2003年導入予定の個人能力開発勘定(IKS)

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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労働者の生涯学習費用を積み立てる個人能力勘定(IKS)に関する暫定法案が2002年4月に議会に提出された。最終的な法案は2002年秋に提出される。この制度は2003年7月1日に実施される予定である。

法案の主な規定は以下の通りである。

  • KSを設けて各人が年間9500クローネまで同勘定に貯蓄できるようにする。この貯蓄は所得税申告で控除される。
  • 使用者も従業員の勘定に資金を拠出することができ、その場合は支払い給与に対する税の割り戻しがある。
  • 勘定を新設したすべての個人には、最初に1000クローネの奨励金が支給される。
  • 各労働者は資金を教育目的に使う場合の使途を自分で決定する。勘定の資金を用いることができる教育プログラムを指定し、その目録を準備する予定である。
  • 従業員は勘定から資金を引き出す時、その引き出し額に応じた税金を支払う。つまり勘定に資金が積み立てられている間、納税を引き出し時点まで延期できることになる。最高40万クローネまで貯蓄できる。退職時に勘定に残っている資金は、年金基金に投資することができる。
  • この制度は、15年目以降は国庫からの赤字補填なしに運営される。それまでは、政府は年間11.5億クローネを制度確立のための資金として供給する。基金の額は、すでに40億クローネに迫っている。政府は、労使と法案の詳細について長い間交渉を続けていた。

自分の雇用可能性を高めるために貯蓄を

労働者と使用者の両方が、IKSの恩恵を得ることができる。各労働者は、学習と職業能力開発に関する責任を自身で引き受けることによって、雇用可能性を高めるとともにキャリアの選択肢を広げ、雇用保障を強化することができる。使用者にとっては、様々な能力を持つ柔軟な労働力を用いることができるようになるため、競争上優位になり着実な生産性向上が保証される。

IKS制度への加入は任意である。各人は貯蓄するかどうか、どの能力開発・教育・訓練に貯蓄を利用するかを自分で決定する。この貯蓄はオンザジョブ・トレーニングの資金源として、あるいは、それに代わるものとして利用されるべきではなく、むしろ、それらを補足して個人の選択の自由を広げる財源としなければならない。しかし、この制度の導入に関連して、全社的な能力向上制度を拡充する方向での団体交渉を促すことができるし、そうすべきでもある。

IKSの経済効果について調査した政府の委員会は、IKSは労働市場のすべての部分にプラスの効果を及ぼすと推定している。この推定には労使双方が同意している。実際のところ、労使の主な批判は、委員会の報告書が発表されて労働組合と使用者団体の両方が全面的に支持したあとも、政府が迅速に行動に移さなかったことに向けられていた。

IKSは、確実に労働市場の流動性を高め、熟練労働者の不足に起因する生産工程の隘路を押し広げ、失業の危険を軽減し、高年労働者の就業を改善するだろう。IKSは、教育部門を活気づけるだろう。新しい柔軟な教育・訓練プログラムへの需要が生まれる。公的な教育制度は、急成長する民間教育市場との競争を迫られるようになる。教育制度は、高学歴のホワイトカラー労働者や専門職労働者と、14~15年(50歳以上の労働者の場合はもっと短い)の基礎教育しか受けていないブルーカラー労働者の両方に、プログラムを提供する必要がある。中でも、常勤の仕事を持たない労働者たちは、特に留意が必要な別のカテゴリーを形成している。労働組合と社会民主党政権の夢は、IKSが労働者の生涯所得の所得格差を縮小するか、少なくとも拡大を食い止める役目を果たすことである。

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