基礎情報:中国(2004年)
基礎データ
- 国名:中華人民共和国(People’s Republic of China)
- 人口:12億9,227万人(中国国家統計局2003年末)
- 経済成長率:9.5%(2004年)
- GDP:約13兆6515億元(2004年)
- 一人あたりGDP:9101元(2003年)
- 労働力人口:7億6075万人(「中国就業状況と政策白書」2004年版)
- 失業率:4.2%(都市部登録失業率、2004年)
資料出所:外務省「各国・地域情勢」
1. 2004年の動向
中国政府労働保障部の公式発表によると、2004年末で中国全土就労者数は7億5200万人。2003年より768万人増加した。そのうち、第一次産業就労者数3億5269万人で全体の46.9%、第二次産業就労者が1億6920万人で全体の22.5%、第三次産業就労者が2億3011万人で全体の30.6%である。都市部就労者数は2億6476万人で、2003年より837万人増加した。都市部就労者のうち、国有企業就労者は1億1099万人、私有企業や個人経営体の就労者数は5515万人で、2003年よりそれぞれ129万人、593万人増加した。
1990年代から始めた国有企業の構造改革によって生じた国有企業レイオフ労働者(下崗労働者)の数は、2004年末に153万人で、2003年より107万人減少した。2004に再就職に漕ぎ着けたレイオフ労働者数は510万人である。そのうち、文化大革命(1966-1976)の期間中に、教育に恵まれなかった「4050人員」(40代、50代のレイオフ労働者)は140万人になっている。2004年末政府公表の全国都市部登録失業者数は827万人で、都市部登録失業率は4.2%となり、2003年末より0.1%下がった。
労働市場の整備もさらに進んでいる。ネット上で労働市場の需給状況を検索できるのは、すでに117の主要都市となった。04年末には、職業斡旋機構が全国で3万3890カ所あり、そのうち、公共の職業斡旋機関は2万3347カ所で、年間延べ1336万人の職業斡旋に成功した。
2004年、中国の労働問題といえば、沿海地域都市部を中心とした労働力不足が注目された。2004年9月、中国政府労働社会保障部が発表した「労働力不足実態調査」報告書によると、労働力不足は、主に珠江デルタ地域、福建省東南部、浙江省東南部などの加工業集中地域で発生しており、重点地区での不足率は10%程度と推測されている。広東省珠江デルタ地域は、1900万人の出稼ぎ労働者を抱えるが、専門家の予測ではそれでも200万人の労働力不足が生じており、労働力不足が最も深刻だと報告している。労働力不足の主な原因として出稼ぎ労働者による、低賃金と劣悪な労働条件への反発、一部労働集約型企業における労働者の権益侵害などが挙げられる。各地政府は、すでに最低賃金の見直しなどから問題の解決を図っている。広州市では、最低賃金基準を現行月額510元から684元に引き上げる案がまとめられた。
なお、労働社会保障部は、2001年5月に「労働と社会保障の第10次5カ年計画(2001-2005年)」を発表しており、2001-2005年までの5年間に予想されている主要な労働市場の課題として、以下のものを挙げている。
- 構造的失業がより顕著になり、雇用情勢は厳しい。第10次5カ年計画の間に、全国都市部の労働力供給は新たに5200万人増加する。都市部の新規労働力、経済の構造調整による失業者、レイオフ労働者、農村の余剰労働者などの増加により、都市部の雇用情勢は厳しくなる。特に、農村余剰労働力はすでに1.5億人以上に達しており、第10次5カ年計画の間にさらに増加すると予想され、この吸収は重要な課題である。
- 労働と雇用の市場メカニズムが確立されておらず、人的資源はまだ有効に利用されていない。全国で統一的な労働市場が形成されているため、都市と農村間、地域間は分断されている。労働力の自由移動を促進するためには、社会保障制度をさらに改善する必要があり、戸籍制度のいっそうの改革も必要とされている。
- 労働力の質は経済発展や科学技術の進歩に適応していない。労働者の全体的技能レベルは総体として低い。全労働者のなかでは中卒以上の教育しか受けていない者が84%を占めており、高級技術労働者は技術労働者全体の3.5%にすぎず、産業調整や産業構造の向上に適応できていない。
また、2001-2005年までの5年間に予想されている主な労働市場の目標として、市場メカニズムによる雇用体制の確立、就労規模の拡大、就労構造の改善、労働者の質の向上に努めることなどを挙げた。基本的には、市場メカニズムによる雇用体制を確立し、労働力の秩序のある流動化と合理的な配置の実現を目指している。第10次5カ年計画の間には、全国都市部の新規労働者は4000万人、農業から転業する労働者は4000万人と見込まれるが、中国政府は、都市部の登録失業率は5%前後に抑える目標である。第10次5カ年計画の最終段階になると、第1次産業、第2次産業と第3次産業の就業者の目標比率は44:23:33となる。労働予備制度や職業資格制度を全面的に導入し、在職教育訓練を強化し、労働者の質の向上に努めることで、国家が規定する職種の就業者のほとんどは職業資格を取得することを目指し、高級(3級)以上の職業資格を取得する者は全資格取得者の20%以上としている。
さらに、「労働と社会保障の第10次5カ年計画」が掲げた労働雇用の主な施策では、比較優位にある労働集約産業やサービス業を発展させ、特に今後のレイオフ労働者や失業者の再就職先となる地域に密着したサービス業の発展に力を入れることが強調されている。私営企業や集団所有制企業、さらに個人経営体などの発展を奨励し、非正規工、季節工などの就労形式を導入し、また、海外への労働力輸出を拡大する。具体的には以下の施策を展開する。
- これまでの国有企業レイオフ労働者の基本生活保障制度を次第に失業保険制度へと統合し、公共職業斡旋機関をさらに改善したうえで、民間の職業斡旋機関の発展を促進する。
- 職業斡旋機関は労働市場の情報ネットワークの役割を果たし、労働力需給の情報の交流を促進する。
- 農村余剰労働力の就労問題を解決するために、農村労働力の就労ルートを探り、農村労働力の職業訓練を強化する。
- 各級政府の財政予算において、レイオフ労働者の基本生活保障の資金規模を維持し、国有企業レイオフ労働者の基本生活保障および失業保険制度に移行した以降の失業保険基金の不足と再就職の促進に使用する(中国労働社会保障部第10次5カ年〈2001-2005年〉計画より)。
