船員の治療と就業の両立支援指針を定める件(国土交通三九九)
2026年3月19日

国土交通省 第三百九十九号

 船員労働安全衛生規則(昭和三十九年運輸省令第五十三号)第十条の十一の規定に基づき、船員の治療と就業の両立支援指針を次のとおり定め、令和八年四月一日から適用する。

  令和八年三月十九日

国土交通大臣 金子 恭之

船員の治療と就業の両立支援指針

目次

 1 船員の治療と就業の両立支援の趣旨

 2 船員法体系の制度と船員の治療と就業の両立支援との関係

 3 船員の治療と就業の両立支援のために船舶所有者等が講ずべき措置

 4 船員の治療と就業の両立支援を行うための環境整備

 5 船員の治療と就業の両立支援を行うに当たっての留意事項

1 船員の治療と就業の両立支援の趣旨

  深刻な少子高齢化と人口減少に直面する我が国において、貴重な労働者の一人一人が、心身の健康を確保し、生きがいを持ってその能力を最大限に発揮することができる環境を整備していくことが必要である。現状、高齢者の就労の増加等を背景に、何らかの疾病を抱えながら働く労働者の割合は年々上昇しており、職場において、当該労働者の治療と就業の両立支援が必要となる場面はさらに増えることが予想されている。船員についても同様に、今後、治療と就業の両立支援の必要性がさらに高まることが見込まれている。

  一方で、近年の医療技術の進歩等により、例えば、かつては「不治の病」とされていたがん等の疾病についても、その生存率が向上し、「長く付き合う病気」に変化していることから、船員が疾病にり患した場合でも、直ちに離職しなければならないという状況は必ずしも発生しなくなってきている。

  しかし、疾病を抱えながら働く船員の中には、疾病に対する船員本人の理解不足のほか、職場の理解、支援体制等が不十分であることにより離職に至ってしまう者、業務上の理由により適切に治療を受けられない者等が生ずることも考えられる。

  船員の労働の場である船舶においては、これまでに健康検査(船員法施行規則(昭和22年運輸省令第23号)第55条に規定する検査をいう。以下同じ。)の結果に基づく健康管理及びメンタルヘルス対策を始めとして、船員の心身の健康確保に向けた様々な取組が行われてきたが、近年では、健康経営、ワーク・ライフ・バランス、ダイバーシティの促進等の観点から、厳しい経営環境の中でも、船員の心身の健康確保のための取組及び疾病、障害等を抱えながら働く船員の活躍のための取組等が推進されている。

  一方で、船員の治療と就業の両立支援のための取組を実施するに当たっては、海上労働の特殊性を踏まえる必要があり、産業保健スタッフ(産業医又は常時使用する船員の数が50人未満の船舶所有者が使用する船員の健康管理等を行う医師(以下「産業医等」という。)、保健師等をいう。以下同じ。)及び医療機関との連携の在り方等について悩む船舶所有者も少なくない。

  こうした状況を背景に、医療機関等における治療と就業の両立支援対策の強化のみならず、船員の治療と就業の両立支援に取り組む船舶所有者に対する支援の必要性も高まっている。

  船舶所有者には、疾病若しくは負傷又はこれらの後遺症(以下「疾病等」という。)の治療を受ける船員について、就業による疾病又は負傷の症状の増悪その他の健康への悪影響を防止し、その治療と就業との両立を支援するため、当該船員からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずることが求められる。このような措置は、船舶所有者にとって、船員の心身の健康確保及び就業の継続という意義だけでなく、以下のような副次的な意義をももたらすものであると考えられる。

  ・多様な人材の活用による組織及び事業の活性化

  ・組織としての社会的責任の履行

  ・継続的な人材の確保

  ・船員の安心感及びモチベーションの向上による人材の定着

  さらに、当該措置の結果として、疾病等の治療を受ける船員について、個々の治療の状況に応じた就業が可能となることにより、全ての人が生きがいを持って活躍することができる社会の実現に寄与することが期待される。

