景気後退で移民労働者政策の論議活発化

カテゴリー:外国人労働者

アメリカの記事一覧

  • 国別労働トピック:2009年3月

急速な景気後退は、低学歴の労働者の雇用問題により深刻な影響を及ぼしている。中卒以下の学歴の若年労働者、特にヒスパニック系移民とヒスパニック系アメリカ人、アフリカ系アメリカ人に関してその傾向が顕著である。彼らが多く就労する建設業や飲食サービス業は、低賃金で低労働条件の職種であり、多くの不法移民が就労する分野でもある。同様の職種で季節的な就労許可をするH-2Bビザについては、発給数制限を緩和することや申請手続きを簡素化する改革が進められている。国内の失業率が高い水準にある中で、これらの低学歴な労働市場に果たして移民労働者を必要としているのか否かについては移民関連のシンクタンクの間で見解が分かれている。景気後退は移民政策のあり方について議論を活発化させている。

景気後退、移民労働者の雇用を直撃

ピュー・ヒスパニック・センター(Pew Hispanic Center)が2月12日に発表したレポート(注1)は、ヒスパニック系移民の失業率は他のエスニックグループに比べて高いと指摘する。米国全体の失業率の上昇は2007年の4.6%から2008年の6.6%だったのに対して、ヒスパニック系の外国出身者は5.1%から8.0%に上昇している。労働統計局の資料(注2)によれば、2009年1月の米国全体の失業率は7.6%に対して、ヒスパニック系の失業率は9.7%、アフリカ系アメリカ人の失業率は12.6%である。また、移民研究センター(The Center for Immigration Studies)が2月18日に発表したレポート(注3)によれば、中卒以下の黒人の失業率が24.7%、同じくヒスパニック系は16.2%であると指摘している。

移民対策で異なった見解

移民研究センターのレポートはさらに、以下のことを主張する。最新のデータによれば、2210万人の移民労働者がアメリカ国内で就労しており、600万人から700万人が不法に雇用されていると推定する。ほとんどの不法就労者の学歴は高卒以下であり、就労するのは建設現場、ビル清掃・メンテナンス、飲食業のウェイター・ウェイトレス、食品加工や農業のような仕事である。一方、高校中退か高校を卒業してから間もないアメリカ人の1280万人が失業状態あるいは非労働力状態にあるとされている。最近の経済危機において、政府が不法就労の取り締まりを強化した場合、100万人から200万人の不法就労外国人がアメリカを離れていくことが予想され、低学歴のアメリカ人の雇用状況は改善されるであろうと指摘する。

移民研究センターによるレポートは、政府が不法就労外国人の取り締まりを強化することによって、移民の流入を抑え、国内に滞在する移民を自国へ戻す効果があると指摘する。その一方で、移民政策研究所(Migration Policy Institute)が1月14日に公表したレポート(注4)は、移民が自国に戻る傾向が見られるとする確たるデータはないばかりか、州、市、群ごとに取り締まりの方針がまちまちであるため、帰国を選択するよりもアメリカ国内で雇用機会のある地域へと移動していくのではないかと指摘する。

さらに同研究所は2月12日に発表したレポート(注5)は、国土安全保障省の各部局による不法移民取締りが場当たり的なものであると疑義を呈する。移民税関取締り局(ICE)は、大人数の不法就労を手がける悪質な経営者、例えば人身密売を行なっている経営者を集中的に取り締まるべきであると指摘する。または不法滞在外国人を賃金を抑制する目的で雇用し、劣悪な労働条件で就労させているような経営者を集中的に摘発対象にすべきだと主張する。

H-2Bビザ改正法案の提出

非農業部門の一時滞在の外国人労働者向けのビザであるH-2Bビザの改革を趣旨とする法案が、2月5日、上院の超党派議員によって上院司法委員会に提出された。H-2Bビザについては当機構海外労働情報2008年9月の記事リンク先を新しいウィンドウでひらくでも紹介したとおり、申請手続の煩雑さと手続き期間の長さが問題とされており簡素化が進められている。今回提出された法案は、2009年から2011年の間の時限立法として、過去にH-2Bビザで滞在した労働者が再びアメリカに入国する際、ビザ発給の人数枠とは別に3年間滞在できるようにするものである。ミクルスキー上院議員(民主党・メリーランド州選出)は、「一時滞在外国人労働者なしでは多くの事業は成り立たなくなってしまう状況にある。メリーランド州周辺ではH-2Bビザ労働者を必要としていながら確保できない企業が見受けられる。人員の確保ができないことによって提供するサービスが制限されたり、倒産のためにアメリカ人労働者を解雇せざるを得ないことも起きている。零細企業とアメリカ人の雇用を守るためにこの法案は必要なのである」と強調する(注6)。ただ、先に紹介した移民研究センターのレポートによれば、H-2B労働者が就労する職種では人材不足が生じている証拠は見つけられないという指摘もある。

参考資料

  • ”Daily Labor Report”, Jan.15, Feb.13, 17, 24, BNA

2009年3月 アメリカの記事一覧

関連情報

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。