コロナ禍における失業保険の特例措置と不適切な支払い

カテゴリー:雇用・失業問題

アメリカの記事一覧

  • 国別労働トピック:2022年10月

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経営環境の悪化により、米国の失業率は記録的に上昇した。連邦政府は失業者の当面の生活を支援するため、失業保険の対象拡大、給付期間の延長、一定額の加算などの特例措置を実施した。こうした措置は2021年9月上旬までに終了したが、連邦労働省監察総監室はこのほど、約456 億ドルの失業給付の不適切な支払いを確認したと発表した。連邦政府は各州に資金を提供し、不適切な支払いを防ぐための体制の強化やシステムの整備を進めている。

3つの特例措置

米国の失業保険制度は、連邦法を最低の基準としながら、それぞれの州が州法等に基づき、給付の対象者、要件、期間、水準等を定めて運営している。

2020年3月18日に成立した家族第一コロナウイルス対応法(Families First Coronavirus Response Act, FFCRA)は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う雇用情勢の悪化に対応するため、連邦政府の負担で州の失業保険財源を拡大するとともに、「積極的に求職活動を行っていること」という要件の緩和など、失業者への迅速・円滑な給付を各州に求めた(注1)

そして、同年3月27日成立のコロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security act, CARES法)により、失業保険給付の内容を拡充する三つの特例措置を導入した(図表1)。第1は「パンデミック失業支援(Pandemic Unemployment Assistance、PUA)」プログラムで、感染拡大の影響を受け、働き続けることができない自営業者、フリーランサー、独立請負業者、パートタイム労働者等を対象に、失業保険給付の資格を一時的に拡大した(注2)。第2は、失業保険給付の受給期間を満了した者を対象とする「パンデミック緊急失業補償(Pandemic Emergency Unemployment Compensation、PEUC)」プログラムであり、給付期間を最長13週間延ばした。第3は「連邦パンデミック失業補償(Federal Pandemic Unemployment Compensation、FPUC)」プログラムで、PUAやPEUCの受給者を含め、毎週の給付額に一律600ドルを加算した。

図表1:コロナ禍における失業保険特例措置の主な内容
名称 主な内容(制定当初) 支給期間等
パンデミック失業支援(PUA) 支給対象者の拡大(自営業者、フリーランサーら)
  • 当初は2020年12月末までと規定。
  • 統合歳出法で2021年3月14日まで延長。
  • 米国救済計画法で2021年9月6日まで延長
パンデミック緊急失業補償(PEUC) 最長13週間の延長給付
  • 当初は2020年12月末までと規定。
  • 統合歳出法で2021年3月14日まで11週間(合計24週間)延長。
  • 米国救済計画法で2021年9月6日まで29週間(合計53週間)延長
連邦パンデミック 失業補償(FPUC) 毎週1人あたり一律600ドルの加算
  • 当初は2020年7月末までと規定。
  • 2020年8月の大統領令で週300~400ドル(州により異なる)の追加給付に変更。予算が枯渇するまで実施。
  • 統合歳出法で追加給付額をあらためて週300ドルに設定。2021年3月14日まで実施。
  • 米国救済計画法で2021年9月6日まで延長

※ いずれも2020年3月27日成立のCARES法(コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法)で制定。

※ 統合歳出法は2020年12月27日、米国救済計画法は2021年3月11日にそれぞれ成立。

※ 米国救済計画法は特例措置の終了期限を2021年9月6日(月曜)と定めたが、各州は失業給付を週単位で計算して支給しているため、実際の給付申請の受付けは9月4日(土曜)ないし翌5日(日曜)に終わる週までとした。

終了期限の延長

一連の特例措置は制定当初、PUAとPEUCが2020年12月末、FPUCが同年7月末までと、あらかじめ給付期間の終了期限を設けていた。しかし、一進一退の感染状況が続く中、連邦政府は数回にわたり期限を延長した。

