長期化する一部の労使紛争

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年5月

フィリピンの労使関係において、1990年代より、スト通知件数、スト発生件数、スト参加労働者数は、ともに減少する中、長期化している労使紛争もある。ピュアーフード社、ネスレ社、マニラミッドタウンホテル等の労使紛争である。その原因は様々である。

ピュアーフード社

養鶏場を営むピュアーフード社は、「解雇は、労働者に対するロックアウトで、不法」とした二審の判決を不服として、上告した。

上告書の中で、会社側は、養鶏場の閉鎖は、労働組合対策とは別だと反論している。これは労働組合を解散させるために、1992年から1994年までに、11の養鶏場を閉鎖したとする労組の主張への反論。主な閉鎖理由は、(1)鶏肉産業の持続的な市場の悪化、(2)養鶏場の土地所有者からの土地賃借料の増額要求を会社側に経営上応じられず、結果的に土地所有者との土地賃貸契約が終了したためである-と説明している。また、中央労使関係委員会(NLRC)が、労働法第212条(『ロックアウト』とは、労使紛争の結果として、使用者が仕事を供給することを拒否することをいう」)を適用した決定に異議を唱えている。

二審では、労組側への「閉鎖は、経営者側による労組解消の経営戦略であり、会社側の行為は不法な労働者の締め出しであり、労働者の自主的労組の結成と団体交渉の権利を剥奪するものである」という主張が認められた。

また、NLRCも、この労働争議を調査した後、労組側の主張を一方的に認め、経営者側が突然養鶏農場を閉鎖したことは、労使交渉上問題があったとして、ピュアーフード社に、労働者の経済的損失補償の他に、道義的、懲戒的な責任として50万ペソの支払いを命令した。

ピュアーフード社の上告書の中で、11992年頃より養鶏・精肉事業の様々な運営費の膨張、低下する生産性、企業間競争の激化が顕著になり、経営は斜陽になりかけていた2経営者側は、経営を維持するようコスト削減と作業の簡素化を実施してきたが、それでも経営は悪化してきていた3そこに今回の土地所有者の土地賃借料の値上げ要求があったため、農場の再編成を余儀なくされ、一部の養鶏場を閉鎖せざる得なくなった-と主張している。また、養鶏場でロックアウトを受けることなく、閉鎖の通知を受けた労働者は、退職手当として1カ月分の給与受け取り、解雇の同意書に署名していたと経営側は説明している。また、労組側が抗議している繁殖用の養鶏の夜間移動の問題に関しては、労働者を騙すためではなく、暑さに弱く、非常に神経質な繁殖用の鶏の移動は、気温が下がり、暗くなる夕方から開始せざるえなかったと説明している。更に、NLRCの50万ペソの支払い命令決定は、法的根拠がないと抗議している。

ネスレ

ネスレフィリピン社の労使交渉は、依然として膠着状態が続いている。

2002年1月30日、2月7日、ブリオン労使関係担当の労働次官の出席の下、経営者側の代表とカブヤオ工場とラグナ工場の労働組合の代表が、2002年1月のストに繋がった対立点を解決する話し合いを行ったが解決には至らなかった。

このストは、労働組合が、団体協約の交渉内容に退職計画に関する事項も含むことを要求したが、経営者側が拒否したことに起因している。経営者側は、「退職計画は、会社側に主導権があり、従って、全ての議論は、団体協約の交渉の場から除外される」として譲歩しなかった。会社側の顧問弁護士は、当該労働組合の要求を認めると、会社側は、他の8つの工場での雇用契約に問題が生じ、新たな問題が引き起こされる原因となるため、と説明している。

もう一つの対立点は、カブヤオ工場での積極的な求人活動である。ネスレ社は、アセアン市場で販売する幼児用粉ミルクの増産を理由に、2002年2月5日、数社の新聞紙上でカブヤオ工場での労働者の求人広告を掲載した。これは、1月16日、労働雇用省(DOLE)により発令された一部労組員の職場復帰命令を拒否した直後だった。労組側は、DOLEの職場復帰命令を応諾しなかったことと、この求人と因果関係があると主張している。

マニラミッドタウンホテル

マニラ・ミッドタウンホテル・アンドランド社(MMHLC)は、労組側とサービス料金の配分において労使紛争が生じている。

管理職側は、1989年にDOLEに対し、自分たちの割当て分について不満を表明した。しかし、労働組合は、管理職の割当ては、15%であり、一般労働者に割当てられた85%からは提供できないと主張した。しかし1991年2月、労働仲裁人のセフィリナ・J・デオサナは、管理職側に有利な裁定を下したためそれ以降は、MMHLCの経営者も、サービス料金の85%の割当てを受けるリストに含まれていた。このため、労働組合は、「MMHLCは、不正な労働慣習を導入した。サービス料金の85%は、一般労働者に配分されるという団体協約の内容に違反している」と抗議し、労働争議に発展していた。

二審とNLRCは、労組側の主張をほぼ認め、管理職以外の一般労働者のみが、サービス料金の85%の分配を受ける資格があり、一般労働者に約1380万ペソを支払うよう経営者側に命じた判決を下した。勝訴した労組側は、サービス料金を全ての労働者へ均等に配分するよう請求していた。この金額は、1991年からの強制的に解雇された労働者のサービス料金の未配分部分を補填するものである。

ホテルやレストラン等サービス産業の客は、サービスに対して平均10%のサービス料金が要求される。労働法の第96条は、「ホテル、レストラン、その他同種の業種において回収されたサービス料金額は、全ての関係労働者に85%、経営者側に15%の割合で配分される。労働者側の割当て分については、彼らの間で均等に配分される。サービス料金が廃止された場合には、関係労働者の割当てはその賃金に統合されたとみなされる」と定めている。

その他の労使紛争

中央調停斡旋委員会(NCMB)によると、2002年2月1日から15日だけでも、労組側から17件(参加労働者2084人)のストの通知があった。

主なものは、マニラ首都圏では、メタル・エンジニアリング・リソース社、HYCLフィリピン社、A ルソン・アンド・コマーシャル社、MGガーメント社、JAクルヅ・ハードウェア・アンド・エレクトニックスプリ社、エヴァーウッド・ファーニチュアー社、テッサー社、Dオリジナル・アリングネネ・レストラント社、トラデスフェアー・インダストリアル・コモデティ社、メタルエンジニアリング・リソース社、マニラ首都圏以外では、バウアング・プライヴェート・パワー社(イロコス地方)、バーレインフィバーグレス・フィリピン社(中部ルソン地方)、シャウタイ・ンターナショナル社(中部ルソン地方)、セナプロ社(中部ビサヤ地方)である。

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