IGメタル、賃金協約交渉が難航の末ほぼ収束

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年5月

1月28日に平和義務の期限が切れてから、労組の賃上げ要求貫徹の警告ストが多発していたが、使用者側が2月3日、賃上げ幅を0.3%増加させ、従来の2%から2.3%の賃上げを提案した(一時金は0.5%のまま)。だが、組合側はあくまで6.5%の賃上げを譲らず、組合側が最後通告として提示した2月11日の期限が迫った。

この期限までに合意に達しない場合は以下の手続きが取られることになる。まずIGメタルとして賃金協約交渉の決裂を宣言し、それから同労組の各交渉地区からフランクフルトの中央執行委員会に原投票の申し出がなされ、続いて同委員会がどの地区で現実にストライキを行うかを決定して指令を出す。交渉決裂宣言後は地区における交渉は行われない。同労組幹部は2月17日に原投票を行って3月1日にストに突入する可能性を示唆したが、ストに入れば1995年のバイエルン地区以来ということになる。

その後、バーデン・ヴュルテンベルグ地区の使用者側交渉代表クラウス・フリッチェ氏により、同地区で通常の調停手続きよりも簡易な特別の調停に付すべきことが提案された。2月14日IGメタル中央執行委員会は使用者側の提言を受け入れ、交渉は特別調停に付されることになり、調停者には前SPD党首ハンス・ヨッヘン・フォーゲル氏が選ばれた。同時に同労組は調停の期限を2月17日に設定し、調停不成立の時は22日から24日にバーデン・ヴュルテンベルグ地区で原投票を行うと決定し、ツビッケル会長は3月1日以降ストに入ると言明した。

調停で最後まで難航したのは事業所業績の差に応じた一時金支給の扱いで、組合側は業績差による異なる扱いにあくまで抵抗した。そしてフォーゲル氏を中心とする30時間に及ぶ調停活動の結果、使用者側の大幅な譲歩の形で、賃上げは3月1日以降3.2%、1月と2月の一括金支払い各350マルク、全労働者に年収の1%相当の一時金支給、協約期間は14カ月という内容で合意に達した。

使用者団体は直ちにこの調停結果に失望感を表明し、フント使用者連盟(BDA)会長は雇用の創出を目指す賃金政策からの明らかな後退で、他の地区がこの合意内容を受け入れることを奨励しないとするシュトゥムフェ金属連盟会長の立場を支持すると表明した。使用者団体側からは、事業所の業績差による一時金支給の導入で労働協約を弾力化しなかったことに特に遺憾の意が表明された。フント会長はさらに、2月25日の「雇用のための同盟」の第2回会談で、労使間の協約自治の従来の慣行には反するが、賃金政策について提言を行うとした。

このような批判の中で結局主要な交渉地区で調停結果が受け入れられていったが、ザクセン地区では使用者側が雇用の削減を示唆して調停結果を受け入れておらず、これに対して組合側も、調停結果が受け入れられない場合には労働争議に訴えると主張している。

1998年12月に始まった交渉の経過を概観すると、労働協約の弾力化に対するIGメタルの保守的な立場が目立った。同労組は今回の交渉でも、一律の賃上げ要求、事業所別の扱いの拒否、交渉の難航、警告スト、最後通告、原投票、本格的ストライキという伝統的な手法にあくまで訴えた。だが、金属業界内部の業績格差を考慮した開放条項の活用による協約の弾力的運用は、最近、使用者側が強く主張していたところである。また、他の有力産別労組の鉱山・化学・エネルギー労組(IG BCE)では、1998年の協約妥結でこの手法が採用されており、IGメタルの影響力の強さを考慮に入れても、既に労働側の対応は分かれている。さらに、最近の職業労働市場研究所(IAB)の調査でも、西独地域においてさえ協約に拘束される事業所数が減少していることが報告され、協約の弾力的運用の方向が提言されている。物作りを中核とするドイツの伝統的な産業構造にもサービス業等の向上という新たな変化が生じている。これに応じて現業労働者に対する職員の増加傾向と産別労組の再編の動きもあり、また、賃金支払い形態にも業績給のより広い範囲での導入等の変化があり、さらにはユーロ導入によるEU諸国の賃金政策の調整が理論的な問題から現実の課題に浮上している。これらを考慮すると、今回のIGメタルの保守的な協約交渉の手法は、EU諸国も注目する中で、今後に問題を投げかけたものと言えよう。

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