  この指針は、船員労働安全衛生規則第10条の11の規定に基づき、船舶所有者が、疾病等の治療を受ける船員について、その治療と就業との両立を支援すべく、必要な体制の整備その他の必要な措置を適切かつ有効に講ずるために必要な事項を定めたものである。

  船舶所有者並びにその産業保健スタッフ及び人事労務担当者は、この指針に従い、船員の治療と就業との両立を支援するために必要な措置を講ずるよう努める必要があるが、疾病等の治療を受ける船員本人及びその家族並びに医療機関の関係者を始めとする当該船員の治療と就業の両立支援に関わる者についても、この指針を活用することが可能である。

  また、この指針は、その雇用形態にかかわらず、全ての船員を対象とし、そのうち、既に雇入契約を結んでいる船員への措置を特に念頭に置いているが、今後新たに雇入契約を結ぶ予定がある船員のうち、その就業に当たり疾病等の治療の継続が必要な者についても、この指針に従い必要な措置を講ずることが望ましい。

  なお、この指針において、治療と就業との両立を支援すべき対象となる船員の疾病等は、国際疾病分類(疾病、傷害及び死因の統計分類(統計法第二十八条の規定に基づき、疾病、傷害及び死因に関する分類を定める件(平成27年総務省告示第35号))に規定する分類をいう。)に掲げられている疾病(船員法施行規則第2号表第1号に掲げられているものを除く。)であって、医師により、その症状の増悪等の防止のために継続的な治療が必要と診断され、かつ、就業の継続に当たり船舶所有者の配慮が必要と認められるものとする。

2 船員法体系の制度と船員の治療と就業の両立支援との関係

  船員は、陸上労働者とは異なり、海上という特殊な環境において、船内における労働に従事することから、独自に船員法(昭和22年法律第100号)に基づく労働規制の適用を受けており、同法第83条第1項において、船舶所有者は、国土交通大臣の指定する医師が船内労働に適することを証明した健康証明書(以下「健康証明書」という。)を持たない者を船舶に乗り組ませてはならない旨を規定している。健康証明書は、船舶の安全な航行の確保を図るため、船員が船内労働に従事するに当たっての健康上の要件を満たしていることを医学的に確認し、証明することを目的とするものである。

  一方で、疾病等を抱えた船員であっても、健康証明書を受けることができた場合は、船舶に乗り組むことが可能である。船舶所有者は、当該船員を就業させるに当たり、当該船員に対し、船内労働による疾病等の症状の増悪等を防止するために、治療と就業との両立のための就業上の措置及びその治療に対する配慮を行うよう努めることが重要である。

  この点、船員の心身の健康確保に係る措置については、これまで、船員本人による取組が中心となっており、船舶所有者が講ずる措置に係る義務は限定的であった。このような状況を受け、現に船内労働に従事している船員に対する、船舶所有者による心身の健康確保に係る取組の方向性を示すものとして、交通政策審議会海事分科会船員部会において「船員の働き方改革の実現に向けて」(令和2年9月)が、また、労使、医療等の専門家から構成される、船員の健康確保に関する検討会において「船員の健康確保に向けて」(同年10月)がそれぞれ取りまとめられた。これらの内容を踏まえ、船員法施行規則等の一部を改正する省令(令和4年国土交通省令第42号)により船員労働安全衛生規則が改正され、医学的見地から、現に船内労働に従事している船員の心身の健康確保を図るための新たな制度が導入され、令和5年4月1日より施行された。具体的には、同令第31条の5、

第32条の5及び第32条の15において、船舶所有者は、船員に対して、健康検査、長時間にわたる労働に関する面接指導又は心理的な負担に関する面接指導の実施後に、医師の意見を勘案し、必要があると認めるときは、就業する場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、夜間労働の回数の減少、休日の付与、乗船期間の短縮その他の適切な措置を講じなければならないこととされた。

  また、船舶所有者は、疾病等を抱える船員についても、3以降に記載する治療と就業の両立支援を実施するに当たり、必要があると認めるときは、これらの適切な措置を講ずることが望ましい。

