改正連邦プライバシー法の施行とその影響

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年5月

改正連邦プライバシー法が2001年12月21日に発効した。このことは、雇用関係、特に企業等が労働者の情報を収集、管理、利用、開示する方法に大きな影響をもたらすものと思われる。改正法は、使用者に新たな義務を課し、そして民間企業によりその個人情報が保有され得る労働者や消費者等に新たな権利を付与している。

改正法の概要

挨拶 改正法は、民間組織による「個人情報」と「センシティブな情報」の取扱いに適用される。「個人情報」とは、当該情報や見解から個人の身元が明らかとなる、あるいは合理的に確かめられ得る個人に関する情報や見解をいう。「センシティブな情報」とは、個人の健康状態や性的志向、政治的見解、犯罪歴、組合加入といった慎重な取扱いを要すると思われる個人情報を指す。

企業などの組織は、いわゆる「全国プライバシー原則」を遵守しなければならない。同原則は個人情報またはセンシティブ情報の組織による収集、利用、開示を規制し、個人情報やセンシティブ情報が記録や一般的に入手可能な出版物への包含を目的に収集される場合に適用される。

同原則の主な内容は次のようにまとめることができる。

  • 組織は、当該情報が組織の機能や活動に必要である場合にのみ個人情報を収集する権利を有する。
  • 組織は、合法的でかつ公正な手段によってのみこうした情報を収集しなければならない。
  • 組織は次の場合を除き、情報収集の初期の目的に関係しない目的で情報を利用したり、開示することは認められない。すなわち、個人が合意した場合、あるいは開示が個人の健康に対する重大でかつ差し迫った脅威を防止するのに必要である場合には例外が認められる。
  • 個人に関するセンシティブな情報は、当該個人が合意しない限り収集されてはならない。
  • 組織は個人情報の安全性を確保することが義務づけられる。
  • 組織は個人情報の管理に関する方針を作成しなければならない。

同原則に違反する組織は、個人のプライバシーを侵害したとみなされる。個人は自己のプライバシーが侵害されたと考える場合には、連邦プライバシー委員会に苦情を提起することができる。委員会はプライバシー侵害があったかどうかを調査する権限を持ち、損害賠償命令を含む数多くの命令を出すことができる。

従業員記録に対する例外

同原則は一見すると非常に厳しいものであるが、従業員記録の取扱いに関しては多くの除外規定が設けられている。この場合の従業員記録とは組織と個人間の雇用関係に直接関係するもので、健康状態、緊急の場合の連絡先、行い、職務遂行能力や解雇の事情に関わる情報が含まれる。従って、情報が従業員ファイルへの正当な包含を目的に収集され、かつそれが雇用関係に直接関係している限り、組織は広範な個人情報を収集し利用することができるのである。例えば、組織は将来の使用者に対し現在あるいは過去に就労したことのある労働者の情報を提供できる。しかし組織が営利目的でこうした情報を開示することは認められないであろう。

非常に問題なのは、同除外規定が医療記録に適用される点である。しかし医療情報が適用除外となるためには、現在あるいは過去の雇用関係と直接関係している必要がある。さらに組織が医療記録を取り扱う際には、センシティブ情報の取扱いに関する厳格な規制を守らねばならない。

電子メールなどの利用について

改正法では、企業の技術が利用された場合に使用者が労働者の電子メールやインターネットの利用を監視する権利を有することが確認されている。多くの使用者は、従業員が会社の技術を使ってインターネット上のわいせつ文書にアクセスしたり、配布していることを発見し、こうした従業員を解雇している。ところが私的な通話や通信にはこれとは異なる取扱いが必要となる。つまり当該情報が組織の機能に必要でない限り、使用者がこうした方法を通じ情報を収集すればプライバシー原則に違反することとなる。

職業紹介業者への規制も

改正法の大きな影響を受けるのは、職業紹介業者(特に経営幹部対象)である。職業紹介業者は業績や能力に関する見解や逸話、資料とともに成長してきた。12月21日以降、個人は業者の保有する自己に関する記録の閲覧を求めることができ、また誤ったあるいは誤解を招きやすい情報の削除を要請することができる。おそらくこれにより、求職者が誤った情報により就職できなかった場合等の救済が行われやすくなると思われる。

改正法を完全に遵守している企業は少ないかもしれないが、連邦プライバシー委員は違反を放置するつもりのないことを表明している。EUの規制に比較すればオーストラリアのそれは緩やかなものであるが、企業は個人情報の取扱いに関する方針を作成し、それについて従業員を訓練しなければならなくなった。その意味でも、改正法はオーストラリアの企業にとって新たな課題となるであろう。

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