サウジアラビア、シンガポールでの海外メイド就労一時禁止へ

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年10月

海外で就労しているインドネシア人は現在約89万人と推定されているが、実際はさらに多くの労働者が、主にサウジアラビアやマレーシア、香港、台湾などで出稼ぎ就労を行っていると見られている。渡航者の増加により、現地でのトラブルや問題も急増しているが、具体的な策が講じられることは少なかった。

インドネシア政府はようやく海外出稼ぎ労働者に対する保護を目的に、各国政府と問題の取り組みに着手する姿勢を見せ始めている。2001年7月11日には、海外就労者の権利保護のための協力体制を強化するため、労働移住省、内務省、外務省、法務・人権省、財務省の5つの省が協力体制を構築し、移動労働政策を立案していくことが決定した。

サウジアラビア

アル・ヒラル労働移住相(当時)は2001年7月11日、サウジアラビアで働くインドネシア人労働者保護に関する合意を両国間で得るため、7週間の労働者渡航及び就労禁止を課した。

渡航及び就労禁止期間は2001年7月9日から8月26日までとなっているが、サウジアラビア政府との交渉がまとまらなければ、延期の可能性もある。

インドネシアにおいて海外就労の最大の受け入れ先となっているサウジアラビアでは、推定約37万人の労働者が生活しているとみられている(2000年)。そのためここ数年、インドネシア人がサウジアラビアで直面した様々な問題をまとめたレポートが数多く出版された。それにもかかわらず、労働者の権利保護はほとんど考慮されてこなかった。

インドネシア同様、多くの海外出稼ぎ労働者をサウジアラビアに送り出しているフィリピンでは、政府間の合意が達するまで3年間の渡航・就労の禁止期間を設けた経験を持っている。

シンガポール

シンガポールへのメイド就労一時禁止は、2001年7月18日にアル・ヒラル労働移住相(当時)の発表により明らかになった。一時禁止の理由として、この30ヶ月の間、シンガポールで亡くなったインドネシア人メイドは43人(自殺者含む)にも上ることから、政府間での労働者保護に関する話し合いの時期を迎えたとしている。

シンガポールの労働力省(MOM)によれば、1999年から2001年7月上旬までに21人のインドネシア人メイドが、高層ビルから転落して死亡している。シンガポールは地理的な制約から、高層マンションに住む人々が多く、洗濯物はベランダから長い竿を渡して干すというスタイルが定着している。そのため、高いベランダでの作業で命を落とすメイドが珍しくないという。

また、シンガポールでは14万人以上の外国人メイドが就労しているとされ、これは8世帯に1世帯の割合でメイドを雇っているという現実を表している。

シンガポールで働くインドネシア人メイドの月給は約230米ドルで、インドネシア国内の平均月給とされる30万ルピア(約30米ドル)を大幅に上回る。そして2年間の海外就労で、平均3000万~5000万ルピアの貯金を郷里に持ち帰っているという。この額を国内で貯めるには10倍の月日が必要だとみられる。 

このような一時的な就労禁止は、1997年に続いて2回目。しかし、1997年の禁止はほとんど効果がなかったため、今回はどのような結果となるか注目される。

香港

2001年7月20日、香港ではインドネシア人メイド約80人による大規模なデモが行われ、「我々は日用品ではない、人間だ」と叫びながら行進し、使用者や斡旋業者の搾取及びインドネシア政府の無策に抗議した。

インドネシア出稼ぎ労働者協会(AIMW)によると、香港で働くインドネシア人メイドらが結集し、虐待と搾取を撲滅するために抗議活動を行うことを決めたということだ。香港で働くインドネシア人労働者は約5万9000人で、大多数の労働者は上記のような問題に直面していると見られている。彼女らのインドネシアに送られる仕送りは、インドネシア経済に多大な貢献をしているにもかかわらず、政府は海外出稼ぎ労働者の権利保護を怠っていると主張している。

香港の移民労働者に関する規則によると、斡旋業者は斡旋料金として最高367香港ドル(46米ドル相当)しか請求できないことになっている。しかし、実際にインドネシア人メイドが支払う金額は1万~2万5000香港ドルにも上っている。また、移民労働者の月額最低賃金である3670香港ドル以下で従事しているインドネシア人も多いと、アジア移民センター(AMC)は伝えている。

このような外国人メイド雇用に関する賃金や契約トラブルは急増している。香港労働局の調べによると、相談件数は、1999年には2280件、2000年も1月から10月までで1786件にのぼっている。

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