2. 労働時間
(1) 労働時間制度の概要
1994年2月7日、国務院は「労働者の労働時間に関する国務院の規定」を発布した。同「規定」の中心的な内容は「国が1日8時間労働・週平均44時間労働の労働時間制度を実行する」ことである。「規定」は、中国に成文化した労働時間法規がない歴史に終わりを告げ、労働者に休息権の保障を確実に獲得させた。それは、新中国成立後全国に適用する最初の労働時間制度の規定でもある。
1994年7月5日に発布された「中華人民共和国労働法」は労働時間制について再度明確に規定している。その第4章「労働時間と休息休暇」の第36条では「国は、労働者の労働時間が毎日8時間を超さず、毎週44時間を超えない労働時間制度を実行する」と規定されている。「労働法」は1日の労働時間を規定すると同時に、週の労働時間が44時間を超えないよう明確に規定している。つまり、週の平均労働日は5日半を超えてはならない。
1995年3月25日、国務院は「労働者の労働時間に関する国務院の規程の改訂に関する国務院の決定」を発布した。同「決定」は1995年5月1日から1日8時間労働、週40時間労働の新しい労働時間制度を実行すると規定し、1995年5月1日からの施行に困難のある企業は延期できるが、遅くとも1997年5月1日から実施すべきであるとしている。1997年4月24日、労働部は「企業における新しい労働時間制度の全面的実施の促進に関する労働部の通知」を発布し、企業が1997年5月1日から1日8時間、週40時間の新しい労働時間制度を実行するよう通知した。
(2) 企業の労働時間
現在、国の関係諸法規の規程により、企業の労働時間は1日8時間、週40時間、すなわち週5日労働制となっている。労働者使用単位は、労働者の週休最低1日を保証する。同時に「労働法」の規定により、企業はその生産の特殊事情に基づいて「その他の労働、休息形式を採用する」こともできる。例えば、不定時労働時間制の採用はそれである。不定時労働時間は、職責範囲が固定した労働時間数の制限を受けない労働者に対して採用する労働時間制度を指す。これに対し「労働法」第37条は「出来高労働に従事する労働者に対しては、労働者使用単位は本法第36条の規定による労働時間制度に基づいてその労働ノルマと出来高報酬基準を合理的に確定すべきである」と規定している。
企業は、生産の必要に基づいて労働時間を延長することもできる。つまり、労働者に時間外労働をさせることができる。労働時間の延長については「労働法」では明確に規定されている。
- 第41条は「労働者使用単位は、生産経営の必要に基づき、労働組合および労働者と協議したうえ、労働時間を延長することができる。通常、1日1時間を超えてはならないが、特別な理由で労働時間の延長が必要な場合は、労働者の健康保障を条件に1日3時間まで延長できる。ただし、月36時間を超えてはならない」と規定している。
- 第42条は「次の諸事情の1つに該当する場合、労働時間の延長は、本法第41条の規定による制限を受けない」と規定している。
- 自然災害、事故の発生またはその他の原因で、労働者の生命健康および財産の安全が脅かされ、緊急措置が必要となった場合。
- 生産設備、交通輸送線路、公共施設の故障で生産と公共利益に影響が及ぼされ、即時に応急修理をしなければならない場合。
- 法律、行政法規に規定されるその他の事情。
上に述べた事情で労働時間の延長をする場合は、次の基準に基づいて労働者の正常の時間給を上回る資金報酬を支給すべきである。
- 労働時間を延長する場合は、労働者に賃金の150%を下回らない報酬を支給する。
- 休日に労働者を出勤させ、代替休暇を与えない場合は、賃金の200%を下回らない報酬を支給する。
- 法定休日に労働者を出勤させる場合は、賃金の300%を下回らない報酬を支給する。
(3) 休暇制度(有給・無給)
法定休日
「労働法」第40条は「次の休日期間に法律によって労働者に休日を与えるべきである。1元旦、2春節、3メーデー、4国慶節、5法律・法規に規定されるその他の法定休暇、休日」と規定している。日数は、元旦1日、春節3日、メーデー1日、国慶節2日となっている。休日の場合は、企業が法律に基づき賃金を支給する。
年間休暇(有給休暇)
これは労働者が年に1度の連続有給休暇を享受できることを指している。年間休暇の日数は勤続年数によって決まる。「労働法」第45条は「国は年間有給休暇制度を実施する。労働者は勤続1年以上に達した場合、年間有給休暇を享受する。具体的な規則は、国務院が規定する」としている。
結婚、葬儀休暇(有給)
労働者本人の結婚または労働者の直系親族(父母、配偶者、子女)死亡の場合は、1~3日の結婚・葬儀休暇を取ることができる。結婚の場合、双方が同じ場所にいない場合、他の地方にいる直系親族が死亡し、本人がそこへ行って葬儀を執り行う必要がある場合は、目的地までの距離により道のり休暇を別に与える。
出産休暇(有給)
女性労働者の出産休暇は90日間で、そのうち産前休暇は15日間である。難産の場合は、出産休暇を15日間増やすことができる。多胎児出産の場合は、2人目以降の嬰児1人につき、出産休暇を15日間増やすことができる。
帰省休暇(有給)
労働者が他の地方で働く場合、未婚者は毎年20日間の有給休暇を取って両親を訪問することができ、既婚者は毎年30日間の有給休暇を取って配偶者を訪問することができる。配偶者双方が他の地方で働く場合は、4年ごとに1回20日間の有給休暇を取って両親を訪問することができる。
3. 労働関係
(1) 労働関係概況
中国では、労使関係を一般に労働関係という。改革開放以降、中国では一連の労働制度改革が行われたが、政府による積極的な促進策の下で、政策基準、労働契約管理、労働監察、労働争議処理を含む労働関係の調整体系は一応の形を整えてきた。
労働制度の改革の進展により、企業と労働者は、雇用と職業選択のそれぞれにおいて自主権をもつようになり、新しい労働関係の主体となって、対等の立場にあると認識されるようになった。企業は必要性と市場の需給変化に応じて労働力構成の調節を行い、労働力の配置を合理的に行うことが出来るようになった。労働者は、自身の条件と意思により適当な職業を選択することができる。企業と労働者は、労働契約の締結で相互の労働関係を確定し、双方の責任、権利、利益を明確にし、かつこれを労働争議処理の根拠として、双方の合法的権益に法律保護を与えている。労働契約制度の実施による労働契約の締結は、法律上労使は対等であることを保障し、平等に企業と労働者を保護するものである。現在、労働契約制度は、中国の諸企業のあらゆる労働関係確立の主要な形式となっている。
