職場の労働環境、悪化傾向に

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年6月

保健省の監督規定により、縫製産業において埃よけのマスクを着用していない労働者は1万バーツ(1バーツ=2.72円)の罰金または6カ月以内の懲役を科されることになった。この規定のねらいは労働者の健康を保護するとともに、労働者自身にもマスク着用の責任を負わせることにある。保護装備を提供しても、労働者がそれを着用するのを怠っているという意見が使用者側から出されていたためである。

工場の労働環境で最も問題になっているのは騒音と埃(空気汚染)である。1998年に3579の縫製工場を対象にした調査によると、32万6938人の労働者が綿の埃によってビシノーシス(綿繊維吸入による胸部疾患)や肺の疾患の危険がある環境におかれていることが明らかになった。また保健省が1999年に11の縫製企業、867人の工場労働者を対象に行ったモニター調査では、28人(3.2%)がビシノーシスに苦しめられていることがわかった。

化学物質の取り扱いによる労働者の健康も懸念されている。全国で3.6%、1000人中36人が職場で健康に害のある物質を取り扱っていることが社会保障局の統計によって明らかになった。この統計によると、1998年には18万6498人の労働者が健康に問題があると訴え、3714人が身体の一部を損失、790人が職場で命を落としている。

また、科学技術環境省のデータによると1998年の大気中の汚染物質は、安全基準の1立方メートル当たり120マイクログラムを大きく超えた330マイクログラムを記録した。バンコクにおいてはオンヌン、ヨマラート、ウォンサワン、シーパヤ、ラーマ六世通りにおいて特に大気汚染値が高くなっている。

女性工場労働者の労働環境

タイとカンボジアの女性労働者は、精神的にも肉体的にも劣悪な労働環境に身を置いて仕事に従事しているという現状が明らかになった。1999年に縫製工場とレストランに勤務する412人のタイ人(262人)とカンボジア人(150人)の女性労働者に対して行った調査によると、ほとんどの労働者が労働法に定められているような医療サービスを受けていないという事実が浮き彫りになった。

タイとカンボジアの女性労働者が直面している病気は頭痛、眠気、めまい、目の疲れ、生理不順、胸の痛み、不眠症などである。また下記の表によると、縫製工場に勤務する87%のタイ人女性労働者と89%のカンボジア人労働者が、埃のせいで呼吸困難であると答え、85%のタイ人と78%のカンボジア人が「職場は騒がしい」と答えている。その他にも、職場の異常な温度と照明の不足が目の疲れや頭痛を引き起こしていると考えられているが、これらの病気に対する治療費は自己負担となっている。なぜなら労働環境の問題は、その疾患が労働の結果引き起こされたものであるということを証明することが難しく、それゆえ、企業から補償を得ることが困難になっているためである。

このように労働環境に悩みを抱えている労働者に対して、ボランティアとして救済活動をしている弁護士が非常に少ないことも問題である。その上、弁護士1人当たり、50~60件もの案件を抱え、1つ1つの案件が、解決に時間がかかるものなので、弁護士にかかる負担が非常に大きくなっている。

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