工業中心地帯空洞化

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年7月

サンパウロ市を取り巻く工業都市7市は、通称 ABCD 地帯と呼ばれ、ラテンアメリカ最大の工業集中地帯となっており、この工業地帯を目指して、全国から流入民が押しかけて、都市は急速に肥大してきた。特に東北の貧困地帯からは、技術も学歴もない労働者が大量に流入して社会問題も同時に発生し、この環境がラテンアメリカで最も過激で攻撃的と言われる労組運動の源流となり、労働党が生まれる地盤となった。長い労働運動の末に、この ABCD 地区の労働者は全国で最も高い水準の給料と労働条件を確保したが、同時にこれは企業にとってはコスト高を意味したため、この地域内の工業経営者は労働運動が少ない地方を模索し、それに合わせるように地方都市が企業誘致運動を開始して1990年代に入り、ABCD 地帯からの工業の移転が表面化してきた。

それ以来 ABCD 地区は全国で最も失業率が高い地域となり、サンパウロ州立データ処理財団は同地の失業率を特別に研究している。それによると、10歳以上の経済活動人口は1999年1月に192万3000人に達したが、学生、退職者など差し引いた実際の労働力は115万2000人となり、就労人口92万5000人と、失業者22万7000人で構成されている。同地区の労働市場は失業者を吸収するよりも、現在の就労者を維持するにも足りず、1998年5月から1999年1月にかけて調査を行なった時の平均失業率は19.7%に達した。失業の原因として第一に企業の再編成と生産性向上努力、第二は国家のマクロ経済の困難が指摘されているが、工業の地方分散の影響が大きい。同財団はブラジル地理統計資料院の失業調査方式とは違った方法を用いていることについて、ブラジルの場合は失業者を保護する制度が弱く一度失業すると再就職のチャンスは非常に小さいために失業と同時に皆が何らかの収入の道を探すことにより、国際労働機構が定めた失業調査方式はブラジルの場合適用出来ないと考えて、独自の方式により調査していると説明している。

財団の判定によれば、ブラジルの場合は完全失業だけを調査していては失業の実態を推測出来ない特徴を持っている。失業後に一時的な継続性のない労働によって収入を得ても、就労者と判定してはならない。また通常の完全失業と潜在失業の2種類だけでは当てはまらないために、潜在失業をさらに「副収入あり」と「失望または失意」に分けて詳細に分類していると説明している。

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