また、1980年以来政府は、集団協議と集団契約制度の導入と推進を強化している。労働社会保障部は、2000年の「事業発展第10次5カ年計画」で、「下崗(リストラ)のための労働保障体制の整備および労働契約制度と労働紛争処理制度の確立を目標としつつ、外資系企業、私営企業、現代企業制度を試験的に実施している国有企業を中心に、集団協議と集団契約制度をさらに拡大推進し、平等で規範化された協議システムの確立、従業員の民主的参加の促進による企業内部の民主的管理の整備を行う」という目標を定めている。2001年に改正された労働組合法(『工会法』)は、工会(労組)代表と企業は、企業内事業所における管理に対して、集団契約を締結する際には、平等に協議することを規定している。『労働法』、『工会法』を根拠に1994年に制定された『集団契約法』に基づき行われてきた集団契約は、2004年1月に改正され、5月1日から新法が施行されている。新法では、集団契約の実施地域や実行可能性が拡大され、内容もより具体的で充実になり、より運用性を重視したものとなった。
集団契約の内容は、労働契約における最低条件を示すものである。従って、労働契約が締結されると集団契約の内容は自動的に適用されるものであるが、集団契約を締結したことで個々の従業員との労働契約を省くことはできない。
また、労働監察活動は、労働に関連する法律・法規の実施を効果的に保障するものであるが、2004年12月1日から『労働監察条例』が施行され、労働保護監察に関する全国統一的な法律として整備された。監察を法治により強化することで労働基準の遵守と労働者の権益保護のため、県レベルの労働保障行政の徹底と社会保障法体系の完成、経済発展のための良好な労働関係構築を目指している。
労働紛争処理制度は、『労働法』、『労働紛争処理条例』など労働関係法規の整備により、徐々に改善されている。各地には、各地には労働争議仲裁委員会が設置され、政府の労働行政部門、労働組合と企業の主管部門の3者からなる労働争議処理システムが形成されている。同時に、各地の労働行政部門はまた労働争議処理専門機構を設置し、専従と兼職の要員を配置し、労働争議仲裁委員会の事務機構の職能を引き受けるほか、労働争議に対する調整活動を繰り広げる。
国有企業では、企業労働争議調整委員会が設置され、企業と労働者の協議による労働争議処理体制が形成されている。
現在、労働関係と監察制度は絶えず改善されているが、その最終目標は、調和のとれた労働関係を促進し、社会安定を実現するため、労働関係調整の法律、政策体系、労働監察体系と労働争議の処理体系をつくり、社会主義市場経済の要求にかなった主体(企業と労働者)自らの協議と政府の調整による労働関係調整制度を全面的に推し進めることにある。
(2) 労働契約
労働法は、事業主と労働者の間に雇用関係が発生すると、労働契約もしくは集団契約の締結を義務付けている。
労働契約は書面の形式で締結され、契約期限が明記されなければならない。
契約期限は固定期限のあるもの、固定期限ないもの、一定の業務の完成をもって期限とするものがある。固定期限の長さについては、労働法に明確な規定がない。ただし、労働者が同一事業主の組織で満10年以上連続して働き、労働契約の継続も当事者双方で認められた場合、労働者本人が期限のない労働契約の締結を提起すれば、固定期限のない契約を締結すべきだと定められている。
労働法第23条は、労働契約の期限が満了し、契約の継続がない場合に、労働契約が直ちに終止すると定めている。
労働法第26条では、下記の状況の1つがあれば、雇用主が労働契約の解除ができるが、ただし、30日前に書面で労働者本人に通知しなければならないと定めている。具体的には。(1)労働者が病気を患い業務に因らない負傷で、医療期間満了後、元の業務を従事できずまた雇用主が別に配置した業務にも従事できない場合、(2)労働者が業務の任に堪えず、訓練養成或いは業務と職場の調整を経ても、なお業務の任に堪えない場合、(3)労働契約締結時に依拠した客観的な事情に重大な変化が生じ、元の労働契約が履行できなくなり、当事者の協議を経て労働契約の変更について合意が達成できない場合、である。
労働法第27条によれば、雇用主が倒産に瀕して法定の整頓期間が進行し、或いは生産経営に重大な困難が生じ、確実に人員削減を必要とする時は、30日前に労働組合或いは従業員全員に事情を説明し、労働組合或いは従業員の意見を聴取し、労働行政に報告した後に、人員削減を行うことができる。ただし、雇用主が人員削減を行った後6カ月以内に人員採用を行う時には、削減された労働者を優先的に採用すべきである。
1978年全人代で可決され、現在も有効である「労働者の定年退職に関する国務院の暫定方法」によれば、国が定めた定年退職年齢は男性が60歳で、女性が50歳、ただし、大卒以上の学歴をもつ女性は55歳である。
(3) 集団契約
集団契約は、工会(労働組合)など代表従業員と企業との間で報酬や労働条件などを内容について協議を経て書面により締結される。『労働法』第33条は、「企業の従業員の一方は企業と労働の報酬、労働時間、休息休暇、労働の安全衛生、保障福祉等の事項について、集団契約にサインすることができる。集団契約草案は、従業員代表大会或いは、従業員全員に提示し、協議の上採用される。集団契約は労働組合代表の従業員と企業とがサインする。労働組合が確立していない企業においては、従業員が推薦する代表と企業によって締結される」と定めている。
2001年に改正された『工会法』においても、第6条で、「工会は対等な協議と集団契約制度を通じて労働関係の協調性を図り、企業従業員の労働権益を守らなければならない」と集団契約制度の重要性を強調している。
WTO加盟以降外資系企業の数も急増しているが、1994年に制定された「外国投資企業労務管理規定」においても、「工会もしくは従業員の代表は、労働報酬、労働時間、休暇、労働安全衛生および保険、福利などに関して企業と協議のうえ集団契約を締結できる」と規定している。『労働法』はまた、労働者個人の労働契約が集団契約の条件を下回ってはならないと規定している。