3 船員の治療と就業の両立支援のために船舶所有者等が講ずべき措置

  船舶所有者は、船員の治療と就業の両立支援のために講ずべき措置について、以下のとおりに実施することが望ましい。

 (1) 船員本人による治療と就業の両立支援を必要とする旨の申出並びに必要な情報の収集及び提供

   船舶所有者は、治療と就業の両立支援を必要とする船員本人からの申出を受けて、その支援の検討を行う。

   船員は、健康検査又は医療機関を受診した際の医師の診断の結果に基づき、自らの疾病等について正しく認識し、主治医の助言により治療と就業の両立支援が必要と判断した場合は、船舶所有者に対し、当該支援を必要とする旨の申出を行った上で、船内ルール(船員の治療と就業の両立支援を行うに当たり船舶所有者が定める事項をいう。以下同じ。)に基づき、当該支援に必要な情報を主治医から収集して船舶所有者に提供する必要がある。

   船員が船舶所有者に対して治療と就業の両立支援を必要とする旨の申出を行うに当たり、船舶所有者の産業保健スタッフ及び人事労務担当者は、当該船員がその主治医から必要かつ十分な情報を収集することができるよう、当該船員に対し、船舶所有者が定める様式を活用した、当該船員の業務内容、就業時間等の就業状況に関する情報をまとめた書面の作成支援及び治療と就業の両立支援を受けるための手続の説明等の必要な支援を行うことが望ましい。なお、船舶所有者は、日頃から当該様式及び当該手続について、船員に対して周知しておくことが望ましい。

   また、船員は、船舶所有者に対して治療と就業の両立支援に必要な情報を提供するに当たり、自らの就業状況に関する情報をまとめた書面を主治医に提供した上で、当該主治医から以下に掲げる情報の提供を受けることが望ましい。

  ① 疾病等の症状及び治療の状況等

   ・現在の症状

   ・通勤又は業務遂行に影響を及ぼし得る症状

   ・治療の内容及び今後のスケジュール

   ・通院による治療の必要性の有無及び必要性がある場合のその期間

   ・治療による副作用の有無及び副作用がある場合のその内容

  ② 就業継続の可否に関する意見

  ③ 就業上望ましい措置に関する意見

   ・避けるべき船内作業

   ・時間外労働の制限

   ・短時間勤務の実施

  ④ その他配慮が必要な事項に関する意見

   ・通院時間の確保

   ・船内における休憩場所の確保

   船員が主治医から必要な情報を収集し、当該情報を船舶所有者に提供するに当たっては、当該主治医と連携している医療ソーシャルワーカー、看護師等の支援を受けることも考えられる。

   また、船員から提供された情報がその治療と就業の両立支援に係る検討を行う上で十分でないことから、船舶所有者が当該船員の主治医からさらに必要な情報を収集することが必要となる場合がある。この場合において、船舶所有者は、当該船員の健康情報(疾病等の症状、治療の状況等の疾病等に関する個人情報をいう。以下同じ。)を取り扱うこととなるため、当該船舶所有者に産業保健スタッフがいる場合には、当該船員本人の同意を得た上で、当該産業保健スタッフが当該船員に代わり、その主治医からさらに必要な情報を収集することが望ましい。なお、産業保健スタッフがいない場合には、当該船員本人の同意を得た上で、当該船舶所有者の人事労務担当者が当該船員に代わり、その主治医からさらに必要な情報を収集することが考えられる。

 (2) 船舶所有者による産業医等に対する情報提供及び意見聴取

   船舶所有者は、船員に対する就業上の措置及びその治療に対し配慮すべき事項を検討するに当たり、当該船員を通じてその主治医から提供された情報を産業医等に提供するとともに、当該産業医等から当該船員の就業継続の可否並びに就業継続が可能な場合の就業上の措置及び治療に対し配慮すべき事項に関する意見を聴取することが重要である。なお、産業医等がいない場合において、船舶所有者は、当該船員の主治医から提供された情報を参考とする。

