労働政策研究報告書No.146
職務構造に関する研究
―職業の数値解析と職業移動からの検討―

平成24年 3月30日

概要

研究の目的と方法

我が国ではこれまで職業毎の解説等記述的な情報は整備されてきたが、職業に多面的な数値尺度を設定し、客観的なデータに基づき体系的に検討されたことはない。

そこで本研究では、「Web職務分析システム」により収集してきた2万名以上の実際の就業者のデータを分析することにより、職業を構成する各種次元を検討し、その次元によって職業間の関係を明らかにするとともに、人との関係をデータに基づき確認できるようにした。

また、以前報告した「Web免許資格調査」(労働政策研究・研修機構,2010)では収集した5万名以上のデータの中で、これまで集計していなかった職業間の移動に関する情報を分析し、どのような移動が見られるか、その実態を職業分類との関係で明らかにすることとした。

主な研究結果

職業興味、価値観、仕事環境、スキル、知識の数値について601職業を分析した。この数値は職業の中核要素といえる職務内容を、職業興味、価値観、仕事環境、スキル、知識から数値尺度化したものであり、職業毎の基準数値が得られたといえる。このような職業に関する数値と、職業毎にどのような職業から移動してくるか、また、どのような職業に移動していくかという職業移動に関して、以下のような様々な検討を行った。

  1. 職業興味に関してはホランドの研究に基づくRIASECについて、601の職業に関して基準値といえる数値が得られた。(第2章)。
  2. 職業に関する価値観に関しては、「達成感」、「成長」、「社会的地位」、「人間関係」、「自律性」、「労働条件」を設定しデータを収集し、601職業の基準値が得られた(第2章)。
  3. 仕事環境に関してはデータを収集した14項目を因子分析したところ、「座り作業」、「他者とのかかわり」、「屋外作業」、「影響度・責任」、「流れ作業」の5因子が得られた(第3章)。
  4. 職務の遂行に必要なスキルに関しては、「基盤」、「数理」、「テクニカル」、「ヒューマン」、「コンピュータ」、「モノ等管理」の6因子が得られた(第4章)。
  5. 職務の遂行に必要な知識に関しては、「科学・技術」、「芸術・人文学」、「医療」、「ビジネス・経営」、「語学」、「土木・警備」、「化学・生物学」の7因子が得られた(第4章)。
  6. 課業の文字から単語を抽出し、その頻度に基づいて因子分析したところ、店頭販売、研究活動、相談支援、診察判断、表面加工、食品製造、料理調理、デザイン、旅客対応、塗装切断、教育指導、切る成形、点検保守、看護補助、画像写真、測定測量、輸送運搬、品質改善、安全確認、取材執筆、印刷接着、塗る磨く、飼育観察、状態調査、映像撮影、発注整理、システムの27因子が得られ、これによって職業をかたまりにすることもできた(第5章)。
  7. 職業移動は「継続」、「流入」、「流出」と整理して分析し、職業分類の妥当性を確認するとともに移動の特徴を明らかにした(第6章)。
  8. 上記、スキル(6因子)、知識(7因子)、仕事環境(5因子)、職業興味(6項目)、価値観(6項目)は全体で30になるが、この間の相関をみると(図表1図表2、他)、職業興味と価値観に関連がある等、様々な興味深い職業の断面をみることができた(第7章)。
  9. 付表に601職業に関して尺度化した上記計30の側面からの基準数値をすべて示しているが、これから職業と職業の関係を知ることができ、また、多くの職業の中での相対的な位置がわかる(第7章)。職業毎の基準数値からは職業間の距離も特定でき一覧表として示した(第7章)。

図表1 スキル、知識、仕事環境の各基準値間の相互相関(601職業、21,033名)

※図表をクリックすると拡大表示します。(拡大しない場合はもう一度クリックしてください。)

図表1 スキル、知識、仕事環境の各基準値間の相互相関(601職業、21,033名)/労働政策研究報告書No.146

注1)30名以上データが集まった601職業に関して基準値間の相関行列を出している。この元となるのは21,033名のデータである。

注2)**は1%水準で有意、*は5%水準で有意。相関係数の絶対値が.500よりも大きなものに着色(白黒印刷の場合は灰色)している。

図表2 職業興味、価値観、仕事環境の各基準値間の相互相関(601職業、21,033名)

※図表をクリックすると拡大表示します。(拡大しない場合はもう一度クリックしてください。)

図表2 職業興味、価値観、仕事環境の各基準値間の相互相関(601職業、21,033名)/労働政策研究報告書No.146

注1)30名以上データが集まった601職業に関して基準値間の相関行列を出している。この元となるのは21,033名のデータである。

注2)**は1%水準で有意、*は5%水準で有意。相関係数の絶対値が.500よりも大きなものに着色(白黒印刷の場合は灰色)している。

本研究の成果と意義

職業は社会人にとっては身近な概念であり、自分とその周辺の職業世界は誰しも何らかのイメージを持っている。職業に関する体験談や個人的な感想は世の中に溢れている。ところが、自分の周囲にない職業に関しては誰しも正確な知識は少ない。また、職業の多面的な特性を客観的にデータ化し、整理、分析する研究はこれまで体系的には行われてこなかった。このような中、本研究では能力面、指向面、仕事環境において多面的に職業を数値化し、基準数値として示したことになる。

職業情報の収集に関しては、長く職務分析による方法が取られてきたが、本研究では全体では7万6千名のWeb調査により、詳細で横断的な基準数値や課業に関する情報を収集し、職業移動に関しても情報を得ることができた。Webでの情報収集は広範な職業に関して効率的に収集でき、本報告での様々な分析から収集したデータの妥当性も示されている。

今回得られた601職業の職業興味6項目、価値観6項目、仕事環境5因子、スキル6因子、知識7因子の計30の数値は職業毎の基準値といえるものであり、これにより職業間の関係をみることができ、多くの職業の中でどのあたりに位置し、それぞれの職業はどの程度近く、また離れているかを知ることができる。この職業の基準値をもとに今後様々なアセスメントを開発することもできる。さらに本研究では職業間の移動という次元(時間軸)を加えた分析も行っており、基準数値による職業を構成する尺度を2次元とすれば、時間軸を加えた新たな3次元構造での分析を行ったことになる。転職や職種転換を考えると、時間軸を加えた職業の捉え方はより実態に合ったものといえる。

以上のように本研究では、職業をデータに基づき多面的に数値化し、職業の移動に関しても分析している。職業移動に関しては、まだまだ多くの分析と検討が可能であるが、このような研究が蓄積されれば、就職や転職、職種転換や能力開発にあたって、判断の参考となる一つの基礎的情報を提供できることになる。

本文

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研究期間

平成23年度

執筆担当者

松本真作
労働政策研究・研修機構副統括研究員
佐藤 舞
労働政策研究・研修機構臨時研究協力員
鎌倉哲史
東京大学/日本学術振興会特別研究員
西澤 弘
労働政策研究・研修機構主任研究員
松本純平
労働政策研究・研修機構特任研究員/特任教授

入手方法等

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成果普及課 03(5903)6263

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