政府の労働関係予算案について

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年10月

連邦政府は2002年5月に2002/2003年度の予算案を提示した。その主要なものは、障害者支援年金の改革と福祉、雇用、訓練制度に関わっている。

特に政府は、障害者支援年金受給者を一般的な失業給付制度(NewStart)に移行させることを計画している。高齢社会の到来や医療費の高騰が財政危機をもたらしかねないと予想されており、こうした観点から今回の提案が示されたものと思われる。

障害者支援年金改革案

連邦政府は、障害者支援年金(Disability Support Pension、以下DSPとする)受給者が過去10年間に倍増したと指摘する。現在DSP受給者はおよそ60万人であり、この数はNewStartとして知られる失業給付受給者数よりも多い。DSPは支給額、受給要件の点でNewStartよりも寛容であり、連邦政府はDSP受給者の多くが障害を持っていないにも関わらず年金を受給していると考えてる。特に、軽度の傷害を負っていて解雇された40歳以上の男性がDSP受給者の大半を占めていると捉えられている。政府はこうした受給者を確定し、NewStartに移行させたいとしている。

政府の計画では、今後3年間に15万人をDSPからNewStartに移行させる。これにより、年間3億3600万豪ドルの節約となる。この計画実施にあたり、まず政府は職業訓練体制を充実させる予定である。

連邦政府は、DSPの受給要件を変更し、障害認定基準を厳しくすることでこの計画を実施しようと考えている。現在のDSP受給基準は、週あたり30時間以上働けない者である。政府はこれを週あたり15時間に変更することを提案している。

DSP受給資格が認められない者はNewStartに移行させられる。NewStartとDSPを比べると、NewStartの手当はDSPよりも週26豪ドル少なく、NewStartにはDSPで認められている年金受給者に対する特典(交通や電話、医療などの費用割引)もなく、さらにNewStart受給者は求職活動審査などを受けなければならない。つまりNewStart受給者は2週間につき10カ所に求職しなければならず、これを満たすことができなければ金銭的制裁を受ける。このようにDSPからNewStartに移行させられる者は金銭面でかなりの不利益を受けることとなろう。

加えて連邦政府は、症状が固定しうる特定障害を理由にDSPを受給している者にリハビリを義務づけるよう社会保障法を改正しようとしている。これにより、労働市場への再参入とDSPからの離脱を促進しようと意図している。

改革案に対する反応

予算案は連邦議会やメディアによる批判にさらされた。その多くは、今回の提案がハワード首相の選挙公約に反するというものであった。首相は社会保障制度改革によっていずれの者の手当も減らないであろうと約束していた。多くの国民は今回の政策を行き過ぎと捉えているようだ。ある調査では、DSP改革案を支持した者は17%に過ぎなかった。

また政府がDSPからNewStartへの移行者に対し訓練や求職体制を十分に検討していないことも明らかとなった。前述のように15万人の移行が計画されているが、それに対する資金は7万3000人分程度に押さえられている。加えて政府文書でも、移行者が求職支援サービスを受けられる保障はないとされていたことが明るみとなった。

こうした批判を背景に、労働党や民主党は上院での改革案成立を阻止するものと思われる。連邦政府は法案成立をめぐって上院での交渉に入っている。

エンプロイメント・ナショナルの閉鎖も公表

これ以外に、政府は学生に対する実習制度なども明らかにしている。加えて職業紹介事業における要ともなっていたエンプロイメント・ナショナルの閉鎖・売却も発表された。政府は1998年に職業紹介事業を民間委託したが、政府所有の職業紹介機関としてエンプロイメント・ナショナルを維持していた。これにより、政府は職業紹介事業に直接介入する手段を失うことになる。

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