フォード、ナセル会長が組合に人種差別撲滅を誓約

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年1月

フォードのジャック・ナセル会長は1999年10月25日、ダゲナム工場(ロンドン東部)での人種差別問題について組合幹部とロンドンで会合し、組合が提案した在英工場での人種差別撲滅・機会均等推進計画を実行すると約束した。同社トップが組合の希望を全面的に受け入れたことにより、公認の争議行為にまで発展しかけていた同工場での一連の騒動は終息に向かう。

今回の騒動の発端は、ダゲナム工場のアジア系従業員がおこした人種差別訴訟。1999年9月23日に雇用審判所が同従業員の訴えを認める判決を下すと(本誌1999年12月号参照)、組合は人種差別の徹底調査を求めるためナセル会長との会見を要求。一方、9000人の従業員のうち45%が少数民族で占められるダゲナム工場では、人種差別に対する労働者の積年の不満が噴出、白人労働者までも参加する異例のウォーク・アウト(注1)が数週間続くなか、事態は争議行為の賛否を問う投票が実施される寸前まで発展していた。

4時間に及ぶ組合幹部との会見のなかでナセル会長は、レバノン出身の移民としてかつて人種差別に苦しんだ自らの経験に触れながら、人種差別を撲滅しようとする組合の努力に共感すると述べ、人種差別を撲滅するため組合が提案した計画をほぼ全面的に受け入れた。以下は、共同声明の形で発表されたその行動計画。

  • 人種差別についての報告書を90日以内に作成する労使共同の委員会を設置する。
  • 方針・計画、人事、従業員育成、コーポレート・イメージ、コーポレート・シティズンシップ、人種平等などに関する評価再調査制度を導入する。
  • 従業員の多様性に関わる問題を専門に扱う上級管理職および労使代表で構成される共同の全国委員会を設置する。

輸送一般労組(TGWU)のビル・モリス書記長は、ナセル会長がダゲナム工場における人種差別撲滅を個人的に約束したことについて、「問題解決にあたるフォードの意欲の高さ」を示すものと評価。今回の共同合意によって従業員は最近の人種差別問題に終止符が打たれることを確信できるとした。

さらに、行動計画を指揮するのが英国フォードではなく、欧州事業部のニック・シーレ会長であることも組合を喜ばせた。組合はナセル会長のこの措置を、英国フォードのとった対処方法を暗に批判したものと受けとめている。シーレ会長はいわば欧州におけるフォード・トップで、フォードの意気込みを証明するのに最も適切な人物とフォード内部でも支持されている。

ナセル会長はまた、今回の人種差別の被害者である従業員とも20分間個人的に会談、同従業員を元の職場に復帰させるべきとの組合の提案に同意した。

ダグナム工場と人種差別

今回1従業員の人種差別訴訟が白人労働者も参加するウォーク・アウトにまで発展した背景には、黒人やアジア系などの少数民族が長年にわたって被ってきた「制度的な人種差別(inst-itutionalised racism)」があると言われる。労働者がとくに問題にしているのは、従業員9000人の約半数を占める少数民族のほとんどが製造ラインに配置されている点。同工場では、製造ラインの労働者は賃金、社会的地位、キャリアの上昇を見込めるオフ・ライン職(検査や保全業務)への配置から外される傾向があるためだ。労働者らは生産性や効率を高める努力をしてきたにもかかわらず、会社側は差別を防止する策を講じてこなかったと主張している。

フォードが人種差別で訴えられたのは今回が初めてではない。1996年6月に労働審判所(現在の雇用審判所)は、希望者の多いドライバー職から事実上少数民族を排除しているとの判決を下し、フォードに対し7名のアジア系、アフロ・カリブ系の労働者への7万ポンドの支払を命じた。これに先立つ同年2月にも、フォードはポーランドで使用する予定の宣伝広告から黒人労働者の顔を消し、代わりに白人労働者の顔を入れている。

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