AIが及ぼす職業へのインパクト
 ―研究者らの分析が相次ぐ

ChatGPT(チャットGPT)などユーザーの求めに応じて自然な文章や適した画像を自動的に作り出す「生成(Generative)AI(人工知能)」の利用が急速に普及している。こうした中で、AIが職業や労働市場に与えるインパクトを考察した研究論文の発表が相次いでいる。チャットGPTを開発したOpen AI社とペンシルベニア大学の研究者らは3月27日、米国の労働者の約8割が、自らの仕事の少なくとも10%について影響を受ける可能性があると推計。プリンストン大学の研究者らは、賃金の高い仕事ほどAIの影響を受けやすいことなどを指摘している。

米国労働者の約8割に影響の可能性

Open AI社とペンシルベニア大学の研究者らは3月27日、「大規模言語モデル(LLM)の労働市場への影響の可能性に関する初期の考察(GPTs are GPTs: An Early Look at the Labor Market Impact Potential of Large Language Models)」と題する論文(注1)を発表した。

米国の職業情報データベースO*netを用いて、1,016の職業について、測定する仕事の内容(task)を決定。それらの仕事の質を維持しつつ遂行するのにかかる時間が、生成AIの基盤となるLLMのシステムを利用することにより、少なくとも50%縮減できるかどうかを試算した。試算にあたっては、「各職業の中で、それぞれの仕事を完全に分解できるか」という視点は考慮していない。また、LLMによる回答の正確さを人間がチェックするプロセスを踏まえておらず、仕事にかかる時間は短縮できたとしても、完全に自動化されるとは限らない。

推計結果によると、LLMの普及により、米国の労働者の約8割が仕事(task)の少なくとも10%、約2割が少なくとも50%、影響を受ける可能性がある。影響はすべての賃金水準の労働者に及ぶが、とりわけ高学歴、高収入の職業ほど影響を受けやすい。影響を受ける可能性が高い職業として、数学者、税理士、ライター・作家、ウェブデザイナー、会計士、記者などを示している。

高賃金の職業ほど大きな影響

プリンストン大学のエドワード・フェルテン教授らによる論文「チャットGPTなどの言語モデルは職業や産業にどのような影響を及ぼすか(How will Language Modelers like ChatGPT Affect Occupations and Industries?)」(注2)(3月18日発表)では、O*netから取得した800以上の職業を遂行するためのさまざまな能力(口頭理解、口語表現など52種類に区分)を、10種類のAIアプリケーション(画像認識、画像生成、読解、言語モデル、翻訳、音声認識など)に関連づけることで、AIの言語モデル機能がそれぞれの職業に及ぼす影響を推計した。

それによると、職業ではテレマーケティング担当者、中等後教育教師(post-secondary teachers)、産業では法律サービス、証券・商品契約・投資などの分野が多大な影響を受ける。職業における賃金の高さとAI(言語モデル)の影響度とは正の関係にあり、高賃金の職業ほど受ける影響が大きいと結論づけている。

生産性向上の効果

マサチューセッツ工科大学のシャクド・ノイ氏とホイットニー・ジャン氏による論文「生成AIの生産性効果の実験的証拠(Experimental Evidence on the Productivity Effects of Generative Artificial Intelligence)」(注3)(3月10日発表)では、大卒者444人を対象に実験を行い、AIの使用が仕事の遂行に与える影響を分析した。マーケティング担当者、助成金申請書類作成者、コンサルタント、データアナリスト、人事担当者、管理者らが実験に参加し、プレスリリースや短いレポートの作成、分析計画、電子メールの作成といった職務の遂行状況を、生成AIを使用するかどうかで比較した。その結果、生成AIを用いたほうが、作業時間が短く、仕事の質が高かった。また、生成AI使用者のほうがブレインストーミングや下書きに費やす時間よりも、編集の仕事に多くの時間を割いており、仕事の時間配分にも変化を及ぼすことが示された。

プリンストン大学のエリック・ブリニョルフソン教授らによる論文「仕事における生成AI(Generative AI at Work)」(注4)(4月発表)では、フィリピンに拠点を置く米国の顧客サポート(カスタマーサービス)会社の担当者ら約5,000人について、生成 AIの使用による業務の遂行状況と、1時間あたりの問題解決数を1年間にわたって観測した。

その結果、AIを使用したサポート担当者の生産性は、平均13.8%向上した。高スキルの熟練者よりも、初心者レベルや低スキルの者への影響が大きく、在職2カ月のAI使用者が在職6カ月のAI未使用者と同等のパフォーマンスを発揮するなど、AIに労働者のスキルの格差を縮める効果がみられた。また、AIの使用が、顧客感情の改善や、管理責任者に対応を要求する顧客の減少、従業員の定着率向上にも貢献したという。

75%がAIを導入予定

政治、経済、学術、文化など各界のリーダーらが参加する国際機関「世界経済フォーラム」が4月30日に発表した「仕事の未来レポート2023(Future of Jobs Report 2023)」(注5)によると、調査対象企業(世界45の経済圏で1,130万人の労働者を雇用する約800社の企業)のほとんどは、新たなテクノロジーの発展が雇用創出に積極的に貢献すると考えている。

データアナリストや科学者、ビッグデータ、AI・機械学習、サイバーセキュリティ関連の仕事が、5年後の2027年までに平均30%増加すると予測。42%の企業が、AIやビッグデータを活用する労働者の育成に、優先的に取り組むとしている。AIを導入する予定の企業は75%にのぼり、導入に伴い50%が関連する仕事の増加に、25%が仕事の減少につながると予想している。

参考資料

  • 世界経済フォーラム、内閣官房(新しい資本主義実現本部事務局)、ブルームバーグ通信、各ウェブサイト

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