デンマークの労働市場

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2006年4月

デンマークの労働者と転職

2006年2月末に欧州委員会が発表した「労働力の流動性に関する調査報告書」によると、デンマークの労働者の平均転職回数は6回で、欧州連合(EU)諸国の中でも最も転職率が高いことが明らかになった。次いでイギリス、スウェーデン、フィンランドと続き、EU加盟25カ国の労働者の平均転職回数は3.8回となっている。

同報告書は「転職に対するEU諸国の国民意識」に関する調査結果についても言及している。これによるとデンマーク人の4人に3人(75%)は数年の間隔で転職することを肯定的に捉えており、他のEU諸国の国民に比べより多くの国民が転職についてポジティブに考えているという。事実、デンマークにおいては「労働力の流動性が高いことは人が必要な場所に移動(転職)することを意味し、これは経済や企業、また労働者本人にとっても有益なことだ」との認識が定着している。

デンマークの労働市場の特徴

デンマークの労働市場は、極めてフレキシブルであることが特徴だとされている。実際、デンマークでは1年間に転職する労働者の数は労働力人口の約3分の1に当たる約80万人にも及ぶことが経済省統計局のデータから分かる。デンマークでは経営状態が悪化した等の理由で比較的容易に労働者を解雇することが可能で、1年間に約25万件の職が喪失している。しかし反面、同じ1年間に25万件の新規雇用が創出されている。

デンマークでは職を変えず同じ会社や同じ機関・団体で同じ仕事をしている限り、勤続年数が増しても賃金はほとんど変わらない。そこで、新たな職にチャレンジするだけでなく、同時により高い賃金の確保を目指して転職するケースも少なくない。

デンマークのフレキシブルな労働市場は、1994年に施行された積極的労働市場政策に関する法律が掲げる「活性化路線」を柱とする積極的労働政策を基本としている。この活性化路線は、失業してから次の職に就くまでを「活性化期間」と定義し、失業保険給付と職業訓練、研修、企業実習等のツールを媒体として失業者を積極的に支援するものであり、失業者(求職者)個人の要望とニーズを重視しながら、雇用を目指した個別行動計画の作成も非常に重要な要素とされている。

ゴールデン・トライアングル

通称「ゴールデン・トライアングル」と呼ばれるデンマーク式労働市場モデルを形成する要素は、(1)フレキシブルな労働市場、(2)手厚い失業保険制度、(3)積極的労働市場政策である。OECDはこのゴールデン・トライアングルを「フレキシキュリティー(注1)」と名付け、フレキシブルで権利保障が手厚いデンマークの労働政策の特徴としている。

フレキシブルな労働市場、積極的雇用政策、失業保険制度を効率的に運用することで、失業者は再雇用に必要な資格を新たに取得し、失業者の再雇用の可能性が高められる。言葉を変えれば、教育や研修システムを充実させることで、雇用のミスマッチを解消するということであろう。ゴールデン・トライアングルの整備は、失業率の大幅な軽減に寄与し、1990年代前半は最高13%にも及んだ失業率は2005年度では5%台を推移し、今日では失業問題はほぼ解消されたとも言われている。

ゴールデン・トライアングルを形成する3つの要素のポイントは、下記の通りである。

  1. フレキシブルな労働市場

    基本的に終身雇用制度はなく、労働者は比較的頻繁に転職することができ、企業も労働者を比較的簡単に解雇(注2)することができる。

  2. 失業保険制度

    失業保険制度が充実しており、失業保険給付期間は4年間。

  3. 積極的労働市場政策

    労働者は失業後、活性化サービス給付を受ける権利と義務を有している。日割り失業手当てを受給しながら、再就職の道を見つけることができる。

ゴールデン・トライアングル

労働力人口の確保

人口の高齢化に伴い年々労働力人口が減少し、福祉国家の財源が不足することが懸念されている。このような状況の中、自由党が指導する保守連立内閣は、一部の早期年金受給者(注3)やデンマーク語の能力が不十分なため就労が困難な移民(二世)や難民(二世)の社会進出をより積極的に支援する施策を講じたり、60歳以上の高齢者(注4)が職場に留まることを支援する制度を導入するなどして、2010年を目処に労働力人口を対2005年比で6万人増加させることを目標として掲げている。

出所

  • 当機構委託調査員レポート

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