まず、2020年7月末にいったん失効したFPUCについて、当時のトランプ大統領が8月8日に大統領令を出し、1人あたり週300~400ドルを追加する措置をとった。これは「喪失賃金支援プログラム(Lost Wage Assistance Program)」というもので、連邦政府の災害救済基金(Disaster Relief Fund、DRF)が300ドル、州政府が100ドルを拠出し、負担できない州は連邦政府拠出分の300ドルのみ加算すると定めた。

2020年12月27日に成立した統合歳出法(Consolidated Appropriations Act 2021)では、①PUAとPEUCの期限を2021年3月14日まで延長、②FPUCの加算額をあらためて300ドルに設定し、2021年3月14日まで支給、という措置を講じた。次いで、バイデン新政権発足後の2021年3月11日に成立した米国救済計画法(American Rescue Plan Act of 2021、ARP法)で、それぞれの特例措置の終了期限を2021年9月6日に延長した。

なお、米国では失業保険給付も連邦所得税の課税所得としてカウントされるが、ARP法は年収15万ドル未満の所得の世帯に対し、2020年に支払われた1人あたり最大10,200ドルの失業保険給付を非課税の扱いにしている。

PUA申請は1,500万件を超す週も

米国の失業率(季節調整値)は感染拡大直後の2020年4月に14.7%へと高まった。その後は低下傾向を続け、2021年9月には4.7%となり、2020年3月(4.4%)並みの水準に近づいた。こうした中、ロックダウンの解除などで経済活動が本格的に再開するにつれて、「募集をかけても人が集まらない」と各地で求人難の声があがり、「就職意欲低下の要因に失業手当の特例措置があるのでは」との見方が目立ち始めた。このため、全米50州のうち、財政出動に消極的な共和党出身の知事が就く約半数の州で、特例措置の終了期限が前倒しされた(注3)。最終的に2021年9月5日までにすべての州が終了させている。

米国で失業保険給付を受けるためには、失業者は求職活動の実施状況など受給要件を満たしているかどうかをインターネットや電話などで報告し、「継続申請」を行う必要がある。連邦労働省によると、PUAの継続申請件数は2020年8月のピーク時に週1,500万件を超えた。PEUCは2020年秋以降ほぼ400~500万件にのぼる水準で推移した(図表2)。

図表2:PUA及びPEUCの継続申請件数の推移 (単位:件数)
画像:図表2

出所:連邦労働省雇傭訓練局「失業給付統計(Unemployment Insurance Data)」より作成

約456億ドルの不適切な支払いを確認

連邦労働省監察総監室(Office of Inspector General, OIG)によると、各州の失業保険担当窓口はCARES法に基づく特例措置への対応が遅れた。個々の失業者による最初の申請から給付までにかかった平均日数(2020年7月31日までを対象)は、PUA38日、PEUC50日、FPUC25日と、法令で定める14~21日以内に収まらなかった(注4)

また、OIGは、2021年9月までに支出したパンデミック関連失業給付の支出総額(推計約8,725億ドル)の18.71%にあたる約1,632億ドルが、詐欺などで不適切に支払われた可能性があると指摘する。2022年9月21日には、約456億ドルの不適切な支払いを確認したと発表している(対象期間は2020年3月~2022年4月)。重複者、死亡者、受刑者、不審な電子メールアカウントからの申請者らに給付したものとみられる(注5)

連邦政府(連邦労働省)は失業保険プログラムに関する不正や過払いの発見・防止の取り組みを強化するため、各州で失業保険行政を担う労働力機関(State Workforce Agencies、SAB)に対し、2020年8月31日、2021年1月15日、同年8月11日の3回にわたり、それぞれ総額約1億ドルの助成金を支給すると発表した。2022年7月22日にも総額約2億2,500万ドルの追加資金の提供をSABに通達し、スタッフの増員やシステムの整備を含む、不適切な支払いを防ぐ体制の構築を進めている(注6)

参考資料

  • 内国歳入庁、ニューヨークタイムズ、ブルームバーグ通信、ホワイトハウス、連邦財務省、連邦労働省、各ウェブサイト

参考レート

2022年10月 アメリカの記事一覧

関連情報