超高齢化社会に近く突入、介護人材不足とその対策

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2024年1月

中国では2035年までに60歳以上の高齢者が4億人を突破し、総人口の30%を超え、超高齢化社会へ突入すると予想されている。要介護者数は2016年に4,000万人を超えたが、介護を担う人材は大幅に不足している。大学生は低賃金、仕事の厳しさ、高齢者とのコミュニケーションの困難さから介護の仕事に就きたがらない。北京や上海などの地方政府では介護サービスに就く若者に「入職奨励金」を支給するなど、さまざまな対策を講じている。

加速する高齢化

中国では高齢化が加速している(注1)。2022年末時点で、60歳以上の高齢者は2億8,000万人を超え、総人口の19.8%を占める。そのうち65歳以上は2億978万人で、同14.9%を占める(注2)。中国衛生健康委員会によれば、2035年までに60歳以上の高齢者は4億人を突破し、総人口の30%を超え、超高齢化社会へ突入すると予想されている(注3)

深刻な介護人材の不足

中国では、要介護者数が2016年に4,063万(高齢者人口の18.3%)に達した(注4)。一方、2021年における高齢者介護施設等の病床数は813.5万床に対し、介護職員(養老護理員、日本の介護士に相当)数は32万2,000人にとどまっている(注5)。中国の基準によると、要介護者と介護職員の配置比例は4:1であるべきだが、人材不足が深刻で、十分に基準を満たせない状況にある。

高齢者の介護サービスに従事するのは、農村部出身者や都市部の失業者などで、その多くが低学歴、かつ40~50代に集中している。「2023年介護職員の現状調査研究報告書(注6)」によると、調査対象となった介護職員の平均年齢は49.14歳で、50~59歳の年齢層が50%以上を占めていた。また、農村出身者の割合は60%以上で、女性の割合は88.19%であった。さらに、高校卒業以上の学歴を持つ介護職員は36.89%のみで、専門的かつ高度な介護人材が特に不足していた。

若手人材確保の難しさ

北京師範大学中国公益研究所が2019年に公表した「中国大学生の高齢者介護サービスに対する就職意向調査報告」によると、高齢者介護サービスに従事者には、「女性が多く、農村出身者が多く、低所得家庭出身者が多い」という3つの特徴がある。調査対象者のうち、女性が76.46%、農村出身者が68.39%を占めていた。さらに、年収が8万元以下の低所得家庭出身者が78.31%、年収3万~8万元が29.71%を占めていた。

大学生は、高齢者介護サービスの仕事を避ける主な理由として「低賃金」、「仕事が厳しい」、「高齢者とのコミュニケーションが難しい」ことなどを挙げている。特に給与水準の低さは、人材難の大きな要因となっている。調査によると、大学生が希望する月給は、5,001~7,000元が40.1%と最も多く、続いて3,001~5,000元が32.4%、7,001~9,000元が13.36%となっていた。しかし、現実には、北京市、上海市、広州市の介護職の平均月給は4,000~5,000元で、北京や上海などの物価水準が高い都市では、十分に生活できる給与水準とはなっていない。

中国健康管理協会が2018年から、全国65の高等職業専門学校(注7)の介護専攻約1,000人の卒業生を対象に、3年間にわたる雇用追跡調査を実施しところ、介護サービスに従事する卒業生の離職率は、1年目が50%、2年目が70%、3年目はほぼ100%近くであったことが明らかになった。

低い給与水準に加えて、不十分な待遇、長時間労働や高い労働強度など、介護職は若者にとって魅力的な職業とは言えず、専門的な介護人材を確保し、就業を継続させることは非常に困難な状況になっている。

各地の介護人材確保策

介護サービスに従事する若者を確保し、就業を継続させるために、各地域ではさまざまな対策が講じられている。北京市では、「北京市介護サービス人材育成研修実施対策(注8)」(2020)により、北京市の新規卒業者で介護サービスに従事する者には「入職奨励金」が支給される。具体的には、大学(4年)以上の学歴を持つ卒業生に6万元、大学専科(短期大学に相当)や高等職業専門学校の卒業生に5万元、中等職業専門学校の卒業生に3万元が支給される。支給は在職年限に基づいて段階的に行われ、入職1年経過後に3割、2年目に3割、3年目に4割となっている。さらに、在職介護職員に対する「在職補助金」は、介護資格レベルによって技能等級に基づき毎月500~1,500元となっており、給与に追加して支給される。また、「北京市高齢者サービス人材建設行動計画(2023 -2025)(注9)」により、2025年までに「失能老人(注10)」を介護する1万人の在宅介護従事者を対象に職業訓練を行う予定である。これにより介護サービスに従事する人材が北京市戸籍の取得を希望する場合にポイント加算を受けることができる。

また、上海市では「上海市における介護職員に対する入職時の補助金や手当の給付に関する実施対策(注11)」を発表している。それによると、2022年1月1日以降、养老(高齢者)サービス機関と5年以上の有効な労働契約を結び、中等職業専門学校の卒業資格か、高等学校卒業資格以上の学歴を持つ新規学卒者で、かつ上海市で法定社会保険を納めている者は、それぞれ5年で3万元もしくは4万元の「入職補助金」を受け取ることができる。支給基準は、介護職員の学歴によって決められており、中等職業教育または高校卒業の入職補助金の基準は、5年間で合計3万元、高等職業教育または大学卒業の場合は、5年間で合計4万元とされている。支給は北京と同様に在職年限に基づいて段階的に行われ、入職1年経過後に2割、3年目に4割、5年目に4割となっている。入職補助金の申請対象期間内に、介護職員の学歴に変更があった場合は、次回支給の際に最終学歴に基づく補助金基準が適用される。

さらに、上海市では「在職訓練を行う介護職員に関する指導方針(注12)」を発表し、高齢者介護職員のための職場研修制度を整備している(2023年12月1日から実施し、有効期限は2028年11月30日まで)。介護施設内の職員に対して、非学歴教育の職場研修を毎年20時間以上実施することにより、充実した介護サービスの提供することを目的としている。また、技術者技能レベル証書を持つ介護職員はそれぞれのレベルに応じた集中訓練を受けることが規定されている。市と区の民政部門は、介護職員の在職訓練の実施状況を評価する。

これらの取り組みを通じて、各地域は介護人材の確保と育成に向けて取り組んでいるが、依然として介護人材の不足は深刻な課題となっている。

参考文献

  • 中国人的資源と社会保障部、中国国家発展と改革委員会、中国新聞網、第一財経

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