治療と就業の両立支援指針(厚生労働二八)
2026年2月10日
厚生労働省 第二十八号
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)第二十七条の三第二項の規定に基づき、治療と就業の両立支援指針を次のとおり定め、令和八年四月一日から適用することとしたので、同項の規定に基づき告示する。
令和八年二月十日
治療と就業の両立支援指針
目次
1 治療と就業の両立支援の趣旨
2 労働安全衛生法との関係
3 治療と就業の両立支援を行うに当たっての留意事項
4 治療と就業の両立支援を行うための環境整備
5 治療と就業の両立支援の進め方
1 治療と就業の両立支援の趣旨
深刻な少子高齢化と人口減少に直面する我が国において、貴重な労働者の一人一人が、心身の健康を確保し、生きがいを持ってその能力を最大限発揮することができる環境を整備していくことが必要である。
現状、高齢者の就労の増加等を背景に、何らかの疾病により通院しながら働く労働者の割合は年々上昇しており、職場において疾病を抱える労働者の治療と就業の両立への対応が必要となる場面は更に増えることが予想される。
一方、近年の医療技術の進歩等により、例えば、かつては「不治の病」とされていたがん等の疾病においても生存率が向上し、「長く付き合う病気」に変化しており、労働者が疾病にり患した場合でも、すぐに離職しなければならないという状況は必ずしも当てはまらなくなっている。
しかし、疾病を抱える労働者の中には、疾病に対する労働者自身の理解の不足や職場の理解・支援体制が不十分であることにより、離職に至ってしまう場合や、業務上の理由で適切に治療を受けられない場合もみられる。
事業場においては、健康診断に基づく健康管理やメンタルヘルス対策をはじめとして、労働者の健康確保に向けた様々な取組が行われてきたが、近年では、厳しい経営環境の中でも、労働者の健康確保や疾病・障害を抱える労働者の活躍推進に関する取組が、健康経営やワーク・ライフ・バランス、ダイバーシティの促進といった観点からも推進されている。
一方で、治療と就業の両立支援の取組状況は事業場によって様々であり、支援方法や産業保健スタッフ(産業医又は労働者数が50人未満の事業場で労働者の健康管理等を行う医師(以下「産業医等」という。)や保健師、看護師等をいう。以下同じ。)・医療機関との連携について悩む事業場も少なくない。
こうしたことから、労働者の治療と就業の両立支援に取り組む企業に対する支援や医療機関等における治療と就業の両立支援対策の強化も必要な状況にある。
事業主には、疾病、負傷等の治療を受ける労働者について、就業によって疾病又は負傷の症状が増悪すること等を防止し、その治療と就業の両立を支援するため、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じることが求められる。このような取組は、労働者の健康確保及び就業継続という意義とともに、事業主にとって、継続的な人材の確保、労働者の安心感やモチベーションの向上による人材の定着、生産性の向上、治療と就業の両立支援の充実が取組の一要素を構成する健康経営の実現、多様な人材の活用による組織や事業の活性化、組織としての社会的責任の実現、ワーク・ライフ・バランスの実現といった意義もあると考えられる。また、疾病を抱える労働者が、個々の状況に応じた就業の機会を得ることが可能となり、全ての人が生きがい、働きがいを持って活躍できる社会の実現に寄与することが期待される。
本指針は、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)第27条の3の規定に基づき、治療を受ける労働者の治療と就業の両立を支援するための措置に関し、その適切かつ有効な実施を図るために必要な事項を定めたものである。事業主は、治療と就業の両立支援を行うに当たっては、本指針に基づき、職場において必要な措置を講じることが望ましい。
事業場における治療と就業の両立支援の取組に当たっては、厚生労働省労働基準局長が定める主な疾病別の留意事項、様式例集並びに支援制度及び支援機関を参考にする。
本指針は主に、事業主、人事労務担当者及び産業保健スタッフを対象としているが、労働者本人や、家族、医療機関の関係者等の支援に関わる者にも活用可能なものである。
本指針が対象とする疾病(負傷を含む。以下同じ。)は、国際疾病分類(疾病、傷害及び死因の統計分類(統計法第28条の規定に基づき、疾病、傷害及び死因に関する分類を定める件(平成27年総務省告示第35号)で規定する分類をいう。)に掲げられている疾病であって、医師の診断により、増悪の防止等のため反復・継続して治療が必要と判断され、かつ、就業の継続に配慮が必要なものとする。
