WTO加盟後の「労働力の質の向上」は緊張課題

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年2月

労働社会保障部が公表した『2001年第二4半期における労働市場需給状況』は、東北、華北、西北、華南、華中の5大地域における63の都市部労働市場管理部門の統計結果をまとめたもの。それによれば、これらの地域では、労働需要の3分の2は、商業やサービス業および運輸部門に集中している。他方、求職者は、高卒とそれ以下の者がメインで69.1%を占めており、大卒とそれ以上の者は30.2%、中卒とそれ以下は約2割を占めている。求人企業の募集条件をみると、一定の技術技能を求めるものは総需要の53.5%を占めている。これは、逆に求職者の技能技術水準が労働市場の需要に満足させられない現状を示すものとなっている。

2001年8月に、労働社会保障部はWTO加盟が労働市場に与えるインパクトを想定した労働問題会議を北京で開催し、労働問題専門家が一同に集まり労働力の質の向上について議論した。専門家によれば、WTO加盟後に、労働集約型産業でもこれまでの低付加価値生産から高付加価値生産に移行しなければならないが、労働者の技能の質の低いことが産業構造転換のネックとなっている。現在、中国では技能労働者は労働者の半分しか占めておらず、高卒以下の教育しかうけていない労働者が大きな割合を占めている。

労働社会保障部は、1990年代から労働予備制度、職業資格制度、就業準入制度などを打ち出し、労働者の質の向上に努めたが、現時点の情報をみる限り大きな改善はみられなかった。

その理由の一つは、社会全体における高学歴への憧れである。北京を例にしてみると、1980年代、サービス業の成長が早く、収入は国有企業よりも高い。当時、中卒のうち、76%が職業高校(普通高校とは異なり、職業教育を行う高校)に進学し、普通高校に進学したのは24%しかなかった。しかし、今の時世では、大卒という高学歴がなければ良い仕事につけず、このため親は子供を普通高校に進学させたい気持ちが強く、職業高校への進学者数は大幅に低下している。

それと関連して、労働市場でも大卒などの学歴を重視し、職業資格証書をおろそかにする傾向があり、職業技能教育はますます軽視されている。その結果として、都市部学生は技術学校や専門学校を敬遠し、大学進学の狭き門で過激な競争を繰り返している。他方、農村地域では十分な技能技術教育機関がなく、進学できない者は何の技能も持たずに、出稼ぎ労働者として大量に都市に流入している。

また、企業側も学歴偏重・技能軽視の傾向がますますひどくなっている。銀行や電信サービス企業では、カウンター受付でも大卒の学歴を要求しているほどである。ある国産自動車メーカーの経営者は、社内には一流のデザインができる高学歴エンジニアはたくさんいるが、デザインから実際の車に変えていく優秀な技能労働者がいないと嘆いた。

現在、中国では中等職業学校と呼ばれる専門学校、技術学校、職業高校などは1万校近くあり、年間400万人の学生を受け入れ、在校生は1200万人にのぼる。そのうち、特に3000校の重点(一流)職業学校は、設備、質および教員の面において一定の実力を備えている。近年、これらの学校の卒業生は、卒業証書と同時に職業資格証書も取得しており、技能水準が大幅に上昇している。

しかし、他方、中国では年間800万人の中卒者と100万の高卒者は、上の教育機関に進学できず、そのまま労働市場に入っている。今後、このような労働人口はさらに増加すると思われている。また、近年、農村地域から流入した出稼ぎ労働者のうち、7割が何らの職業技能教育も受けていない。この状況をみると、職業技能教育機関は依然として不足しており、今後、これらの問題を改善するには、国家、企業、労働者個人の共同努力が必要とされている。

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