連邦裁判所、オーストラリア職場合意導入をめぐり差止命令

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年1月

現自由・国民党連立政権は職場関係法の中に、使用者と労働者が労働条件について個別的に合意する「オーストラリア職場合意(AWAs)」を設けた。同法制定の際には、AWAsは、労組を介さない労働条件決定システムとしてオーストラリアの労使関係制度に大きな影響をもたらすものとして注目されていた。

このAWAsをめぐり、連邦裁判所が最近になっていくつか興味深い判断を示している。本号ではこれらを取り上げ、それがもたらす影響を考察したい。

連邦裁判所の暫定的差止命令

連邦裁判所は、ビルバラ地区でのBHP社によるAWAs導入計画について、2000年1月に暫定的差止命令を出したのに続き、コモンウェルス銀行(CBA)による同様の試みに対しても暫定的な差し止めを認めた。

CBAは、2000年9月に金融部門組合(FSU)との交渉が行き詰まったために、従業員に対し、AWAsへの移行を提案した。CBAの提案は、大企業による同様の提案の中でも最も対象従業員数が多く、さらに、労組が特に先鋭的でないにもかかわらず提案が行われたという意味で、大きな関心を集めた。CBAの提案が成功すれば、オーストラリアの労使に大きな影響をもたらすものと予想された。

しかし、労組は、CBAの提案を阻止すべく、裁判所による暫定的差止命令を求めた。連邦裁判所が労組の請求を認めたために、ここで1つの疑問が生じた。すなわち、労組が反対する中でのAWAs導入はどの程度可能なのか、ということである。

職場関係法の1つの大きな特徴は、労働者に対し、労組を通じ労働条件を交渉する方法と、個別に使用者と直接交渉する方法(AWAs)を提供しようとした点にあった。支持者は、AWAsを労働者と使用者の間から第三者を取り除く新しい職場文化の始まりであるとして歓迎した。他方、批判的な者は、こうした動きを労組の弱体化を図り、労働者の搾取と労働強化に道を開く陰謀であると捉えた。

実際に、1998年の港湾労使紛争では、労組の弱体化が主な目的とされた。同紛争では、パトリック社が労組所属従業員を解雇し、その代わりに個別契約に合意した労働者を雇用したのである。裁判所は、同社が組合員であることを理由に労働者を解雇したことで、職場関係法の「結社の自由」規定に違反したとの判断を示した。それ以来、労組は、使用者の組合弱体化の動きを阻止するために、使用者が労組加入の自由を否定しているとして差止命令を利用する戦略をとってきた。

今回の CBAの提案をめぐっても、労組は同様の戦略をとり、とりあえず成功したのである。CBAは、相対的に低賃金である2万8000人強の従業員に対しAWAsへの移行を提案した。大銀行で組合を弱体化するこうした動きが成功すれば、他の産業(例えば小売業)も追随することが予想された。さらに、競争の激化から、他の大銀行も同様の戦略を取り入れることは必至であった。

事件の概要

CBAは、FSUとの企業別協定締結交渉が行き詰まったために、2000年8月24日に従業員に対し、AWAsへの移行を提案することを明らかにした。FSUは、2年間に13%の賃上げを求めていたのに対し、CBAは、1年当たり4%の賃上げを主張した。CBA側の提案は、以前の企業別協定における妥結額よりも低いもので、労組側にとって到底受け入れられるものでなかった。そこで CBAは、AWAsを提案したが、その内容は、6.5%の賃上げと業績給をプラスするというものであった。ただ、労組への提案よりもAWAsでのそれが優っていたために、同社は、組合員に対する差別を理由に訴えられる可能性があった。

9月に入ると、労組は、この問題への社会的支持を得るために活動を開始した。CBAは、過去5年間に438支店を閉鎖した。その一方で、CBAは27億豪ドル(1豪ドル=61.3円)という記録的な収益を公表したばかりであった。同時に、同社の CEO に対しては、破格の報酬が支払われる予定であった。労組は、支店閉鎖や従業員の削減などで顧客サービスが低下していることや手数料の引き上げなどから、今回の紛争に対する社会的支援を獲得できると考えていた。

加えて、FSUは、株主の立場を利用した株主総会での発言や、CBAからの資金の引き上げ等を検討していた。そして9月21日になると、FSUは、CBAの提案を阻止するために連邦裁判所に申し立てを行った。同28日に連邦裁判所は、CBAが職場関係法の結社の自由規定に違反したという論拠のある主張がなされたと判断し、事件が公判で審理されるまでの暫定的差し止めを認めた。

差止命令の影響

今回、連邦裁判所が暫定的差止命令を出したことで、AWAs導入の機運は大きく損なわれることとなろう。つまり今回の命令は、労組の介入を避けるためにAWAsを提案することが違法となりうることを示唆しているのである(おそらく、公判後に出される判決も同様のものとなろう)。連邦裁判所による職場関係法の以上のような解釈は、労働者に労組加入・非加入の自由を与えるという同法の目的実現を阻害する。したがってAWAs普及のためには、職場関係法の改正が必要となろう。

他方、CBAはこうした事態に直面し、その姿勢を若干軟化させているように見える。同社は、FSUと認証協定締結に向け新たに交渉を行うと表明している。

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