第111回ILO総会を開催
 ―質の高い見習い研修制度のための勧告を採択

カテゴリ−:労働条件・就業環境人材育成・職業能力開発

ILOの記事一覧

  • 国別労働トピック:2023年8月

国際労働機関(ILO)は、2023年6月5日から16日にかけて、第111回総会を開催した。スイスのジュネーブにあるILO本部において4年ぶりに全ての議事が対面で行われ、187の加盟国から政労使の三者構成による代表団約5,000人が出席した。総会では、見習い研修制度(徒弟制度)に関する勧告(注1)の採択、公正な移行(Just Transition)に関する一般討論などが行われた。以下で主な内容を紹介する。

質の高い見習い制度の基準を明記

今回の総会では、「質の高い見習い研修制度(徒弟制度)のための勧告(Recommendation concerning quality apprenticeships)」が採択された。この勧告は、技能のミスマッチや技能不足が増加している現代の労働市場において、「あらゆる年齢層の継続的なスキル獲得、リスキリング(スキル転換、学び直し)、スキル向上の機会」の支援強化を目的としている。

ILOは、この勧告において、「見習い研修制度(アプレンティスシップ)とは、徒弟契約によって管理される教育・訓練の一形態であり、OJTとOFF-JTの両方で構成される、体系的で、報酬またはその他の金銭的な補償が得られる訓練を通じて、ある企業で働くための能力の習得や認定資格の取得につながる制度」と定義している。

また、ILOは加盟国に対して、「見習い研修制度のための規制的枠組み、及び習得した能力を認定するための資格・制度を確立すべき」とした上で、「それらの研修プログラムの設計、実施、監視、評価に労使団体が参加すべき」と指摘した。

また、質の高い見習い研修制度の「基準」を設定するべきとした上で、以下の点を基準に含めるよう指摘している。

  • 「最低年齢条約(1973年、第138号)」及び「最悪の形態の児童労働条約(1999年、第182号)」に従った入門の最低年齢(注2)
  • 「労働安全衛生条約(1981年、第155号)」及び「職業上の安全及び健康促進枠組条約(2006年、第187号)」に則した労働安全衛生
  • 入門に必要な何らかの教育資格、到達度または事前学習
  • 研修生、雇用主、教育訓練機関及び仲介者(使用者や教育機関以外で研修の調整、支援などを行う団体)の責任
  • 有資格者による研修生の監督とその内容
  • 零細、中小企業において研修プログラムを促進し、労働者への代替を避け、適切な監督と研修の成功性を確保するための、労働者と研修生の適切なバランス
  • 研修期間の最短・最長予定期間の見通し
  • 研修期間中の事前学習または進歩によって短縮できる期間の見通し
  • 関連する職業能力、研修生・労働市場の需要に基づく学習成果及びカリキュラム
  • OJTとOFF-JTの適切なバランス
  • 見習い期間前、期間中、期間後のおける適切な職業ガイダンス、キャリアカウンセリングなど支援サービスへのアクセス
  • 教師、講師、社内トレーナー、その他研修に携わる専門家に必要な資格及び経験
  • 質の高い教育訓練を確保する必要性を考慮した、研修生と教師の適切なバランス
  • 習得した能力の評価及び認証の手順
  • 見習い期間終了時に取得できる資格

この勧告ではほかに、研修生の保護のための必要事項、研修生と使用者が締結する徒弟協定に含めるべき事項、質の高い研修の促進および国内・国際協力のための提言などを示している。

公正な移行に関する一般討議

また、今回の総会では公正な移行(Just Transition)に関する一般討議が実施された。

公正な移行とは、全ての人を取り残さず、産業構造の変化による被害を最小化して、持続可能なグリーン経済へ移行することを指す。

一般討議の結果、決議文書として、「全ての人のための環境的に持続可能な経済と社会への公正な移行に関する決議」を採択し、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の達成のためには、公正な移行が不可欠と強調した。

参考文献

2023年8月 ILOの記事一覧

関連情報