集団契約によって、労働者個人の労働契約では解決が困難な問題である企業の労働時間調整や奨励制度、賃金分配方式などに関して工会を通して円満に問題解決を図ることが期待されている。1994年に制定された『集団契約法』は、より広範囲の地域性を反映し、具体的規定となって2004年1月に改正され、5月1日から施行されている。
(4) 労働組合
労働組合は、中国で「工会」とよばれている。その全国組織は中華全国総工会である。1992年4月3日に発布された『中華人民共和国労働組合法』は、労働組合は労働者が自由意思で結合する労働者階級の大衆組織であると規定しているが、事実上、中華全国総工会は中国共産党の指導下に置かれている。中華全国総工会は5年おきに全国代表大会を開催している。政府統計局の発表によると、2002年から2003年にかけて工会員数は、減少傾向にある。2002年は、工会組織数が171万3000、工会員数1億3398万人であったところ、1年後の2003年は、工会組織数90万6000、工会員数1億2340万人に落ち込んでいる。
工会組織数減少の原因としては、国有企業改革によるリストラによる従業員数の減少や私営中小企業と外資系企業の従業員の組織化が十分に進んでいないことなどが挙げられる。
(5) 労働関係と労働紛争処理
日本でいう労使関係は、中国では通常、労働関係と呼ばれている。工会(労働組合)は、企業が労働関連法令に違反し、従業員の労働権益を侵害する場合、企業に対して改善要求し、当該問題への調査を行う権利を有している。また、企業と従業員の労働契約締結にも関与し、従業員を代表して平等に企業と集団協議を行い、集団契約を締結することで従業員の権利を保障する役割を担っている。近年、全国の多くの地域でこの集団協議制度が導入されている。
また、2001年には全国レベルで、政府、中華全国総工会、企業連合会による三者協議システムが設けられた。地域レベルでは、現在、河北、山西、遼寧、吉林、江蘇、河南、重慶、陜西省などの9省、深セン、大連などの都市の地区で、地方政府、工会、企業からのなる労働関係三者協議システムが設けられている。
労働争議処理の受理案件は引き続き上昇している。2003年に、各レベルの労働争議仲裁委員会が立案し受理した労働争議案件は22.6万件となっており、80万人の労働者がこうした労働争議に関わっている。そのうち、集団的労働争議は1.1万件。労働争議仲裁委員会で決裁したのは22.4万件で、決裁率は92%である。2003年では労働紛争は前年比較で7万件も増加している。そのような状況の中、集団契約制度を前提とした三者協議システムの徹底が期待されている。(*2004年のデータについては、2005年内に公表される予定。)
争議案件は以下(表2-1~表2-4)の通りである。
案件受理内容 | 合計数 |
---|---|
受理件数合計 | 226,391件 |
事業所単位による訴え件数 | 10,879件 |
労働者による訴え件数 | 215,512件 |
集団的労働争議件数 | 10,823件 |
労働争議当事者数 | 801,042人 |
集団的労働争議当事者数 | 514,573人 |
紛争要因 | 受理件数 |
---|---|
報酬 | 76,774件 |
社会保険福利 | 44,434件 |
労災 | 31,747件 |
職業訓練 | 1,211件 |
労働契約の変更 | 5,494件 |
労働契約の取り消し | 40,017件 |
労働契約の終了 | 12,043件 |
レイオフ | 1,540件 |
その他 | 13,131件 |
案件受理内容 | 国有企業 | 集団企業 | 外資企業 | 合弁企業 |
---|---|---|---|---|
受理件数合計 | 48,771件 | 30,218件 | 23,391件 | 23,451件 |
事業所単位による訴え | 3,158件 | 1,357件 | 1,124件 | 884件 |
労働者による訴え | 45,613件 | 28,861件 | 22,264件 | 22,567件 |
集団的労働争議 | 3,623件 | 1,519件 | 1,121件 | 733件 |
労働争議当事者数 | 309,439人 | 97,501人 | 89,621人 | 63,649人 |
集団的労働争議当事者数 | 294,794人 | 47,796人 | 45,798人 | 18,456人 |
紛争要因 | 国有企業 | 集団企業 | 外資企業 | 合弁企業 |
---|---|---|---|---|
報酬 | 12,637件 | 10,168件 | 7,775件 | 8,351件 |
社会保険福利 | 11,025件 | 6,903件 | 3,807件 | 4,676件 |
労災 | 4,936件 | 3,586件 | 3,425件 | 2,568件 |
職業訓練 | 313件 | 213件 | 186件 | 221件 |
労働契約の変更 | 1,796件 | 684件 | 480件 | 701件 |
労働契約の取り消し | 10,702件 | 4,944件 | 5,090件 | 3,561件 |
労働契約の終了 | 3,671件 | 1,918件 | 1,608件 | 1,217件 |
レイオフ | 570件 | 438件 | 49件 | 185件 |
その他 | 3,121件 | 1,364件 | 971件 | 1,791件 |
※表2-1~表2-4は、代表的なカテゴリーを抜粋したものです。
資料出所:中国統計年鑑2004
(6) 労働関係の法制度
改革開放以来、政府は事業主と労働者双方の労働関係の規範化を図るため、一連の法律、法規を制定し、整備した。労働関係の調整には次の諸法規がある。
- 「中華人民共和国労働組合法」
1992年4月3日国家主席令第57号で発布。2001年改正。 - 「中華人民共和国企業争議処理条例」
1993年7月6日国務院発布。 - 「労働争議仲裁委員会案件処理規則」
1993年10月18日労働部発布。 - 「労働争議仲裁委員会組織規則」
1993年11月5日労働部発布。 - 「中華人民共和国労働法」
1994年7月5日第8期全国人民代表大会常務委員会第8回会議採択、国家主席令第28号で発布。 - 「外国投資企業労働管理規定」
1994年8月1日労働部発布。 - 「企業経済性人員削減規定」