また、本指針は既に雇用している労働者への対応を念頭に置いているが、治療が必要な者を新たに採用し、職場で受け入れる際には、本指針を参考として取り組むことが可能なものである。
さらに、本指針は、雇用形態に関わらず、労働者全てを対象とする。
2 労働安全衛生法との関係
労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「安衛法」という。)では、事業者による労働者の健康確保対策に関して規定されており、そのための具体的な措置として、安衛法第66条に基づく健康診断の実施(既往歴、業務歴、自覚症状及び他覚症状の有無の検査や、血圧等の各種検査の実施)及び医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは就業上の措置(就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等)の実施を義務付けるとともに、日常生活面での指導、受診勧奨等を行うよう努めるものとされている。これは、労働者が、業務に従事することによって、疾病を発症したり、疾病が増悪したりすることを防止するための措置などを事業者に求めているものである。
また、安衛法第68条及び労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第61条第1項では、事業者は、「心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかつた者」等については、その就業を禁止しなければならないとしており、同条第2項において、「前項の規定により、就業を禁止しようとするときは、あらかじめ、産業医その他専門の医師の意見をきかなければならない」としているところ、これらの規定は、当該労働者の疾病の種類、程度及びこれらについての産業医等の意見を勘案の上、可能な限り配置転換、作業時間の短縮その他の必要な措置を講ずることによって就業の機会を失わせないようにし、やむを得ない場合に限り就業を禁止するものとする趣旨であり、種々の条件を十分に考慮して慎重に判断すべきものである。
さらに、安衛法第62条では、事業者は、「中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たつて特に配慮を必要とする者については、これらの者の心身の条件に応じて適正な配置を行なうように努めなければならない」こととされている。
これらを踏まえれば、事業主が疾病を抱える労働者を就業させると判断した場合は、就業により疾病が増悪しないよう、治療と就業の両立のために必要となる一定の就業上の措置及び治療に対する配慮を行うことは、労働者の健康確保対策等として位置づけられる。
したがって、治療と就業の両立支援は、事業場において安衛法第69条に基づき行われる健康保持増進措置や対策とともに実施することが望ましい。
3 治療と就業の両立支援を行うに当たっての留意事項
(1) 安全と健康の確保
治療と就業の両立支援に際しては、就業によって、疾病の増悪や再発、労働災害が生じないよう、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の適切な就業上の措置及び治療に対する配慮を行うことが就業の前提となる。したがって、業務の繁忙等を理由に必要な就業上の措置及び治療に対する配慮を行わないことはあってはならない。
(2) 労働者本人の取組
治療と就業の両立に当たっては、疾病を抱える労働者本人が、主治医の指示等に基づき、治療を受けること、服薬すること及び適切な生活習慣を守ること等、治療や疾病の増悪防止について適切に取り組むことが重要である。
(3) 労働者本人の申出
治療と就業の両立支援は、私傷病である疾病に関わるものであることから、労働者本人から支援を求める申出がなされたことを端緒に取り組むことが基本となる。なお、労働者本人からの申出が円滑に行われるよう、事業場内ルールの作成及び周知、労働者及び管理職等に対する研修による意識啓発並びに相談窓口及び情報の取扱方法の明確化等、申出が行いやすい環境を整備することも重要である。
(4) 措置等の検討と実施
治療と就業の両立支援を申し出た労働者への対応の検討に当たり、労働者に対する措置等を事業主が一方的に判断しないよう、以下の取組が必要である。
・就業継続の希望や配慮の要望を聴取し、十分な話合い等を通じて労働者本人の了解を得られるよう努める
・疾病のり患をもって安易に就業を禁止せず、主治医や産業医等の意見を勘案し、可能な限り配置転換、作業時間の短縮その他の必要な措置を講じて就業の機会を失わせないよう留意する