 (3) 船舶所有者による船員の就業継続の可否の判断及び当該船員に対する就業上の措置等の実施

  ① 船員の就業継続の可否の判断等

    船舶所有者は、船員の主治医及び産業医等の意見を勘案しつつ、当該船員が治療を受けながら就業を継続することが可能であるか否かについて検討し、就業を継続することが可能であると判断した場合には、当該船員に対する就業上の措置及びその治療に対する配慮の具体的内容及び実施時期等について検討を行う。その際、就業継続に関する希望の有無、就業上の措置及び治療に対する配慮の内容等について、当該船員本人から意見を聴取し、十分な調整を通じて当該船員本人の同意が得られるよう努めることが必要である。また、当該船員の就業継続の可否の判断に当たっては、当該船員が疾病等を抱えていることをもって安易に就業を禁止するのではなく、作業の転換、労働時間の短縮その他の必要な措置を講ずることにより、可能な限り当該船員の就業の機会を失わせないようにすることに留意すべきである。船舶所有者は、当該検討の結果を踏まえ、以下の事項を考慮した上で、当該船員に対する就業上の措置及びその治療に対する配慮の内容等を決定し、これらを行う。

  ② 「治療と就業の両立支援プラン」の作成

    船舶所有者は、船員が治療を受けながら就業を継続することが可能であると判断した場合には、必要に応じて、当該船員の治療と就業の両立支援に係る具体的内容及びスケジュール等についてまとめた計画(以下「治療と就業の両立支援プラン」という。)を作成することが望ましい。

    治療と就業の両立支援プランの作成に当たっては、産業保健スタッフ及び当該船員の主治医と連携するとともに、必要に応じて、当該主治医と連携している医療ソーシャルワーカー、看護師等の支援を受けることも考えられる。

    また、船員は、治療の終了後、直ちに元の職務に復帰することができるとは限らないことにも留意すべきである。このような事情を踏まえ、治療と就業の両立支援プランには、以下の事項を盛り込むことが望ましい。

   ア 当該船員の治療の状況及び今後のスケジュール

   イ 当該船員に対する就業上の措置及びその治療に対する配慮の具体的内容及び実施時期

    ・就業する場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の当該船員に対する就業上の措置の内容

    ・通院時間の確保等の当該船員の治療に対する配慮の内容

   ウ フォローアップの方法及びスケジュール

    ・産業保健スタッフ及び人事労務担当者による面談並びにその実施予定日等

  ③ 「治療と就業の両立支援プラン」等に基づく取組の実施及びフォローアップ

    船舶所有者は、治療と就業の両立支援プラン等に基づき、船員に対して必要な就業上の措置及びその治療に対する配慮を行う。また、船舶所有者の産業保健スタッフ及び人事労務担当者は、当該船員の治療の状況を適宜確認し、その状況に応じて当該措置及び当該配慮の内容、実施時期及び実施期間を見直すことが必要である。

  ④ 船員の周囲の者への対応

    船舶所有者は、船員に対して就業上の措置及びその治療に対する配慮を行うに当たり、その周囲の同僚及び上司等にも一時的に負担がかかることとなることを踏まえ、当該船員本人の同意を得た上で、必要と認められる範囲内において、これらの者に対し、当該措置及び当該配慮の前提となる当該船員の病状等の情報を可能な限り共有することにより、その理解を得る必要がある。また、これらの者に過度の負担がかからないよう、船舶所有者の産業保健スタッフ及び人事労務担当者による組織的な支援を併せて行うことも必要である。

 (4) 船舶所有者による船員の職場復帰の可否の判断及び当該船員に対する職場復帰後の就業上の措置等の実施

  ① 船員の職場復帰の可否の判断

    船舶所有者は、休業していた船員の疾病等が回復した場合、以下のとおり、その職場復帰の可否を判断する。

   ア 当該船員の職場復帰に関して、自らが定めた様式等を用いて、当該船員本人を通じ、その主治医から意見を求める。なお、その際、当該船員は、その主治医と連携している医療ソーシャルワーカー、看護師等の支援を受けることも考えられる。当該主治医から提供を受けた情報が十分でない場合において、船舶所有者の産業保健スタッフは、当該船員本人の同意を得た上で、当該船員に代わり、その主治医からさらに必要な情報を収集することが望ましい。なお、船舶所有者に産業保健スタッフがいない場合には、当該船員本人の同意を得た上で、当該船舶所有者の人事労務担当者が当該船員に代わり、その主治医から必要な情報を収集することが考えられる。