1994年11月14日労働部発布。 - 「労働監察員管理規定」
1994年11月14日労働部発布。 - 「労働契約違反・解除の経済補償規定」
1994年12月3日労働部発布。 - 「集団契約規程」
1994年12月5日労働部発布。2004年1月20日改正。 - 「団体協議による団体契約締結の実験活動に関する労働部の意見」
1994年12月5日労働部発布。 - 「労働契約鑑定活動の関係問題に関する労働部の通知」
1994年12月15日労働部発布。 - 「『中華人民共和国労働法』違反行政処罰規定」
1994年12月16日労働部発布。 - 「労働仲裁員招聘任命管理規定」
1995年3月22日労働部発布。 - 「平等協議と団体契約締結への労働組合参加の試行規定」
1995年8月17日全国総工会発布。 - 「団体協議と団体契約制度の逐次実行に関する労働部、全国総工会、国家経済貿易委員会、中国企業家協会の通知」
1996年5月17日労働部発布。 - 「郷鎮企業の労働契約制度の実施に関する農業部、労働部の通知」
1996年6月7日農業部発布。
4. 労働行政
(1) 労働社会保障政策の概況
2004年の就職および再就職事業は良好な成果を得た。1月から12月の間に全国の都市部において980万人が新規に就職し、また、下崗(リストラ)失業者は、「4050世代」の140万人を含み510万人が再就職を果たした。それぞれ前年比で、109%、102%、140%の増加を実現している。12月末の都市登録失業率は、4.2%であった。これは昨年比で0.1%下がっており、年初の予測を0.5%下回っている。
政府は、4月に2003年の就業と労働市場政策をまとめた「就業状況と政策」白書、9月に社会保障の現状をまとめた「社会保障状況と政策」白書を発表した。
2004年9月には全国再就職事業表彰大会が開催され、524社の全国再就職事業進歩集団と個人が表彰をうけた。本大会では、経済社会発展のために就業と再就業事業の重要性を確認するとともに、改革を通じてさらに積極的に就業政策を実施していくこと、特に党や国務院など中央政府機関でも再就職支援の諸政策を実施することで、下崗人員の再就職実現のための支援に努力することが確認された。
2004年11月1日には、国務院が「労働保障監察条例」を公布した。この条例は、労働保障監察事業の10年の経験と実績をもとに規範化されたもので、労働社会保障行政部門、労働監察実施における事業所と労働者の権利と義務を明確化するとともに、労働監察の執行方法を強化している。
2004年11月、国務院は、農民の地域外就労を改善するため、温家宝首相が召集する国務院常務委員会において、農民の域外就労問題の改善が検討された。12月には「農民の域外就労の改善を進めるための通知」が公布され、農民工の未払い賃金の問題、域外就労農民への差別の撤廃に関する規定、不合理な制限や費用の徴収の撤廃、労働保障観察の執行、就業サービスの改善、農民工への就業技能訓練の実施、労働力市場の整備、農民工を対象とした傷害保険事業の推進などを促す内容となっている。11月26日現在で、農民工への未払い賃金の清算額は318億元にのぼり目標額を達成した。
労働社会保障部は労働者の権益に関する一連の規定を発表した。2003年12月に公布された「最低賃金規定」と「集団契約規定」がそれぞれ3月1日、5月1日に施行されたほか、1月6日に「企業年金試行弁法」、2月2日に「企業年金基金管理試行弁法」がそれぞれ公布され、5月1日から施行されている。9月には、「2004年版国家基本医療保険と労災保険対象薬品目録」を発表している。
政府は、失業者の求職活動をサポートし、多様化したニーズにも対応するよう就業サービスの充実を「制度化」「専門化」「社会化」の3つの側面から進める「新三化」方針を発表した。労働市場動向の管理強化、サービスの規範化を進めること、3年中期計画に基づき各省、都市が毎年具体的計画を策定することを義務付けた。
技能人材の育成のための新たな段階へのステップとして、2004年8月に労働社会保障部はデザイナーなど9つの職業分類を新たに発表し、新職業に関する研究と定期的発表制度を正式に設置することを表した。12月にはコンサルタントなど10の新職業を発表した。労働社会保障部は、高度技能人材育成のための8つの施策を施したほか、「50万人新規技術者育成3年間計画」を発表、2004年から2006年までに、製造業、サービス業など高度技能を必要とする職業の中で、50万人の技師を新たに育成する方針を打ち出した。同時に、技能人材の評価システムを確立し、職業能力、業績や職業技能検定など高技能人材評価体系を積極的に作り上げることを重視することを強調している。
また、労働社会保障部と関係部門は国家高度技能人材訓練プログラム設備、情報産業、電力の3つのプログラムを開始し、「青年労働者技能振興行動計画」を展開した。また、「技能型不足人材養成訓練プログラム」「100の職業学校職業資格証書訓練試験」「高等学校学生職業資格訓練プログラム」などを開始した。
沿海東部を中心に、労働者の不足現象が発覚した。一般労働力が一部地域で相対的に不足したのは、賃金待遇の低さ、労働環境の悪さ、長時間労働などが原因といわれる。労働社会保障部は実態調査を実施し、その結果、賃金待遇の長期的停滞、労働者権益の侵害、企業の急な労働力ニーズの発生、経済モデルの変革などが労働力不足の要因であることを明らかにした。労働力不足は、労働調整の結果、労働市場の需要と供給、賃金状況などを総合的に反映したものである。
(2) 労働関連行政機関
中央では国務院(内閣)労働社会保障部が労働行政を主に司り、現在の組織機構は下記の通りとなっている。
総合管理部門
- 官房庁(弁公庁)
- 人事教育局
- 党規律監督局
- 定年公務員管理局
- 情報センター
業務部門
- 法規局
- 総合計画局
- 訓練就職局
- 労働賃金局
- 養老保険局
- 健康保険局
- 労災保険局
- 保険基金監督局
- 国際協力局
外局
- 労働科学院(労働科学、社会保障、賃金研究、国際問題の4分野の研究所から構成)
- 中国職業訓練技術指導センター
- 新聞宣伝センター
- 国際交流サービスセンター
地方行政では、労働社会保障庁や労働社会保障局などが各省、直轄市に設置されている。また、労働基準監察を行うため全国に労働保障監察機関が設けられており、2004年末には3277カ所設置された。
