合、原則60日以内に命令等の決定を下さなければならないというものであった。

関連法の施行に伴い、企業や公的機関は、2年契約満了を迎える労働者の約6割に対し、正社員転換か無期転換を行っている。特に、公的機関は、常時・持続的な業務についている労働者に対し、積極的に無期転換を行うとともに、処遇改善に積極的である。代表的なのはソウル市である。労働組合の一部は、無期転換の労働者をはじめ非正規労働者の組織化を積極的にすすめて、雇用の安定と処遇改善に取り組み、大きな成果を上げている。代表的な組織化対象労働者は、学校の非正規労働者、大学の清掃労働者、自治体の非正規労働者、ケーブル設置関係下請労働者、大手スーパー非正規労働者である。

以上の取組により、契約労働者を中心に非正規労働者の割合が下がり、また、無期契約転換者の雇用安定と処遇改善が図られるといった一定の成果が見られた。

政策的インプリケーション

非正規労働者問題の解決に向けて政府はいっそうのリーダーシップを発揮し、労働組合は積極的に組織化をすすめていくことが必要であろう。また、企業も協調的な労使関係を活用し、非正規労働者問題解決に取り組むことが求められる。

政策への貢献

日本の政労使は、深刻な非正規労働者問題の解決に向けて、話し合いをすすめていく際に、韓国の取り組みから示唆を得てほしい。特に、政府主導の下、公的機関が非正規労働者の雇用安定と処遇改善を行っている韓国から得られる示唆は少なくないとみられる。具体的には、公的部門の非正規労働者実態把握、常時・持続的な業務についている非正規労働者の雇用安定、正社員と非正規労働者との処遇格差の是正、格差是正における労働基準監督官の役割強化等である。

本文

  1. 資料シリーズNo.155全文(PDF:1.9MB)

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研究の区分

プロジェクト研究「我が国を取り巻く経済・社会環境の変化に応じた雇用・労働のあり方についての調査研究」 

横断的研究プロジェクト アジアにおける労働社会の実情把握などグローバル化対応に関する調査研究プロジェクト(東アジア等の労働社会に関する情報把握・調査研究)

・韓国における労働政策に関する研究

研究期間

平成24年~26年度

執筆者

呉 学 殊
労働政策研究・研修機構 主任研究員
朴 孝 淑
東京大学高齢社会総合研究機構特任助教
徐 侖 希
早稲田大学大学院博士課程

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