難航の様子をみせる「労働市場改革」への取組み

カテゴリー:外国人労働者労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年8月

スペイン政府が、二大労組及び雇用者側代表とともに、「政府・労組・雇用者団体の間での協議と合意に基づく労働市場改革の実現を目指す」という「社会対話共同宣言」を発表したのは、2004年6月。その後、この社会対話の枠組みで、外国人法施行規則制定や最低賃金額改定の交渉が行なわれ、労働市場改革へ向けての取組みが始まったが、その交渉は順調とはいえないようだ。

難航する労使交渉

労働市場改革について、政府は当初、夏休み前に大筋の合意に達し、秋以降具体的な法制化を始める予定であった。しかし、労使交渉の段階で予想以上に時間がかかりそうな見通しである。

労組側が、労働市場改革の最大の目的として掲げているのは、「有期雇用契約の濫用に歯止めをかける」こと。その背景には、有期雇用率の高さが存在する。スペインの有期雇用率は、30%。これは、EU内でも突出して高い数字である。これに対し、雇用者側が主張するのは、「労働者解雇に際してのコストの更なる削減」。労組側はこれには断固として反対しており、労使間の交渉難航の大きな理由のひとつとなっている。一方、政府は「原則的に労使が交渉によって合意に達し、その合意に基づきながら労働市場改革を実施する」というスタンスをとり、改革の内容に関する具体的な案を示してこなかった。

こうしたなか、2005年7月6日、ゴメス労働長官は、「労使が合意に達しなければ、政府は(改革実施の)責任を引き受ける」との姿勢を初めて表明。これに対し、メンデス労働者総同盟(UGT)書記長は、「労働市場改革に関しては、政府は労使に主役の座を譲るべき」と述べ、労使交渉に余計な圧力をかけないよう釘をさした。一方、雇用者側は、「交渉に一定の期限を設け、その上で労使間合意が達成しなければ、政府が独自に改革に着手すべき」としている。労使代表は、同年7月11日に会合を開き、行き詰まった状況の打開を図ったが、合意成立は九月以降へ持ち越される見込みだ。

求められる「労働市場改革」

スペインでは90年代半ばから、数度にわたり「労働市場の柔軟化」を目指した改革が実施されてきた。しかし、現在でも、労働市場の硬直性に起因する多くの問題が存在すると指摘されている。労働市場改革は、スペイン政府にとって、常に大きな課題であったといえよう。こうしたなか、政府の諮問機関である経済社会評議会のモンタルボ議長は、「好況が続いている今こそ、労働市場改革や社会保障制度改革を敢行するのに適している」と主張している。

2005年7月12日、スペイン経団連(CEOE)のヒメネス・アギラル事務局長は、あるセミナーの席で、労働費用問題等、急を要する改革が多々あるとしながらも、「1980年代に制定された『労働者憲章』に、一時しのぎの応急処置を繰り返すだけの改革でなく、2010年を目処として、いわば『労働者憲章Ⅱ』ともいえるものの導入を目指すという心構えで、労働市場改革に挑むべきである」と提言した。

これまでの改革のあり方をふまえて、新たな視点にたった「労働市場改革」は実現するのか。それには、まず、労使の合意達成という大きな山を乗り越えなければならない。

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