5. 労働法制
労働法体系を順次整備し、労働を法制化の軌道に乗せることは、中国の既定目標である。改革開放後、労働立法活動の進展は早く、顕著な成果が収められている。
労働立法分野では、1994年に国務院により「労働法」が公布されて以降、労働社会保障部等関係部局により労働関連諸法規が発布・実施された。改革開放後、重要な成果は「中華人民共和国労働法」の発布、実施であろう。「労働法」は、労働者の権利と義務および労働者使用単位の責任を確定し、労働者使用単位と労働者の行為規範であるとともに、労働権利保護の法律保障と労働義務履行の基準でもある。「労働法」は13章107条からなり、労働者の権利と義務、労働関係の締結と調整、労働基準の確定と執行、労働行政部門の職責と規範などについて規定している。
また、中国では、これまで移民に関する特別な規則は設けられていなかったが、2004年8月から、中国公安部と外交部は連名で『外国人の中国永住居留の審査許可方法』を公布した。それによれば、中国経済や、科学技術の発展、および社会進歩に大きな役割を果たしている職場で働く外国籍のハイレベルの、中国で比較的に高い金額の直接投資を行う外国籍投資家個人、中国に特別に重大な貢献を行った、あるいは中国に特に必要とされる人材、中国人と結婚した外国籍の人、中国人の親をもつ外国籍の未成年者、親族に身を寄せる高齢者などの場合、中国での永住を申請する事が出来るようになった。
2004年は、特に労働法が施行されてから10年目にあたる。この10年間に、各級政府と労働部門が「労働法」に依拠して、労働に関する就職と再就職、労働者の合法権益の保護、社会保障システムの確立など三大任務をめぐって、10項目の基本的な労働保障制度を作り上げた。法制度が整備され、社会保障制度が改善されたことによって、中国の経済発展、社会安定に大きな貢献がなされた。
しかし、現段階の中国はまだ市場経済への移行の途中であるため、経済政治社会構造が大きく変容している中で、長期にわたって蓄積された社会問題が未解決のまま、改革の深化によって新しい問題が絶えず発生している。こういった問題を背景に、中国が、社会経済の現状を反映した法律、法規の改正が進められており、法治国家となるための法制度のさらなる整備が期待されている。
「労働法」の発布、実施後、関連する諸法規が制定され、次の諸法規がすでに発布、実施されている。
- 「企業最低賃金規定」
1993年11月24日労働部発布。 - 「労働者労働時間の規定に関する国務院の実施規程」
1994年2月8日労働部・人事部発布。 - 「職業指導規定」
1994年10月27日労働部発布。 - 「賃金支給暫定規定」
1994年12月6日労働部発布。 - 「集団契約規定」
1994年12月5日労働部発布。2004年1月20日改正。 - 「就業訓練規定」
1994年12月9日労働部発布。 - 「未成年労働者特殊保護規定」
1994年12月9日労働部発布。 - 「企業労働者生育保険試行規定」
1994年12月14日労働部発布。 - 「企業労働者労働災害保険試行規定」
1996年8月12日労働部発布。 - 「企業労働者教育訓練規定」
1996年10月30日労働部発布。 - 「外国投資企業賃金収入管理暫定規定」
1997年2月14日労働部発布。 - 「生育保険適用範囲計画」
1997年10月8日労働部発布。 - 「職業紹介サービス規定(試行)」
1998年1月6日労働部発布。 - 「都市部労働者の基本医療保険制度の設立に関する国務院の決定」
1998年12月14日国務院発布。 - 「失業保険条例」
1999年1月22日国務院令第258号。 - 「社会保険料徴収暫定条例」
1999年1月22日国務院令第259号。 - 「社会保険基金監督検挙業務管理方法」
2001年。 - 「社会保険基金行政監督方法」
2001年5月。 - 「社会保険行政争議処理方法」
2001年5月。 - 「中外合資中外合作職業中介機関設立管理規定」
2001年。 - 「労災保険条例」
2003年4月、国務院発布。 - 「集団労働契約法」
2004年1月、労働社会保障部発布。 - 「最低賃金規定」
2004年3月、労働社会保障部発布。 - 「企業年金試行弁法」
2004年2月、労働社会保障部等発布。 - 「企業年金基金試行弁法」
2004年2月、労働社会保障部等発布。 - 「外国人の中国永住居留の審査許可方法」
2004年8月、公安部、外交部発布。 - 「労働監察条例」
2004年11月、労働社会保障部発布。
第10次5カ年計画は労働法制に関して次のような目標を掲げた。完全な労働と社会保障の法律・法規をつくり、労働保障業務の法的基準を設ける。「社会保険法」とそれに合わせた法規の策定と公表を加速し、次第に「労働法」および「社会保険法」をもとにした労働と社会保障の法律・法規のシステムを確立する。労働保障の監督制度や労働保障の監督機関を改善し、監督機関による審査、関連組織による強力な業務体制を確立する。労働保障と社会保障の法律・法規の実施を確実に保障する。労働保障の行政による法施行の監督制度を改善し、法執行責任制、評議・査定制度および書類の審査制度を全面的に導入する。労働と社会保障部門の法に基づく行政の水準の向上を図る。
6. 労働災害
(1) 労働災害保障制度とその概況
1952年に公布された「労働災害保険条例」は、国有企業の労働者、党職員、公務員を対象に施行された。1994年の「労働法」施行以降、法制度の基盤整備は進み、同法第70条は、労災保険制度を社会保険制度の主要内容の一つであると明確に規定している。
1996年に、労働社会保障部は「企業職工工傷保険試行法」を公布し、同時に労災認定基準となる「職工工傷与職業病致残程度鑑定」を公布、10月1日に施行した。96年の改正法により、国有企業、集団企業、合弁企業、私営企業、自営業などすべてが対象に含まれることになった。従来、労災認定にあたっては職場単位で構成される認定委員会との人間関係が重視され、不正な診断書などが問題視されてきたが、「職工工傷与職業病致残程度鑑定」の実施により標準化の方向へある程度是正されるようになった。
さらに、政府は労災予防、労災補償、労災リハビリを結合させた労災保険制度を設立。2003年に国務院は、「労災保険条例」を発布し、労働社会保障部は「労災認定弁法」を公布した。それぞれ2004年1月1日から施行されており、労災の範囲、認定基準、手続き等を詳細に定め運用体制の整備に努めている。