   イ 当該船員の職場復帰の可否に関して、その主治医の意見を産業医等に提供した上で、その意見を聴取する。なお、産業医等がいない場合には、当該主治医から提供を受けた情報を参考とする。

   ウ 当該船員本人の職場復帰に関する意向を確認する。

   エ 当該船員が復帰する予定の職場の者の意見を聴取する。

   オ 当該船員の主治医及び産業医等の意見、当該船員本人の職場復帰に関する意向、当該船員が復帰する予定の職場の者の意見等を総合的に勘案し、その就業する場所の変更も含めた当該船員の職場復帰の可否を判断する。

  ② 「職場復帰支援プラン」の作成

    船舶所有者は、船員の職場復帰が可能であると判断した場合には、必要に応じて、当該船員の職場復帰に係る支援計画(以下「職場復帰支援プラン」という。)を作成することが望ましい。職場復帰支援プランは、休業していた船員の円滑な職場復帰及び職場復帰後における就業の継続のための具体的な支援を行うことを目的とするものであるため、治療と就業の両立支援プランに盛り込むことが望ましいとされている事項に加え、当該船員の職場復帰予定日についても記載する必要がある。その際、船員は、治療の終了後、直ちに元の職務に復帰することができるとは限らないことに留意すべきである。

    職場復帰支援プランの作成に当たり、船舶所有者は、その産業保健スタッフ及び当該船員の主治医と連携するとともに、必要に応じて、当該主治医と連携している医療ソーシャルワーカー、看護師等の支援を受けることが考えられる。

  ③ 「職場復帰支援プラン」等に基づく取組の実施及びフォローアップ

    船舶所有者は、職場復帰支援プラン等に基づき、船員に対して必要な就業上の措置及びその治療に対する配慮を行う。また、船舶所有者の産業保健スタッフ及び人事労務担当者は、当該船員の治療の状況を適宜確認し、その状況に応じて当該措置及び当該配慮の内容、実施時期及び実施期間を見直すことが必要である。

  ④ 船員の周囲の者への対応

    船舶所有者は、船員に対して就業上の措置及びその治療に対する配慮を行うに当たり、その周囲の同僚及び上司等にも一時的に負担がかかることとなることを踏まえ、当該船員本人の同意を得た上で、必要と認められる範囲内において、これらの者に対し、当該措置及び当該配慮の前提となる当該船員の病状等の情報を可能な限り共有することにより、その理解を得る必要がある。また、これらの者に過度の負担がかからないよう、船舶所有者の産業保健スタッフ及び人事労務担当者による組織的な支援を併せて行うことも必要である。

 (5) 船員に業務遂行に影響を及ぼし得る状態の継続が判明した場合の対応

   船舶所有者は、船員について、その疾病等の治療後において業務遂行に影響を及ぼし得る状態が継続することが判明した場合には、当該船員の主治医及び産業医等の意見を勘案し、十分な調整を通じて当該船員本人の同意が得られるよう努めた上で、作業の転換等の必要な就業上の措置を講ずる。その際、当該措置は、継続的に実施する必要がある場合があり、当該船員の周囲の同僚及び上司等の理解及び協力を得ることが重要となることに留意すべきである。

   また、当該措置について、船舶所有者及びその人事労務担当者は、定期的な状況の確認等を通じて、見直し等の必要な対応を行うことが重要である。

 (6) 船員の治療後の経過が順調でない場合の対応

   船員の中には、治療後の経過が順調でなく、その疾病等の症状の増悪等により、治療と就業との両立が困難となる者もいる。

   船舶所有者は、このような船員の意向も考慮しつつ、当該船員の疾病等の症状及び治療の経過を踏まえた上で、その就業継続の可否について改めて慎重に判断する必要があり、船内労働によってその症状が著しく増悪するおそれがあると認められる場合には、あらかじめ産業医その他の専門の医師の意見を聴いた上で、その就業を停止させる必要がある。

