フランスのルノー自動車による三星自動車の買収と自動車業界への影響

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

韓国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2000年7月

三星自動車の債権銀行団は4月25日、フランスのルノー自動車が三星自動車を5億6200万ドル(6200億ウオン)で買収する案を基本的に受け入れることを決め、27日に基本契約を締結することにした。これにより、1998年12月8日の大宇グループとのビッグディール発表以来、事実上生産活動が中断されていた三星自動車は7月から正式に再出発することになった。

売却交渉の経緯

三星自動車は5万台体制で生産販売を開始した矢先に、経済危機による国内需要の急激な落ち込みに見舞われ、1998年末には政府の財閥改革の一環として押し付けられたビッグディールの対象に挙げられた。その後、三星グループと大宇グループとのビッグディール交渉は、三星自動車の資産価値算定をめぐる見解の違いや大宇グループ側の資金繰り悪化などがひびいて難航した。さらに三星自動車の債務調整をめぐる債権銀行団との利害対立も大きなネックになっていた。

そのため、三星グループ側は1999年6月30日、大宇グループとの交渉を断念し、三星自動車に対する会社更生法の適用を申請するとともに、李会長が経営責任をとる形で債務調整のために私財(三星生命保険の株式400万株)を投じることを明らかにした。これにより、三星自動車の部品メーカーに対する損失補填と釜山工場の継続稼動を前提にした第三者への売却のための条件は整った。ただし、三星生命保険の株式上場や株式の実勢価値をめぐっては不確定性が高いだけに、利害関係者の間で利害対立や駆け引きがしばらく尾を引くことになる。

1999年12月30日に三星自動車に対する会社更生法の適用が決定されたのを受けて、債権銀行団はルノー自動車との独占的な交渉に入ることを決めた。ルノー自動車は3月7日、三星自動車買収後の事業計画案を公式に提示した。その主な内容は以下の通りである。

第1に、三星自動車との合弁会社(資本金3億3500万ドル)を設立し、2000年から2004年まで毎年2000~4000億ウオン(100ウオン=9.64円)、5年間に1兆4000億ウオンを投資する。

第2に、車種については既存の中型 SM5に加えて、2002年には小型 SM3、2003年には RV車をそれぞれ投入し、2005年までには大型乗用車を含めて全モデルを揃える。

第3に、年間生産台数については現在の5万台から2002年には20万台、2005年には40万台に増やす。

第4に、販売体制については現在の SM5ブランドを今後5年間引き続き使用するとともに、販売店を現在の30カ所余から2000年内に100カ所に増やし、国内市場の10%を占める。

第5に、完成車の競争力を強化するには部品の70%以上を国内で調達する体制を整えなければならないという方針から、ルノー自動車と日産自動車の技術的支援の下で部品メーカーの育成に力を入れる。早くも既存の独占的な取引慣行の壁にぶつかることが予想されるだけに、独自の部品メーカー育成策が問われるだろう。例えば、一つの選択肢としてルノー自動車や日産自動車のグローバルな部品調達網との連携が注目される。

債権銀行団とルノー自動車との交渉は3月31日から始まったが、買収価格をめぐる両者間の隔たりが大きく、交渉は難航した。そのうえ、独占的な交渉の最終期限(4月21日)を直前に控えて、債権銀行団と三星グループ主要系列企業の三星物産の間で債権配分をめぐる利害対立が表面化し、裁判所の調停案が拒否されてしまう事態が発生し、同交渉は決裂するかにみえた。これに対して、裁判所は「もし同交渉が決裂し、5月末までに会社整理計画案が提出できないことになれば、会社更生法の手続きを取り消し、破産の手続きをとることも辞さない」と強硬な姿勢を崩さなかったといわれる。結局、売却先としてはほかに選択肢がないうえ、政府のみでなく、釜山地域経済界や市民団体、協力会社グループなどからも早期妥結を求める声が高まったこともあって、債権銀行団と三星物産は裁判所の調停案を受け入れざるをえなくなり、同交渉は急展開をみせた。

主な合意内容とその影響

債権銀行団が受け入れた合意案の主な内容は次の通りである。第1に、ルノー自動車と三星グループ(三星割賦金融、三星キャピタル)が新たに設立する合弁会社が三星自動車の資産を6200億ウオンで買収する方式がとられる。