(2) 労災の発生状況
2004年1月から6月までの間に、全国で42万6283件の事故が発生し、死亡者は6万3735人、前年同期比で102人減少している。そのうち、3人から9人が同時に死亡するという大事故は1351件、前年同期比で116件、389人減少した。また10人から29人が同時に死亡するような重大事故は72件で1015人が死亡し、前年同期比で11件、127人の増加となっている。30人が同時に死亡する特別重大事故は5件発生しており、死亡者は202人で、前年同期比で2件、146人の減少である。労災による死亡者を全国レベルで産業別に見た場合、その占める割合は、道路交通77.7%、鉱工業11.3%、鉄道運輸6.5%、消防火災2.5%、水上交通0.5%となっており、交通事故が大半を占めている。
7. 職業教育訓練
(1) 育訓練制度の概要
改革・開放以降、労働者の職業技術開発制度は設立された。現在、職業分類、職業技能基準、職業技能訓練、職業技能検定、技能競争を主要内容とする職業技能開発訓練体系がある。
労働者職業技能開発訓練の基本原則は、「教育訓練を受けてから職に就き、教育訓練を受けてから職場に就く」原則に基づいて、就職または職場転換の際、必要な訓練をうけなければないないとされている。国は、「教育訓練、効果と賃金分配を結合する」原則により、諸訓練機構が教育訓練した合格者に卒業証と職業資格証の2証書を発行し、企業と事業単位は労働者の労働・生産活動の実績と実際の技能水準によって、その賃金待遇を確定する。また同時に国が公布した「労働者考課条例」に基づいて、労働者に対して、初・中・高3級の技術等級と技師・高級技師の任命を実行する。
中国の職業技能訓練システムは、技工学校、就業訓練センター、職業中学校である。職業技能訓練と職業技能の向上を推進するため、労働部は「国家各種分類目録」を制定し、若干の職種に関する国家または業種の職業技能基準を発布し、「職業技能鑑定規程」を発布、職業技能鑑定機構に対してライセンス制度を設け、職業技能鑑定の社会的管理を実施している。職業技能開発訓練について、政府は次の基本目標を提起している。
- 全国的な労働者職業開発情報・ネットワークの形成。
- 国の職業分析、職業資格分類、職業技能基準体系の形成。
- 政府指導による職業技能検定の社会的管理を行い、国の職業資格諸制度を設ける。
都市の郷鎮企業をカバーし、かつ農村まで延長しうる職業技能訓練ネットワークを形成する。
労働と社会保障の第10次5カ年計画は、職業訓練における主な施策を以下のように提示した。労働予備制度を全面的に実施し、中卒や高卒などの新規労働者に対して、1年間の職業教育と訓練を実施する。企業の在職労働者の職業訓練と職業技能検定制度を強化すると同時に、再就職のための教育訓練に力を入れ、1000万人の失業者の職業訓練プロジェクトを引き続き実施することで構造的失業の緩和を図る。また、西部大開発プロジェクトに従い、西部地域の労働者の職業訓練に力を入れる。また、技工学校、就職訓練センターなどの統廃合を通じて、総合的な訓練基地をつくり、多様な訓練を実施する。さらに職業資格証書制度を全面的に導入し、職業技能検定のネットワークを農村地域まで広げる。
(2) 2004年政策実施状況
2004年1年間においては、特に総合的で多層な職業教育と訓練体系の形成に努め、都市部新規労働力、リストラ失業者、農村からの転換労働者と在職労働者の訓練を強化した。技術学校は、技術労働者の育成を主とし、同時に各種の長期と短期の訓練を行う総合的職業訓練基地として機能した。職業訓練センターは新規労働者と失業者を訓練する基地として実用的技術訓練と適応性訓練を主に行った。2004年末までに、高級技術学校274校を含む技術学校は2884校、在校学生数は234万人であり、一般社会向けに各種訓練を述べ265万人に行った。就業訓練センターは、3323カ所で、社会訓練期間は21425カ所、一年を通じ延べ1488万人に訓練を実施した。
就業前訓練にも力を入れており、全面的に労働予備制度を実施し、広く新規労働者の就業前訓練制度を確立実行し、都市と農村をカバーする職業訓練ネットワークを形成していく方針を実現した。2004年は189万人の都市部の進学できない中卒、高卒者がこの労働予備制度に参加した。
遠隔地職業訓練の発展にも力をいれており、中国政府は情報ネットワーク技術と衛生データ転送技術を使い、社会的、開放的な訓練ネットワークの構築を次第に実現させている。
職業教育訓練制度と伴って、職業技能検定制度も設けられているが、2004年末に職業技能検定機構が全国で9458カ所となり、2004年には新たに736万人が職業資格証書を獲得した。
技術コンテストと技術優秀者の表彰活動においては、2004年は全国で1800万人あまりの労働者が技術コンテストに参加しており、1995年以来、国家は毎年10名の「中華技能大奨」と100名の「全国技術優秀者」を選び表彰している。
8. 社会保障
中国の現行の社会保障制度は、基本的に、基本養老保険(いわゆる年金制度)、失業保険、基本医療保険、労災保険および生育保険など5つの社会保険からなっている。
2004年における特徴は、公的年金保険財政が逼迫している状況から、5月の「企業年金試行弁法」「企業年金試行弁法」等の市場運用型の新しい年金制度が導入されたことである。中国の高齢人口増加と人口都市化により基本養老年金が財源的に厳しい状況にあることや中国のWTO加盟による国際化の一層の進展で年金基金運用管理への外資企業の参加が可能となったことなどが企業年金制度導入の背景にはある。企業年金は、基本養老年金を補完する年金制度として普及拡大が期待されている。
(1) 養老保険
1997年7月、中国政府は『企業労働者の基本養老保険制度の統一に関する決定』を発布し、1999年1月、さらに『社会保険料徴収条例』を発布した。これによって全国都市部における企業労働者の基本養老保険制度を統一した。2004年に中国政府が発表した「中国の社会保障状況と政策白書」によると、企業の労働者は法定の退職年齢(男性は60歳、女性は50~55歳)を獲得して、個人での納付が満15年以上あれば退職後に基本養老金を毎月支給される。基本養老金の主なものは、基礎養老金と個人口座からの養老金で構成されており、基礎養老金の一カ月あたりの納付額基準は前年度の平均収入の20%程度であり、個人口座養老金の一カ月あたりの納付額基準は本人の口座(割合は収入の11%)の累計貯蓄額の120分の1である。中央政府は都市住民の生活費用価格指数と労働者の収入増加比率を参照にして、基本養老金の程度を調整する。ちなみに2003年に、養老保険に加入した定年退職者の月あたりの基本養老金は621元となっている。