 (7) 船員の疾病が再発した場合の対応

   船舶所有者は、船員に対して必要な就業上の措置及びその治療に対する配慮を行うに当たり、これらの取組が終了した後においても、その疾病が再発する可能性があることを念頭に置く必要がある。実際に船員の疾病が再発した場合には、その主治医及び産業医等の意見を勘案した上で、改めて必要な就業上の措置及びその治療に対する配慮の内容等を検討し、これらを行うことが重要である。

4 船員の治療と就業の両立支援を行うための環境整備

 (1) 船員の治療と就業の両立支援に関する基本方針等の作成等

   船舶所有者は、船員の治療と就業の両立支援に関する基本方針及び船内ルールについて、自らが設置する安全衛生委員会、船内安全衛生委員会等(以下「安全衛生委員会等」という。)における調査及び審議を経て、労使の理解を得つつ作成した上で、これを表明し、及び周知する。

 (2) 船員の治療と就業の両立支援を実施するための職場風土の醸成

   船舶所有者は、船員の治療と就業の両立支援を実施するための職場風土の醸成のため、以下の取組を行う必要がある。

   ・全ての船員に対する、船内ルールにおいて定める支援制度、治療と就業の両立支援に関する手続及び当該手続に活用することができる自らが定めた様式についての周知及び研修

   ・治療と就業の両立支援を必要とする船員向けの相談窓口の設置

   ・船員による治療と就業の両立支援の申出に関する情報の管理体制の明確化

 (3) 船員の治療と就業の両立支援に関する制度及び体制の整備等

   船舶所有者は、安全衛生委員会等における調査及び審議並びに労使及び産業保健スタッフとの連携を通じて、以下のとおり、休暇制度及び勤務制度を始めとする船員の治療と就業の両立支援に関する制度及び当該制度の実施体制の整備等を行う。

  ① 休暇制度及び勤務制度の整備等

    船員の治療に必要な時間の確保及び船員の負担の軽減のためには、その就業時間に制限を設けることが必要な場合もあることから、船員の勤務の実情に応じ、以下のような休暇制度及び勤務制度を整備すること等が望ましい。

   ア 傷病休暇及び病気休暇制度

     船員の入院又は通院のために、船員法に規定する有給休暇とは別に、船舶所有者が船員に対して自主的に付与する休暇に関する制度。当該制度を整備する場合は、当該休暇の取得条件、取得中の処遇(給料の支払いの有無等)等について定める必要がある。

   イ 勤務制度等

    (ア) 時差出勤制度

      船舶に乗り組むための通勤が日常的に発生する船員について、その通勤に係る負担の軽減を図ることを目的として、始業及び終業の時刻を変更する制度

    (イ) 短時間勤務制度

      療養中又は療養後の船員について、その就業上の負担の軽減、通院時間の確保等を図ることを目的として、労働時間を短縮する勤務制度

    (ウ) 航海期間に対する配慮に関する措置

      船舶所有者が複数の船舶を所有する場合に、療養中又は療養後の船員について、その就業上の負担の軽減を図ることを目的として、より短期間の航海に従事する船舶に配乗させる措置

  ② 船員から治療と就業の両立支援を必要とする旨の申出があった場合の対応手順及び関係者の役割の整理

    船員本人からの治療と就業の両立支援を必要とする旨の申出に対し、円滑に対応することができるよう、その対応に係る手順に加えて、船舶所有者の産業保健スタッフ及び人事労務担当者並びに当該船員の周囲の同僚及び上司等の関係者の役割をあらかじめ整理しておくことが望ましい。

  ③ 関係者間の円滑な情報共有のための仕組みづくり

    船員の治療と就業の両立支援を適切に行うためには、当該船員本人の同意を得た上で、その主治医並びに船舶所有者の産業保健スタッフ及び人事労務担当者が、互いに当該支援に必要な情報を共有し、連携することが重要である。