第2に、売却代金6200億ウオンのうち、1100億ウオンは資産の受け渡しと同時に現金による支払い、440億ウオンは出資への転換、残りの4660億ウオンは2014年までの分割支払いとなる。分割支払いの4660億ウオンのうち、2300億ウオンは負債として2004年から2014年まで年度別に返済されるが、そのうち約半分の1165億ウオンは営業利益が出なければ、1年ずつ支払い期限が延長される。残りの2360億ウオンについては条件付返済方式で毎年の営業利益10%が支払われる。

第3に、7月1日に設立される合弁会社の資本金は3600億ウオンで、持ち株比率はルノー自動車70.1%、三星グループ19.9%、債権銀行団10.0%となる。

このような合意案をめぐっては、労働界や市民団体などの一部から「売却を急ぎすぎるあまり格安で売り払ってしまった」との批判があがっているものの、概ね「現在の価値よりは将来の価値に重きをおいた、やむをえない選択であった」という意見が支配的である。

三星グループの三星自動車への総投資額は4兆ウオンを超えているうえ、資産価値も1兆2000億ウオンに上る工場を6200億ウオン、それも3分の2以上を分割払い方式で売却するという点だけをとれば、格安の売却に違いない。しかし、釜山工場は日産自動車からの技術導入によって建設されたため、日産自動車を傘下に収めたルノー自動車以外に売却先として選択肢がなかった。もしルノー自動車との交渉が決裂することになれば、釜山工場は鉄屑のまま破産処理されかねない状態であった。そういう点で、適正な資産価値の獲得よりは地域経済回復のための早期売却を重視せざるをえず、売却交渉も経済論理よりは政治論理に大きく左右されてしまったのは否めないだろう。

しかしながら、今回の三星自動車売却の成果やその波及効果は、今後ルノー自動車が前述したような事業計画案をどこまで実現し、それに三星グループはどこまで協力できるのかにかかっている。言い換えれば、三星自動車の将来価値はルノー自動車の世界戦略に委ねられることになったということであろう。

ルノー自動車の事業計画案が予定通り実現されることを前提に推定されるその波及効果は次のようである。第1に、新設合弁会社の生産誘発効果は2001年に1兆8000億ウオンから2005年には5兆5000億ウオンに増え、6年間合わせて19兆1000億ウオンに達する。また2300社余の部品メーカー(1次部品メーカー96社)のそれは2001年に6000億ウオンから2005年には1兆8000億ウオンに増え、6年間合わせて6兆3000億ウオンに達する。

第2に、合弁会社の雇用創出効果は現在の2100人から、2000年末には4000人に、さらに2005年には2万人に増える。また部品メーカーのそれは2000年末には3万7000人に、さらに2005年には15万人に増える。

三星自動車のいままでの人員整理状況をみると、1998年末のビッグディール以降事実上生産活動が中断されていたため、6000人余のうち、2400人余は三星グループの系列企業に異動するほか、1500人余は退職し、2000年4月現在2100人しか残っていない。現在の人員はほとんど生産職や整備職で、研究開発、営業、企画管理部門の人員はあまり残っていないようである。

ルノー自動車側はとりあえず、2000年末まで4000~5000人の人員が必要になるとみて、三星グループの系列企業に対して三星自動車出身者が復帰できるよう協力を要請しているという。ルノー自動車の世界戦略に基づいて三星自動車の生産拠点としての役割や性格が決まるだけに、その戦略次第では他の自動車メーカーからの人材の引き抜きや移動も活発化するかもしれない。

今回のルノー自動車による三星自動車の買収を最も警戒しているのはもちろん現代・起亜自動車グループである。現代・起亜自動車グループは新設合弁会社の強みとして次のような点に注目しているようである。第1に、釜山工場は日産自動車の工場の一つとして活用される可能性がある。第2に、釜山港とチャンウオン機械工業団地に隣接しているメリットがある。第3に、中国市場への進出拠点として位置づけられる。第4に、電装品部門での三星グループの技術力と日産自動車の部品開発能力を生かすことができる。第5に、日産自動車との間で車種別共同販売が可能である。第6に、自動車割賦金融や海外販売などで三星グループ系列企業のマーケティング力を活用することができる。

韓国の自動車業界の地殻変動を起こすほど影響が大きい点では、三星自動車とは桁が違う大宇自動車の売却の行方に早くも注目が集まっている。韓国の自動車メーカーは否応なしにグローバルな自動車業界再編成に巻き込まれつつあるだけに、しばらく目が離せないところである。

関連情報