調査シリーズNo.176
「イノベーションへの対応状況調査」(企業調査)結果
及び
「イノベーションへの対応に向けた働き方のあり方等に関する調査」(労働者調査)結果
概要
研究の目的
人口減少による供給制約下にある我が国において、経済成長していくためには、一人ひとりが生み出す付加価値(労働生産性)を高めていくことが重要である。これに最も寄与すると考えられているのはイノベーションを促進し、事業活動に生かすことである。このため、今後のイノベーションで中心となるAI(人工知能)やICT(情報通信技術)に注目して、企業・労働者がどのようにこれらの技術に対応していくべきかを明らかにしていくため、企業・労働者アンケート調査を行った。 なお、本調査は、厚生労働省労働政策担当参事官室の要請に基づき、実施したものである。
研究の方法
アンケート調査(企業・労働者調査)。企業調査では、信用調査機関の企業データベースにより、産業・従業員規模別に層化無作為抽出。
調査対象は、企業調査が全国の常用労働者100人以上の企業;12,000社。労働者調査が調査対象企業で正社員8人に配付(計96,000人)。企業調査の有効回収数が2,505件(有効回収率:20.9%)。労働者調査の有効回収数が12,839件(有効回収率:13.4%)
主な事実発見
- 企業調査によれば、テレワークについて、テレワーク実施企業(「会社の就業規則に記載があるなど会社の制度として認めている」(4.5%)、「会社の制度はないが、上司の裁量や習慣として実施している」(7.7%)の合計)は12.2%となっている。テレワーク実施企業が認めているテレワークの種類(複数回答)は、「在宅勤務(SOHO含む)」が52.0%、「モバイルワーク」が57.6%などとなっている。
- 企業調査において、「テレワークを実施した効果」(複数回答)としては、「従業員の移動時間の短縮・効率化」が50.3%ともっとも多く、次いで、「定型的業務の効率・生産性の向上」(46.1%)、「仕事と育児・介護など家庭生活の両立支援」(30.6%)などとなっている。
- 企業調査では、テレビ会議(WEB会議や音声会議等を含む)の導入状況は、「導入している」が46.8%となっており、半数弱の企業で導入がなされている。テレビ会議の利用の用途は、「本社・支店・営業所等間の会議」「定例会議や個別テーマでの会議」「従業員同士の打ち合わせ」が上位にきている。
- 企業調査での「テレビ会議を実施した効果」(複数回答)としては、「移動時間の短縮・効率化」が82.3%ともっとも多く、次いで、「移動交通費の減少」「出張数の減少」「業務の効率・生産性の向上」「会議・打ち合わせ時間の短縮・効率化」などとなっている。
- 企業調査において、職場でのAI(人工知能)導入状況では、AIが「すでに導入済み」とする企業が0.8%、「現在、導入を検討中」が3.8%、「現時点で導入予定なし」が94.9%となっている。「導入・導入検討中」計(「すでに導入済み」「現在、導入を検討中」の合計)は4.6%である。
- 労働者調査において、AI(人工知能)の知識・スキルを習得するための対応・準備状況では、「すでに対応・準備をしている」が1.7%、「対応・準備をしたい」が28.1%、「特段に何もしない」が68.2%となっている。
- 職場に導入(検討)されているAIの役割・機能(複数回答)は、企業調査・労働者調査いずれも、「既存の業務効率・生産性を高める役割・機能」「既存の労働力を省力化する役割・機能」「既存の業務の提供する価値(品質や顧客満足度など)を高める役割・機能」などが上位にきている。
- 企業調査において、AI導入による従業員数の変化について、正社員数と非正社員数の増減を比較すると、正社員数に比べ非正社員数のほうが「減少・計」(「減少する」「やや減少する」の合計)の割合が高い。正社員のうち管理職、技術職、営業職・事務職の従業員数の増減の変化について、職種ごとにみると、「減少・計」の割合は、「営業職・事務職」がもっとも割合が高く、次いで、「技術職」「管理職」の順となっている。
- 労働者調査において、AIによる業務の代替に対する認識については、「仕事のほとんどが代替可能だと思う」は、5.4%と少数である一方、「一部代替が可能だと思う」が61.7%あり、「代替はほとんどない」は30.5%となっている。「代替あり・計」(「仕事のほとんどが代替可能だと思う」「一部代替が可能だと思う」の合計)を職種別にみると、「事務職」の割合がもっとも高い。
- AIの活用が一般化する時代に従業員に求める能力(複数回答)については、企業調査・労働者調査いずれも、「チャレンジ精神や主体性、行動力、洞察力などの人間的資質」「コミュニケーション能力やコーチングなどの対人関係能力」「企画発想力や創造性」が上位にきている(図表)。
図表:AIの活用が一般化する時代での求められる能力(MA、単位=%)【企業調査・労働者調査】
政策的インプリケーション
大企業であるほど、AI導入の検討がみられる。現段階では、職場に導入(検討)されているAIの役割・機能は既存の業務効率・生産性の向上や既存の労働力の省力化が中心。AIの導入により、従業員数は現状維持が大半であるものの、減少とする企業も多い。今後、AIを活用するための企画発想力や創造性等の習得を促進することが望まれる。
政策への貢献
平成29年版 労働経済白書での基礎的データの提供。
本文
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研究の区分
緊急調査「イノベーションへの対応状況調査及び働き方のあり方に関する調査」
研究期間
平成28年度
調査担当者
- 荻野 登
- 労働政策研究・研修機構 労働政策研究所 副所長
- 新井 栄三
- 労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員
- 奥田 栄二
- 労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員補佐
データ・アーカイブ
本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.103)。