基礎情報:ドイツ(2003年)

基礎データ

  • 国名:ドイツ連邦共和国(Federal Republic of Germany)
  • 人口:8254万人(2003年)
  • 実質経済成長率:-0.1%(2003年)
  • GDP:1兆9877億ユーロ(2003年)
  • 労働力人口:3818万9000人(2003年)
  • 失業率:10.5%(2003年)
  • 日本の直接投資額:465億円(2002年度)
  • 日本の直接投資件数:30件(2002年度)
  • 在留法人数:2万7810人(2002年10月)

資料出所:外務省新しいウィンドウ財務省新しいウィンドウドイツ連邦統計庁新しいウィンドウドイツ連邦雇用機関新しいウィンドウ

I.2003年度の主な動き

(データのうち、出所の断りのないものはドイツ連邦統計庁の発表による数字である)

1.経済動向

2003年の経済情勢は前年から続く景気の低迷によって、1990年の東西統一以来、歴史的な低成長を記録した。実質GDP成長率はマイナス0.1%で、統一直後のバブルが崩壊した93年のマイナス1.1%に次ぐ、二度目のマイナスである。四半期ごとに見ると、03年第1四半期0.4%、第2四半期マイナス0.7%、第3四半期マイナス0.2%、第4四半期0.2%で、第4四半期になってようやく景気回復の兆しが見えてきたものの、その力は弱く、本格的な回復基調を示すには至っていない。

これに対して、03年の労働生産性は対前年比0.9%の上昇(95年価格で算出した就労者1人当たりGDP値の伸び率)で、1労働時間当たりでは0.8%の伸びを示した。02年の対前年上昇率(就労者1人当たり)1.3%に比べると、景気低迷を反映して落ち込んでいるが、実質GDP成長率に比べると高い伸びを示しているのは、最近の傾向と同様である。

2.労働市場動向

ドイツ連邦雇用機関(旧連邦雇用庁は04年1月、組織改正され、改名した)が発表したデータによると、03年の年間平均失業者数は437万6000人(対前年比31万5700人増)であり、失業率は10.5%と、02年の9.8%から0.7ポイント増加した。西地域と東地域の内訳は、西地域275万2600人(8.4%)、東地域162万3400人(18.5%)で、東地域の失業率が西地域の2倍を越える状態は全く改善の兆しが見えない。

男性の失業者は244万6000人で、女性は193万0000人。性別の失業率は、上述の数値10.5%の算出ベースと異なる就業者の母数(社会保険加入義務のある就業者等から算出)で出されており、それによると、男性が12.4%、女性が10.8%で、男性が高い(この算出方法での全体の失業率は11.6%)。

一方、連邦統計局が発表している03年の労働力人口(年間平均)は3827万9000人で、前年に比べ39万2000人の減少。被用者人口も、03年は3410万3000人となり、02年(3458万1000人)に比べて約1.4%減少している。産業別に前年と比較すると、製造業(03年で779万4000人)が約2.8%減少しているのに対し、サービス産業(2397万2000人)は約0.5%の減少に過ぎず、そのうち商業・飲食・交通以外の金融や公共・民間サービス等の分野では被用者は減っていない。このように、労働力人口・被用者人口ともに減少する中でサービス産業の占める割合が高まる傾向は、01年以降続いている。

II分野別の動向

1.賃金

すべての労働者を対象とした03年の年間平均賃金(一人当たり)は2万6700ユーロで、対前年比1.3%の伸び。これに対し、ハンス・ベックラー財団付属経済社会科学研究所(WSI)の調査による労働協約賃金の上昇率は、同期間で2.5%だった。この差について、ドイツ連邦統計局は、「ミニ・ジョブ」(低額所得者に対する税・社会保険料の減免あるいは減額措置の対象となる)に従事する低額所得者の増加が労働協約賃金上昇率に反映されていないこと、パートタイム労働者の増加などをあげている。

すべての労働者の給与・賃金総額は、03年は9090億ユーロで、対前年比0.1%の減少となった。02年には0.9%の上昇だったため、頭打ちの傾向が出てきたといえる。税金と社会保険料を差し引いた手取り賃金は5880億ユーロで、税・保険料負担の増加により、総額より対前年減少率が大きい。

2. 労働時間

03年の年間平均労働時間は1445時間で、対前年比2時間増とほぼ横ばいの状態。就業者の占める割合が多い製造業で1457時間(対前年比5時間増)、サービス産業で1412時間(対前年比2時間増)と変化に大きな違いは見られない。労働時間は92年以降一貫して減少する傾向にあったが、01年から変化が少なくなり、03年に微増となった。今後、ほぼ横ばいの状態となるのか、新たな傾向が出てくるかは、今後の推移を見守る必要がある。

