さらなる労働情報の普及に向けて

岡本 真

Academic Resource Guide新しいウィンドウ 編集長

金字塔としての500号

2003年10月3日に創刊された「メールマガジン労働情報」(以下、本誌)がついに発行500回を達成した。心からお祝いを申し上げるとともに、実に5年を超える継続的な発行に前身の「JIL労働情報」以来の長年の読者の一人として感謝したい。いまふれた「JIL労働情報」は、旧・日本労働研究機構の時代の2000年4月19日に創刊され、実に300回以上発行されている。そう考えると、8年以上に渡って通算800回以上発行という歴史は、まさに金字塔だろう。

この偉業への感想を述べつつ、通算での1000回発行や本誌単独での1000号到達といった次のマイルストーンに向けての期待を述べていきたい。というのも私は一人の労働者として本誌を読み続けてきたのと同時に、インターネットで発信・共有される情報資源の紹介と論評を行う者として本誌に接してきたのだから。

驚異的な部数とそれを支えるもの

さて、まず挙げておきたいのは、本誌の驚異的な発行部数である。約2万6000部。この数字は重い。迷惑メールの増加によるメールに対する信頼性の低下、そしてブログのような新たなメディアの台頭という状況の中にあって、2万6000という数字を維持している。この数値ほど、いまの社会における本誌の必要性と有用性を物語るものもないだろう。

これだけの支持を受けている理由の一つは、本誌が読者ニーズを把握するべく力を尽くしてきたところにある。たとえば、読者アンケートの存在。本誌読者の中にも回答したことがある方がいるだろう。本誌では2006年以降毎年の計3回、「JIL労働情報」の時代にも2回の読者アンケートを実施している。残念ながら回収率が低く、すべての読者の意見を把握できるものではないが、少なくとも熱心な読者の本誌に対する評価と期待を知る術にはなっている。また、手前味噌で恐縮だが、2007年に行われたバックナンバーの検索機能の改善のように、私のような一読者の要望に応えてきた実績もある。

このように本誌は一方的に情報を送りつけ続けるというスタイルではなく、読者との対話によって発展してきた。この利用者志向の徹底は、本誌が5年500回、あるいは8年800回という継続の上に築き上げた大きな功績といえるだろう。

さらなる労働情報の普及に向けて

では、この先、本誌はどのような足跡を残し、功績を築いていくべきだろうか。最後に本誌の今後への期待を述べておきたい。創刊号で本誌は「労働政策の企画立案および国民各層の政策論議の活性化のために役立つ労働関係の情報」を届けていくと述べている。この決意に対して、これまで同様、読者としての願いを忌憚なく述べれば、今後取り組むべきは、情報発信から情報共有への転換ではないだろうか。具体的には、(1)記事単位での情報発信を可能とするブログなどのCMS(コンテンツマネジメントシステム)の開設、(2)ニュース記事類のクリエイティブ・コモンズ(CC)化である。

(1)については、たとえば国立国会図書館のカレントアウェアネス・ポータル新しいウィンドウや、これも手前味噌ではあるが、私が発行するACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)新しいウィンドウが参考になるだろう。つまり、速報的な記事はまずブログやCMSを使って公開し、その後、ひとまとめの記事をメールマガジンで配信するというものだ。Yahoo! JAPANGoogleのような検索エンジンはもとより、はてなブックマークやYahoo!ブックマークのようなソーシャルブックマーク(SBM)を経由して情報にアクセスする流れがいまや一般化しつつある。この動向に対応し、本来の目的である労働情報の提供をより促進するには、メールという媒体にとどまらず、ウェブで情報を見える化していくことが必要ではないだろうか。

(2)も同様である。本誌の末尾には「許可なく転載することを禁じます」という一文がある。だが、労働情報の幅広い提供という目的を考えれば、転載を禁じる考え方は、もはや有効性を失っているのではないだろうか。むしろ、著作権を保持しつつも、一定の自由を事前に許諾するクリエイティブ・コモンズ新しいウィンドウを適用し、読者による労働情報の再配布を図ってみてもよいのではないか。2万6000部を誇る本誌だけに、読者を通してさらに情報が広がっていく可能性は大きいはずだ。

情報発信から情報共有への転換というこの提案はここでは語り尽くせないが、決して案じてはいない。なぜなら、すでに述べたように本誌には常に読者と対話していこうという意思と姿勢があるのだから。期待や希望を語ることが、何らかの形で本誌をさらに向上させていくと信じている。

(2009年1月)