調査シリーズNo.182
「社会保険の適用拡大への対応状況等に関する調査」及び「社会保険の適用拡大に伴う働き方の変化等に関する調査」結果

平成30年8月31日

概要

研究の目的

2016年10月1日より、常時の雇用者規模が501人以上の企業で、社会保険(厚生年金・健康保険)の適用範囲が、① 週の所定労働時間が20時間以上、② 月額賃金が8.8万円以上、③ 雇用(見込み)期間が1年以上のすべての要件を満たし、学生でない短時間労働者に拡大された。また、2017年4月1日からは、500人以下の企業についても労使合意に基づき企業単位で、同様の短時間労働者に対する適用拡大が選択できるようになった。こうした制度改正を巡る、事業所とそこで働く短時間労働者の対応状況等を明らかにするため、「社会保険の適用拡大への対応状況等に関する調査」(事業所調査)及び「社会保険の適用拡大に伴う働き方の変化等に関する調査」(短時間労働者調査)を実施した。また、併行してインタビュー調査も行い、個別企業労使による具体的な対応事例を把握した。

研究の方法

アンケート調査(郵送法)及びインタビュー調査

主な事実発見

  • 社会保険の今般の適用拡大が義務づけられた「特定適用事業所等」(常時の雇用者規模 が501人以上の企業に属する事業所であるか、規模を問わず国や地方公共団体の事業所)を対象に、雇用管理上、何らかの見直しを行ったか尋ねると、「見直しを行った」事業所と「特に見直しを行わなかった」事業所の割合がともに1/3程度となった(図表1)。また、「見直しを行った」事業所に、具体的にはどのような見直しを行ったか尋ねると(複数回答)、「新たな適用を回避するため、対象者の所定労働時間を短縮した」(66.1%)や「新たな適用拡大に伴い、対象者の所定労働時間を延長した」(57.6%)との回答が多く、これに「新規求人に当たり、所定労働時間を短縮した」(15.8%)や「新たな適用拡大に伴い、対象者を正社員へ転換した」(15.3%)等が続いた。見直し内容を、いわゆる適用拡大策と適用回避策に分類して回答傾向を見ると、適用回避策を実施した事業所の割合が69.5%に対し、適用拡大策を実施した事業所の割合は63.2%と算出された。両者の組合せ状況は、適用回避策のみが21.7%、適用拡大策のみが15.3%に対し、両方とも実施が47.9%となった。

    図表1 社会保険の適用拡大に伴う、雇用管理上の見直し状況

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  • 全有効回答労働者のうち、適用拡大前からの第2号被保険者を除いた第1号被保険者、第3号被保険者、その他の短時間労働者を対象に、社会保険の適用拡大に伴う働き方の変更状況をみると、自身の働き方が「変わった」とする割合は15.8%で、「まだ変わっていないが、今後については検討している」が22.2%、「特に変わっておらず、今後、変える予定も無い」が60.8%等となった(図表2)。働き方が「変わった」場合の具体的な内容としては、「厚生年金・健康保険が適用されるよう、かつ手取り収入が増える(維持できる)よう、所定労働時間を延長した(してもらった)」が最多で半数を超え(54.9%)、これに「厚生年金・健康保険が適用されないよう、所定労働時間を短縮した(してもらった)」(32.7%)等が続いた。

    図表2 社会保険の適用拡大に伴う働き方の変化

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  • なお、社会保険に加入した理由を尋ねると(複数回答)、「もっと働いて収入を増やしたい(維持したい)から」(44.9%)がもっとも多く、これに「将来の年金額を増やしたいから」(44.3%)、「会社側から言われたから」(32.8%)、「保険料の負担が軽くなるから」(22.6%)等が続いた(図表3)。一方、社会保険に加入しなかった理由(複数回答)としては、「配偶者控除を受けられなくなるから」(54.7%)が最上位に挙がり、次いで「健康保険の扶養から外れるから」(50.6%)、「手取り収入が減少するから」(49.4%)等の順となった。

    図表3 社会保険に加入した・しなかった理由

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政策的インプリケーション

  • 社会保険の適用拡大から9ヶ月、制度特例の施行からは3ヶ月を経過した時点での状況把握に過ぎないが、調査結果を通じ、今般の適用拡大を前向きに受け止めた事業所や短時間労働者も少なくない現状を明らかにすることが出来た。その背景として、事業所側では緩やかな景気回復が続き、人手不足が深刻化しているタイミングで適用拡大が発効されたことが、プラスに寄与した可能性等が示唆された。一方、短時間労働者側でも第1号被保険者等は「保険料の負担が軽くなるから」等、また、第3号被保険者等は「もっと働いて収入を増やしたい(維持したい)から」等の理由で、社会保険への加入を志向した様子も浮き彫りになった。
  • 一方、社会保険の適用を回避した理由として、事業所側から「短時間労働者自身が希望していない」こと等が指摘されるなか、短時間労働者側からは「配偶者控除を受けられなくなるから」や「健康保険の扶養から外れるから」「手取り収入が減少するから」等の回答が多く寄せられ、税扶養の基準と近接していることや、健康保険とのセット加入であること等が、ネックになった様子も窺えた。
  • なお、自身が働くのを辞めると「日々の生活が維持できなくなる」短時間労働者ほど、今般の適用拡大に際しても社会保険が適用されるように働き方を変更したのに対し、家計に余裕がある人ほど適用を回避した傾向も浮かび上がった。短時間労働者の間でも、自身が働くのを辞めると「日々の生活が維持できなくなる」との回答が、第2号被保険者以外(第1号被保険者、第3号被保険者、その他)に占める割合で約3割にのぼっている。適用回避の余地は、不公平感(逆進性)の助長にも繋がりかねない点に留意する必要があると言えるだろう。

政策への貢献

本文

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研究の区分

情報収集

研究期間

平成29年度~平成30年度

担当者

荻野 登
労働政策研究所副所長
新井 栄三
労働政策研究・研修機構 調査部主任調査員(政策課題担当)
渡邊 木綿子
労働政策研究・研修機構 調査部主任調査員補佐(政策課題担当)

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.134)。

入手方法等

入手方法

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成果普及課 03(5903)6263

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