3.労使関係と賃金協約

1.賃上げ等労使交渉の概況

WSIがまとめた03年の労使交渉結果によると、同年に妥結した労働協約(それぞれの協約は対象産業の8割以上の被用者をカバーしており、対象となる被用者は合計890万人)の平均賃上げ率は、先述のとおり2.5%であった。

03年に締結された主な産業の労働協約について見ると、化学産業(5月妥結)で2.6%の賃上げ(協約対象期間13カ月のうち12カ月)と企業レベルでの継続的な職業訓練の枠組づくりに関する合意、鉄鋼産業(西地域10月・東地域11月妥結)では03年9~12月に一律140ユーロの支給、04年1月以降は1.7%、さらに同年11月以降は1.1%の段階的賃上げとなった。保険産業(12月妥結)においては10~12月が賃上げなし、04年1月から1.8%、翌05年1月からは1.3%の賃上げを定めている。また、各産業において、有期労働契約を結んだ労働者を労働協約の対象とするよう組合側が要求し、多くの労働協約で、該当する労働者(約30万人)をカバーし、賃上げなどの対象とする合意がなされた。

2.金属産業の労使関係

03年の労使関係において労働側は全般的に守勢に立つ場面が多かったが、その主な原因として、第二次シュレーダー政権の打ち出した「アジェンダ2010」を基軸とする雇用改革の議論(後述)と、IGメタル(金属産業労組)の旧東独地域における労働時間の東西格差是正をめぐる闘争の「歴史的な敗北」があげられる。

旧東独地域では、金属産業の週当たり労働時間は協約上38時間と定められ、西側での週35時間に対し依然格差が残っている。IGメタルは、統一後13年が経過しており、旧東独内の生産性も週35時間労働実現のため十分に向上したなどと主張したが、経営側は雇用コストの上昇を問題視し、生産性の一層の向上が必要だと反論。組合側は6月2日以降約4週間に渡ってストライキを打ったが、週35時間への将来的な移行の道筋についてすら経営側から具体的な回答を引き出せず、同月28日にストを収束させた。

このように、IGメタルがストに訴えながらほとんど成果を引き出せなかったのはおよそ50年ぶりであり、ストの是非について国民の理解を得られなかったことも含めて、最近の「労働組合への風当たりの強さ」を象徴していると見られている。本来労組に近いはずの社会民主党(SPD)でも、雇用改革を推進する政権党としての立場から、W・クレメント経済・労働相がIGメタルの要求に対して「投資先としての旧東独地域、ひいてはドイツの魅力を損なう」と批判するなど、労組にとって厳しい環境が続いている。

IGメタルではその後、この交渉の敗北の責任問題をめぐって執行部の権力闘争が起こり、予定されていた次期委員長選挙を目前にK・ツヴィッケル委員長(当時)が辞任、8月末に、かねてから次期委員長の指名を受けていたJ・ペータース氏(当時副委員長)がストに対する責任を問う圧力をはね返して新委員長に選任されたものの、得票率は同労組の史上最低という66.1%、にとどまり、組織の結束力に課題を残した。

3.労働条件決定のあり方と「協約自治」原則の弾力化

ドイツにおいては、かねてより経済界などに、産業別を基本とする労働協約の拘束力が強いことに対する反発が強く、事業所レベルでの労働条件決定の余地拡大を求める主張が出されていた。後述する改革案「アジェンダ2010」を提起した際(03年3月)、シュレーダー首相はこの問題に触れ、事業所レベルの労使協議が進まない場合は、法律による措置をも考えると経済界寄りの発言をし、CDU(キリスト教民主総同盟)も企業の決定範囲を拡大するための法案を出した。このような流れに対応し、労使はその後協議を続けたが、DGB(ドイツ労働総同盟)のM・ゾマー会長は12月に協議が頓挫したと言明。経営上の危機など一定の条件のもとで協約にとらわれない弾力的な運用を認める用意があるが、一部の経営者が求める無条件の「協約の解放」(協約からの離脱を可能とすること)は容認できないとした。

協約で決められた労働条件の「弾力化」の対象として、経営側はとくに労働時間に目を向けている。金属産業の労働協約交渉(旧協約の期限は期限は03年末まで)は12月から開始されたが、経営側は労働時間の延長と、協約の取り決めにとらわれない「解放条項」の導入を求めている。ただし、オペルのリュッセルスハイム工場で、いわゆる「フォルクスワーゲン方式」(労働時間短縮による雇用維持策)により週30時間制導入を11月に決めるなど、労働時間延長以外の方策も行われている。