中国は、基本養老保険のカバー範囲を拡大している。基本養老保険の開始時は国有企業と都市部の集団所有制企業ないしその労働者のみをカバーだけに過ぎなかった。1999年から、基本養老保険のカバー範囲は外国投資企業、都市部私営企業とその他の企業およびその労働者へと拡大した。2002年、基本養老保険のカバー範囲はさらに都市部の自営業者にまで拡大した。2004年、全国の基本養老保険の加入者は1億6353万人に達し、そのうち労働者は1億2250万人となった。
(2) 失業保険
1986年、労働契約制度の実施に合わせて、国務院は『国営企業労働者待業保険暫定条例』を発布し、失業保険制度を設立した。1999年1月に、国務院は『失業保険条例』を発布し、失業保険のカバーする範囲を国有企業、集団企業だけでなく、外商投資企業、私営企業とその他の都市部企業を含む、都市部の全企業と労働者に適用した。2004年に中国政府が発表した「中国の社会保障状況と政策白書」によると、失業保険の納付基準として、雇用側は給与の総額2%、労働者は本人の収入における1%を失業保険費として納付しなければならない。失業保険費を満1年以上納付しており、本人の意志によらない退職となり、さらに失業登録の手続を行えば失業者として失業保険を受けられる。失業保険金の基準は、各地域は、当該地域の最低給与基準や最低生活保障基準に照らして確定されている。失業保険金の受給期間は、失業前の在職時に本人の納付期間が満1年から5年未満の場合は最長で12カ月。満5年から10年未満の場合は、最長で18カ月。10年以上の納付期間の場合は最長で24カ月となる。2004年、全国の失業保険加入者数は、1億584万人で、失業保険受給者数は、419万人であった。
(3) 医療保険
中国政府は、1998年に、『都市部労働者の基本医療保険制度の設立に関する決定』を発布した。そして、1999年から都市部の全企業と労働者は基本医療保険制度への加入を義務付けた。2004年末に全国で基本医療保険に参加している人数は1億2404万人に達し、そのうち労働者は9045万人、退職者は3359万人となった。
(4) 労災保険
中国政府は、2004年1月1日に「労災保険条例」を発布実施した。2004年は労災保険への加入者数は全国で6845万人に達した。
(5) 生育保険(出産保険)
1994年に中国政府は、『企業労働者生育保険試行規定』を公布し、生育保険への加入が義務付けた。2004年、全国で出産保険に加入している労働者は4384万人である。そのうち46万人の労働者が出産保険から援助をうけた。出産保険の保険費は加入会社が労働者への給与総額の1%を納付して、労働者個人は納付しない。労働者の育児は法律の定めにより少なくとも90日の養育補助を得ることができる。女性労働者は養育、あるいは流産の後であってもその給与や労働時の地位が変化することはなく、規定に沿って医療保険を受けることができる。
(6) 企業年金保険
企業年金は、企業とその従業員が自由意志で確立する補充養老年金である。従来から一部地域で試験的に実施されていたが、2004年5月1日に「企業年金試行弁法」と「企業年金基金管理弁法」が施行となり全国展開が期待されている。企業年金とは、基本養老年金をすでに確立している企業、相応しい経済負担能力を携えている企業、団体協議体制を確立している企業が、銀行、信託会社、証券会社等を通じて、市場での投資運営収益を配分して従業員の個人口座に積み立てる一種の長期積立資金である。企業年金を採用する企業は、国有か私有かなど企業形態に応じて、国か地方レベルの労働社会保障行政に企業年金計画を予め提出する義務を負う。基金の運用は、「企業年金基金管理弁法」の規定による条件を満たした第三者機関が行う。企業年金の積立は企業と従業員から必要な資金が徴収される。企業が納付する費用は、その企業の前年度の従業員賃金総額の12分の1以下であり、企業と従業員個人の納付費用の総額については、その企業の前年度従業員賃金総額の6分の1以下とすると規定されている。職員の退職時に一時金か定期的に支払われる年金として受け取ることができる。
9. その他
女子・未成年労働者(16~18歳)
労働法では、女子労働者や16~18歳の未成年労働者に対して特別な労働保護を明記している。女子労働者の場合、産休は90日を下回ってはならない。また、妊娠中に、国が定めた第3級肉体労働に該当する労働を従事させてはならない。妊娠7カ月以上の女子労働者に、残業や夜勤を従事させてはならない。1歳未満の子供の哺乳期間中の女子労働者には、第3級の肉体労働の従事、残業や夜勤も禁止されている。
16歳以下のものを労働者として使うことが禁止されている。16~18歳の労働者は未成年労働者と定義されており、鉱山の坑内、有毒有害、国が定めた第4級の肉体労働などの従事が禁止されている。
参考資料:
- 「2004年度労働と社会保障事業の発展に関する統計公報」(2005年5月)
- 「2004年度労働保障10大ニュース」中国労働社会保障部(2005年1月)
- 「中国の社会保障状況と政策白書」中国労働社会保障部(2004年9月)
- 「中国就業状況と政策」中国労働社会保障部(2004年4月)
- 「中国統計年鑑」国家統計局、2004年版
- 「2004年上半期全国安全生産事故統計」国家安全生産監督管理局
- 「第14回全国代表大会資料『5年来工会工作的主要成績』」中華全国総工会
- 労働政策研究・研修機構ホームページ「海外労働情報」2004年1月から12月等。
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※2002年以前は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。
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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:中国」