賃金増額と賃金改革

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年12月

1999年9月に、政府は10月1日の建国50周年を控えて、7月1日にさかのぼって大幅な賃金増額を発表した。今回の賃金増額の対象となったのは、国有企業の一時帰休(下崗)労働者、失業労働者、公務員など行政部門の従業員及び定年退職者など、いわば近年生活水準の低下が懸念されている人達である。合わせて8400万人が今回の賃金調整の受益者となり、1949年以来最も広範な賃金増額と見られている。

1999年の最新統計資料によると、1978年に中国が改革開放に踏み切って以来、毎年平均15%の賃金総額の増加を実現してきた。しかし、1997年以降、賃金総額の増加率が低下傾向を見せはじめ、1998年度の全国賃金総額の増加率がわずか0.2%しかなかった。そのうち、国有企業の賃金増加率は-4.2%、集団所有制企業の増加率は-16.9%とそれぞれマイナスに転落している。

1997年から、中国は2年連続してデフレの状況を継続している。特に1997年10月以降、物価水準は20カ月連続して低下し続け、消費価格指数は1998年3月以降15カ月連続してマイナスとなっている。物価は低下しても消費が冷え込み、不安定な社会心理を反映して貯蓄率は上昇するばかりである。建国以来最大の賃金増額はこのような背景から生まれたものであり、景気減速に歯止めをかける中央政府の意向が伺える。

これに伴って、このような賃金増額をきっかけに、国有企業における賃金決定メカニズムを改革する動きが活発化している。中国は計画経済時代から一貫して「高就業・低賃金」の政策をとってきた。1978年の改革開放以降、国有企業は手当てや奨励金などの名目で実質的に賃金を増やしてきたが、根本的な賃金体系がほとんど変更されていない。1986年から1998年までの都市部住民年平均所得増加率はGDPの年平均増加率より4%も少ない。国民所得の成長がGDPの成長より遥かに遅れることは、経済構造の歪みを現している。その原因の一つは国有企業賃金決定メカニズムの問題にある。すなわち、国有企業の賃金総額の決定は行政の統一管理の下に置かれているため、横並びの古い体質から脱皮していないからである。

労働社会保障部労働科学研究院賃金研究所は国有企業賃金改革の研究プロジェクトをスタートさせ、国有企業経営者の年俸制の導入、企業賃金総額の決定メカニズムの変革などについて研究を進めている。企業の賃金決定に対する行政の厳しい規制をなくすために、この研究プロジェクトが最近行った以下のような提言は、国有企業賃金改革の方向を示している。

「今後、比較的経営パフォーマンスが良く、市場経済に適応している国有株式会社、国有有限会社及び国有独資企業は、自ら賃金総額を決定する制度を確立し、政府はその賃金総額に対するコントロールの権限を手放す。企業は自らの経営状況、労働力資本、賃金支払い能力、所在地域の平均賃金水準などを踏まえて、企業内部協議もしくは取締役会を通して当該企業の賃金総額や賃金の増加幅を決定する。政府としては、賃金のガイドラインや労働力価格などの情報を企業に提供し、最低賃金基準をコントロールするに止まる。」

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