    特に、当該船員の治療の状況、心身の状態、就業の状況等を踏まえつつ、その主治医及び産業医等の意見を勘案した上で、その就業継続の可否の判断、必要な就業上の措置及び治療に対する配慮を適切に行う必要があるため、当該船員からその主治医に対して就業状況に関する情報を適切に提供するための様式及び当該船員が長期間の航海中においても治療を継続するに当たり、あらかじめ適切な量の薬剤の処方を円滑に受けるための様式を定めておくことが望ましい。

  ④ 船長等に対する研修

    船員の治療と就業の両立支援のための制度及び体制の実効性を確保するため、船長等の管理職に対し、当該制度及び体制に関する研修を行うことが望ましい。

 (4) 船舶内外の連携等

   船舶所有者が船員の治療と就業の両立支援を行うに当たり、船舶所有者及び船員は、必要に応じて、当該船舶所有者の産業保健スタッフ及び当該船員の主治医に加え、当該主治医と連携している医療ソーシャルワーカー、看護師等と連携することも考えられる。

   一方で、海上においては、医療機関へのアクセスが物理的に制限されることから、船員がこれらの関係者との連携を図る際には、インターネットを利用することが考えられる。そのため、船舶所有者は、船内におけるインターネットの利用環境の確保及び改善を図ることが望ましい。

5 船員の治療と就業の両立支援を行うに当たっての留意事項

 (1) 船員の安全及び健康の確保

   船員の治療と就業の両立支援を行うに当たり、船舶所有者は、その業務の繁忙等を理由として、船員に対し、就業する場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜労働の回数の減少、休日の付与、乗船期間の短縮等の適切な就業上の措置及びその治療に対する配慮を行わないことがあってはならない。

 (2) 船員本人による取組

   船員の治療と就業との両立には、疾病等を抱えながら働く船員本人が、その主治医の指示等に基づき、治療、服薬、適切な生活習慣の維持等を通じて、当該疾病等の症状の増悪等の防止に適切に取り組むことが重要である。加えて、当該船員は、船舶所有者並びにその産業保健スタッフ及び人事労務担当者等の治療と就業の両立支援の関係者に、自身の病状、服薬歴等に関する情報を適切に共有することが望ましい。

 (3) 船員の疾病等又はその治療に対する誤解又は偏見の防止のための配慮

   船舶所有者及びその人事労務担当者並びに治療と就業の両立支援を必要とする船員の周囲の同僚及び上司等の関係者は、当該船員の疾病等又はその治療に対する誤解又は偏見が生じないよう、必要な配慮を行うことが必要である。

 (4) 船員ごとの特性に応じた配慮

   船舶所有者は、治療と就業の両立支援を必要とする船員ごとに、抱える疾病等の症状及び治療方法並びに必要な対応及びその実施期間等が異なることを踏まえ、当該船員ごとの特性に応じた配慮を行うことが必要である。

 (5) 船員の個人情報の保護

   船員の治療と就業の両立支援を行う上で必要となる船員の健康情報については、慎重な取扱いを要するため、船舶所有者は、船員労働安全衛生規則第31条の2第1項の規定に基づき、船員から健康検査についての医師の診断の結果が記載された書面又は当該書面の写しが提出される場合を除き、原則として、船員本人の同意なくその健康情報を取得してはならない。

   また、船舶所有者が取得した船員の健康情報については、第三者への漏えいを防止するため、当該情報を取り扱う者の範囲を限定することその他の必要な措置を講ずることにより、管理体制の整備を図る必要がある。

 (6) 船員本人と直接連絡が取れない場合の対応

   船舶所有者は、船員本人と直接連絡が取れない場合において、必要に応じて当該船員の家族等と連携し、必要な情報の収集等を行うことが必要である。

 (7) 健康検査における船員の主治医の意見の活用

   船員が船舶に乗り組む際には健康証明書が必要となるが、現に疾病等の治療を受けている船員が新たに健康検査を受ける場合には、あらかじめ、当該船員の就業に関するその主治医の意見を、当該健康検査を行う医師に伝達することが望ましい。その伝達の方法としては、船舶所有者が定める様式に記載された当該主治医の意見を、当該健康検査を行う医師に提示することが考えられる。