期待できない雇用創出

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年5月

2000年のGDP成長を政府は4%と予想しており、長期低迷から安定成長に戻ると発表している。民間のエコノミストは3~3.5%成長と予想し、国民が抵抗している政府の財政再建政策を承認すれば、継続的な成長に戻ると見ている。1990年代に人員削減を実施して近代化を図った工業と農業部門が今年は成長をリードすると見られる。したがってGDPが成長しても、この2部門はサービスや商業部門ほど雇用は増加せず、経済成長に対する雇用増加率は1990年代より小さい、と予想されている。

国家社会経済開発銀行エコノミストのシェイラ・ナベルグ総裁補佐は同銀行の見方として「工業と農業部門が成長しても雇用を増加させないとは言わないが、これまではGDPが3%成長するごとに、失業率は1%減少していたが、現在は経済成長が雇用増加に与える影響は非常に小さくなった」と発表した。経済開放とともに国内工業は、輸入品との競争を強いられ、コスト削減の手段として人員削減を行い、農業は機械化を促進して、労働力の心要を低下させた。ブラジル地理統計資料院の抽出見本調査と、月間雇用調査を比較して見ると、農業と工業部門の雇用減少がはっきりする。1998年に農業部門は43万2575人、製造業は27万6385人雇用が減少した。

6大首都圏で行う月間調査でも1990年から1999年までに、製造業が雇用全体に占める割合は23.8%から16.3%に減少した。この計算担当者によると、農村の機械化による雇用減少は、もう回復不能であるが、工業の場合は一部回復は可能である。過去の工業の解雇の一部はアジア危機以来の市場冷え込みや、高金利を反映したもので、生産が回復すれば、わずかでも回復すると見ている。しかし2000年中に雇用が目立つほど増加するとは思わない。生産部門はかなり高率の遊休設備を抱えており、消費や輸出の増加分を当分は、遊休設備の利用で充当できる。また経済回復傾向を見て、これまで再就職を諦め、職探しを止めたことによって公式失業者に計算されなかった失業者が、改めて職探しを開始するために失業として計算され、失業率は増加すると資料院は見ている。

非合法就労増加一途

ブラジル地理統計資料院の発表によると、1999年には41万8000人の雇用創出があり、過去5年間で最高の増加を記録した。しかしその94%は非公式就労と発表されており、労働市場の情勢悪化を証明した。経済の低成長は小さな雇用を創出するだけで、大量失業の中では多くの労働者が収入の道さえあれば、いかなる就労先でも受け入れざるをえない立場に置かれていることが、非公式雇用を増加させている。採用する側は正式雇用にかかる各種の分担金をのがれようと、公式契約を可能な限り避けようとする。労働者も、正式登録すれば最低でも給料から8%差し引かれる社会保障負担金を嫌って、非公式就労を好む場合がある。政府保障の年金支払い額が次第に下げられ、またいつまで政府は年金を払うのかという不安感が、社会保障負担金支払いの意欲を失わせている。企業にとっては、日々厳しくなる競争の中で、給料と同額以上の各種負担金の支払いが要求される現行労働法のもとでは、よほど必要に迫られないと、正式雇用は避けたくなるであろう。非合法と言われながら、取り締まりはほとんどなく、非合法が普通となっていては、年々公式雇用が減少しても仕方ない状態となっている。

工業雇用1999年に2.8%低下

ブラジル地理統計資料院は、1999年中に国内工業の平均給料は2.8%低下したと発表した。1992年以来初めての低下である。また給料支払い総額は10%低下して、工業雇用の7.3%減少を上回ったことによって平均は低下した。雇用の低下は1998年の9.1%よりは小さい。また1999年は四半期別に見ると前年同期比で第一は9.30%減少したものが、第二は8.70%、第三は7%減、第四は4.10%減と次第に好転している。

資料院の集計担当者によると1999年の平均給料の低下は、失業増加のために労働者の労使交渉力が低下したことと、工業が冷え込んだ消費市場で輸入品と競争して、生産を減少させた結果と見ている。2000年は工業生産が5%成長する予想であるが、資料院でもこの程度の成長では工業雇用に回復をもたらすとは見ていない。長期にわたってこの率の成長が続いた時にのみ、新規雇用が始まる。工業は当分超過勤務と遊休設備の利用で需要増加に対応するだろう。工業は生存に必要な調整をほぼ終わっており、近く工業の解雇は終わると見ている。

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