ディスカッションペーパー 19-03
生産性の上昇が労働需要に与えるマクロ影響評価(Ⅱ)
―一般均衡フィードバックによる構造変革の複製と外挿―

2019年2月25日

概要

研究の目的

本研究の目的は、一般均衡モデルを用いたシミュレーションによって、生産性ショックが部門別の労働需要(労働投入)に与える影響を評価することである。とくに、ディスカッションペーパー18-03の経済モデルについて、消費者行動を内生化する点で精緻化している。

研究の方法

総務省「平成12-17-23年接続産業連関表」における2000年、2005年、2011年の取引額データを用いて、カスケード型CES生産関数(完全な直列入れ子型のCES生産関数)および多要素CES効用関数のパラメータを推定する。次に、一般均衡モデルを作成して、ある1つの部門の生産性のみ1%上昇させる生産性ショックを与えた場合の労働投入の変化を部門別に推計し、変化の大きな部門の抽出を行う。

主な推計結果

  • 各部門の生産性を1%上昇した際に日本全体で見て労働投入の減少率(事前の労働投入計に対する比率)が高い部門を見ると、サプライチェーンの上流に位置するサービス部門が多い(図表1)。ただし、ディスカッションペーパー18-03の結果とはやや傾向が異なり、中・下流に位置する部門や製造業部門も含まれる。
  • もっとも減少率の高いのは、上流に位置する貸自動車業(弾力性は-1.371)である。同様に、情報通信(固定電気通信、移動電気通信、その他の電気通信、映像・音声・文字情報制作業、情報サービス)、対事業所サービス(労働者派遣サービス、広告、自動車整備、機械修理)、運輸(道路貨物輸送、道路輸送施設提供、ハイヤー・タクシー、バス)、商業(小売)、廃棄物処理(産業)、建設補修などといった、上流に位置する、つまり多くの部門で中間財として投入されるサービス業部門が労働投入の減少率が高い上位部門に入っている。
  • 一方で、上流(特用林産物(狩猟業を含む。)、その他の木製品、洋紙・和紙など)、中間(紙製衛生材料・用品、その他の電気機械器具、合成ゴム、板ガラス・安全ガラスなど)および下流(がん具、ビール類、乗用車など)に位置する製造業部門、および下流に位置する専門的なサービス業部門(飲食サービス、学校教育(私立)、生命保険、医療(入院外・入院診療)など)も、労働投入の減少率が高い上位部門に含まれている。

図表1 部門別生産性1%上昇にともなう労働投入の変化(減少率上位50部門、単位:%)

図表1画像画像クリックで拡大表示

注)★は、生産活動の主体が対家計民間非営利サービス生産者であることを示す。

  • 図表1で労働投入の減少率の高い部門の1つとして挙げられている「小売」部門を例に、「小売」部門の生産性が1%上昇した場合の労働投入の減少率および増加率(事前の労働投入計に対する変化率を部門別に分割したもの)のそれぞれ上位30部門を抽出した(図表2)。
  • 労働投入の減少率がもっとも高いのは自部門である「小売(-0.0832%)」であり、「パルプ(-0.0009%)」、「建物サービス(-0.0008%)」、「法務・財務・会計サービス(-0.0007%)」、「石炭・原油・天然ガス(-0.0007%)」が続いている。
  • 一方、労働投入の増加率がもっとも高いのは「印刷・製版・製本(0.0065%)」であり、「道路貨物輸送(自家輸送を除く。)(0.0048%)」、「卸売(0.0038%)」、「非住宅建築(非木造)(0.0018%)」、「住宅建築(木造)(0.0015%)」が続く。

図表2 「小売」部門の生産性1%上昇にともなう労働投入の変化(減少率および増加率上位30部門、単位:%)

図表1画像画像クリックで拡大表示

注1)事前の労働投入計に対する変化率

注2)★および★★は、生産活動の主体がそれぞれ対家計民間非営利サービス生産者および政府サービス生産者であることを示す。

政策的インプリケーション

生産性上昇を支援する対象の選定、および生産性の上昇によって労働需要の減少する産業部門から増加する産業部門への労働移動の支援する方策を考える上で、生産性の上昇が一国全体の労働需要に与える影響の大きな産業部門が何であり、具体的にどの産業部門の労働需要に与える影響が大きいかがわかる情報は有益である。

政策への貢献

生産性上昇の支援や産業部門間の労働移動支援のための政策を検討する際の基礎資料となることが期待される。

本文

2019年3月12日
本文10ページの(28)式を訂正し、それに伴って同式に関連する前後の文章を訂正・追記しました。 HPに掲載の本文PDFファイルには、この訂正が反映されています。

研究の区分

プロジェクト研究「技術革新等に伴う雇用・労働の今後のあり方に関する研究」
サブテーマ「技術革新、生産性と今後の労働市場のあり方に関する研究」

研究期間

平成30年度

研究担当者

中野 諭
労働政策研究・研修機構 副主任研究員

関連の研究成果

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