現在のところ、実際に「協約の解放」が行われているのは、経営に危機が生じた場合、あるいは雇用を維持する目的などを伴っている。しかし、事業所あるいは個人レベルで、運用の弾力化を進める流れは強まっており、労使の交渉で労働条件を決めていくドイツ特有の「労使自治」システムのあり方を含め、引き続き労使関係の重要なテーマとなりそうだ。

4.労働行政

1.ドイツにおける雇用改革の提起(「アジェンダ2010」およびハルツ法案)

シュレーダー首相は、03年3月、施政方針演説で、「ハルツ委員会」の労働市場改革案(02年8月、フォルクスワーゲン社労務担当役員P・ハルツ氏を委員長とする委員会が連邦雇用庁改編と職業紹介システム、失業給付制度等の改革を提起した)の内容を含む施策「アジェンダ2010」を提起し、以降、雇用改革のテーマはドイツの政治・経済上の議論の中心となった。

雇用改革に関する施策は、その後「労働市場改革法案」として具体化され、同年6月および9月に、連邦議会に提出された。

6月に提出された法案のうち、主な項目は以下のとおり。これらは、成立のために連邦参議院(上院に相当)での採決が必要ないとされた。

  1. 解雇保護法の一部改正-これまで従業員5人以下の企業は、従業員解雇の際に同法が定める保護規定の適用を免れていたが、改正によって、このカテゴリーに属する企業が、さらに従業員を期限つきで雇い入れた場合、同様の適用除外を受けることができる。
  2. 失業給付の支給期間短縮-失業給付について、これまでは、一定の要件を満たしている場合45歳に達するまで12カ月、その後加齢により最大32カ月の給付期間を設けていたが、原則として、55歳未満は12カ月、55歳以上は18カ月となる。

さらに8月の閣議決定を経て、9月に、雇用関連では以下の法案が提出された。これらについては、連邦参議院での採決が必要とされた。

  1. 連邦雇用庁の組織改編
  2. 失業扶助と社会扶助の統合-失業給付(Arbeitslosengeld)支給期間の終了後、失業扶助(Arbeitslosengeld)が支給されていたが、これを社会扶助(Sozialhilfe)と統合し、就業能力のある者には失業給付II、その他の保護を必要とする者には社会手当を支給する。

2.「労働市場近代化」のための法律の成立

03年6月に提出された法案は、9月26日に連立与党(SPDおよび緑の党の連立)が多数を占める連邦議会を通過し、成立した。

解雇保護法については、従業員5人以下の企業がさらに従業員を期限つきで雇い入れる場合、同様の適用除外を受けることができる追加雇用の上限を5人までとしている(上限については連邦議会の審議で追加)。このほか、事業所理由による解雇の場合の対象者選定基準が明確化され、さらに、事業所理由による解雇の際、労働者がこれまでと同様解雇無効を求める訴訟提起に加え、法で定める退職補償金を受け取る解決策を選択できることになった。失業給付期間の短縮については、移行期間が設定され、新制度は06年2月から施行される。

なお、解雇保護法の適用除外対象に関しては、その後、次に述べる両院協議会での各法案の調停作業と併行して見直され、10人以下の小規模企業には適用されないこととなった(ただし5人以上10人以下の企業ですでに雇用されている人は適用対象となる)。

連邦参議院での採決が必要とされる各法案は、10月17日に連邦議会で可決されたが、野党が多数を占める同院において11月7日、否決された。その後、両院協議会で調停作業が進められ、12月19日までに成立した。

連邦雇用庁(Bunderanstalt fur Arbeit)は04年1月から「連邦雇用機関」(Bundesagentur fur Arbeit)に改名された。それに伴い、業務内容の見直しや職員の再配置などにより効率化を進めるとともに、公共職業安定所に福祉関連サービスを行う社会事務所の一部機能を統合した「ジョブセンター」を全国に展開する。

「失業給付II」の創設は、05年1月から施行される。これにより、失業給付終了後、対象者に西地域で345ユーロ、東地域で331ユーロが給付されることになる(失業給付終了後2年に限り、旧来の失業扶助からの減額を緩和する措置が設けられている)。この額は、在職中の賃金の5割以上が支給されていた失業扶助制度の水準からみると、生活保護に相当する「社会扶助」とほぼ同額の支給水準となり、必要に応じて住宅、暖房などの経費補助はあるものの、支給対象者にとっては厳しい措置となる。就業能力がないなどの要件を満たす者に対しては、これまでの社会扶助を改め「社会給付」を支給する。また、職業安定所による職業紹介に際し、対象者が拒否した場合は給付額が減額されるなど、就業努力義務も強化された。


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※2002年以前は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:ドイツ」

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