旧・JIL国際講演(2002年3月19日)
韓国:新政府の課題 −構造改革の推進と労使関係−

週刊労働ニュース(2003年03月24日発行)より

JIL国際講演会(2002年3月19日開催)

韓国労働研究院 副院長 柳 吉相氏
新たな社会統合を提起/国際基準の労使関係追求


韓国で2月に発足した、盧武鉉(ノ・ムヒョン)新政権の労働政策のあり方を展望する、日本労働研究機構主催の国際講演会が19日、東京・西新宿で開かれた。柳吉相(ユ・キルサン)韓国労働研究院(KLI)副院長は、講演のなかで、「基本的には、金大中(キム・デジュン)政権の労働政策路線を継承するものとなろうが、これを通貨危機克服のための危機管理型と呼ぶなら、盧武鉉新政権のそれは、構造調整で生じたひずみを解消するための、「社会統合型となるだろう」などと指摘した。


少数野党の候補で、1年前まで当選を予想する声のほとんどなかった盧武鉉氏。柳氏によれば、彼が支持された理由の一つは、社会的弱者にも経済成長を適正に分配し、それをテコにしたさらなる成長と、均衡ある社会発展をめざす「国民統合」の考え方を、選挙公約のなかで打ち出したこと。それが、広く国民に受け入れられたという。

盧武鉉・新大統領が、就任演説のなかで強調した「国民統合」の労働関連分野の内容は、(1)階層間の格差を縮めるための教育と税制などの改善(2)労使和合と協力の文化の醸成(3)社会的弱者に配慮した、暖かな社会を築くための福祉政策の充実化(4)性、学歴、障害、外国人、非正規、年齢をはじめとするあらゆる差別の解消−−など。

政府の雇用対策で失業率の上昇こそ抑えられたものの、通貨危機後の構造調整によって、パート、派遣、臨時雇いなどの不安定雇用が、雇用者総数の52%まで増加。こうしたなか、格差や差別の解消をめざす「国民統合」の考え方は、国民の意志を国政に反映させるメッセージとなった。

盧大統領は、選挙公約のなかで、労働政策の基本目標として、「労働者の生活の質を向上させるとともに北東アジアの中心国家として躍進するため、社会的パートナーシップを土台にした社会統合的労使関係を構築する」ことを掲げた。

その実現のための方向性としては、(1)国際基準に沿った労使関係の構築(2)重層構造の社会的パートナーシップの形成(3)自律と責任の労使自治主義の確立(4)労働生活の質の向上(5)労働行政サービスの力量の拡充(6)雇用の創出と安定−−の6点を指摘している。

柳氏によれば、もっとも重要な課題の一つは、「重層構造の社会的パートナーシップの形成」で、(1)実効性が問われている労使政委員会を改善(意思決定段階の簡素化など)し、実質的な社会協約機構を確立すること(2)地域・業種・産業別労使政協議会を活性化するなど、中間レベルの社会的協議体制を構築すること(3)企業別交渉を前提に労働関係法を整備し、できるところから業種・産業別交渉を誘導すること−−などをめざすという。

また、「自律と責任の労使自治主義の確立」については、基本的に労働三権の保障範囲を拡げることで公権力の介入を最小限にとどめる方針で、(1)平和的争議行為に対する業務妨害罪の適用を慎重にし、労働事件に対する損害賠償仮差押さえ請求の濫用防止法案を検討する(2)労使紛争に関連した違反者に対する、不拘束捜査慣行を確立する−−ことなどを、検討課題にしている。

「国際基準に沿った労使関係の構築」については、公務員労組に名称使用を認め、制限的(法令や予算関連案件に限り団体協約締結権を制限)にも団体交渉権を保障する方向で早期に法制化するものとみられ、今年7月から施行するとの立場をとっている。

「労働生活の質の向上」では、金大中政権下からの継続案件である「週休2日制法案」の早期成立を図るとともに、時短を持続的に推進。また、労働保険の適用範囲を拡大(長期失業者に対する失業手当の支給、特殊雇用従事者などに対する労災保険の適用など)し、保険受給率を先進国並みに引き上げることなども検討する。

さらに、「雇用の創出と安定」については、今後の5年間(任期中)、女性や高齢者、障害者などを対象に、保健・福祉・環境・教育サービスなど毎年5~10万人分の雇用を創出することなどを掲げており、同一労働同一賃金原則の法制化や、社会的差別禁止特別法の制定−−などにも取り組むものとみられている。