・疾病及びその治療に対する誤解や偏見等が生じないよう、事業主、人事労務担当者、上司や同僚等の関係者において必要な配慮を行う
(5) 治療と就業の両立支援の特徴を踏まえた対応
治療と就業の両立支援の対象者は、入院や通院、療養のための時間の確保等が必要となるだけでなく、疾病の症状又は治療の副作用若しくは後遺症等によって、業務遂行能力が一時的に低下する場合等がある。このため、時間的制約に対する配慮だけでなく、労働者本人の健康状態や業務遂行能力も踏まえた就業上の措置及び治療に対する配慮が必要となる。
(6) 個別事例の特性に応じた配慮
症状や治療方法等は個人ごとに大きく異なるため、個人ごとに取るべき対応やその時期等は異なるものであり、個別事例の特性に応じた配慮が必要である。
(7) 対象者、対応方法等の明確化
事業場の状況に応じて、事業場内ルールを労使の理解を得て作成するなど、治療と就業の両立支援の対象者、対応方法等を明確にしておくことが必要である。
(8) 個人情報の保護
治療と就業の両立支援を行うためには、症状、治療の状況等の疾病に関する個人情報(以下「健康情報」という。)が必要となるが、当該情報は機微な情報であることから、安衛法に基づく健康診断において把握した場合を除いては、原則として、事業主が労働者本人の同意なく取得してはならない。また、健康診断又は労働者本人からの申出により事業主が把握した健康情報については、当該情報を取り扱う者の範囲や第三者への漏えいの防止も含めた適切な情報管理体制の整備が必要である。
⑼ 治療と就業の両立支援にかかわる関係者間の連携の重要性
治療と就業の両立支援を行うに当たっては、以下の関係者が必要に応じて連携することで、労働者本人の症状や業務内容に応じた、より適切な支援の実施が可能となる。
ア 事業場の関係者(事業主、人事労務担当者、産業保健スタッフ、上司や同僚等、労働組合等)
イ 医療機関の関係者(医師(主治医等)、看護師、医療ソーシャルワーカー等)
ウ 地域で事業主や労働者を支援する関係機関・関係者(都道府県の産業保健総合支援センター、労災病院に併設する治療就労両立支援センター、保健所等の保健師、社会保険労務士等)
また、労働者本人と直接連絡が取れない場合は、その家族等と連携して、必要な情報の収集等を行う場合がある。
特に、治療と就業の両立支援のためには、事業場と医療機関との連携が重要であり、労働者本人を通じた主治医との情報共有や、本人の同意を得た上での産業保健スタッフや人事労務担当者と主治医との連携が必要である。
4 治療と就業の両立支援を行うための環境整備
(1) 事業主による基本方針の表明等と労働者への周知
事業主として、治療と就業の両立支援に取り組むに当たっての基本方針を表明する。
衛生委員会等で調査審議を行った上で、事業主として、治療と就業の両立支援に取り組むに当たっての基本方針や具体的な対応方法等の事業場内ルールを作成し、当事者やその同僚となり得る全ての労働者(以下「全ての労働者」という。)に周知することで、治療と就業の両立支援の必要性や意義を共有し、治療と就業の両立を実現しやすい職場風土を醸成する。
(2) 研修等による意識啓発
治療と就業の両立支援を円滑に実施するため、全ての労働者及び管理職に対して、治療と就業の両立支援に関する研修等を通じた意識啓発を行う。
(3) 相談窓口等の明確化
治療と就業の両立支援は、労働者からの申出を原則とすることから、労働者が安心して相談や申出を行えるよう、相談窓口や申出が行われた場合の当該情報の取扱い等を明確にする。
(4) 治療と就業の両立支援に関する制度、体制等の整備
ア 休暇制度、勤務制度の整備
治療と就業の両立支援においては、短時間の治療が定期的に繰り返される場合、就業時間に一定の制限が必要な場合、通勤による負担軽減のために出勤時間をずらす必要がある場合等があることから、以下のような休暇制度、勤務制度について、各事業場の実情に応じて導入し、治療のための配慮を行うことが望ましい。
(ア) 休暇制度
① 時間単位の年次有給休暇
労働基準法(昭和22年法律第49号)に基づく年次有給休暇は、1日単位が原則であるが、労使協定の締結により、1時間単位で付与することが可能となる(年5日の範囲内)。
② 傷病休暇、病気休暇
事業主が自主的に設ける法定外の休暇であり、入院や通院のために、年次有給休暇とは別に休暇を付与するもの。取得条件や取得中の処遇(賃金の支払いの有無等)等は事業場ごとに異なる。
(イ) 勤務制度
① 時差出勤制度
事業主が自主的に設ける勤務制度であり、始業及び終業の時刻を変更することにより、身体に負担のかかる通勤時間帯を避けて通勤するといった対応が可能となる。
② 短時間勤務制度
事業主が自主的に設ける勤務制度であり、療養中又は療養後の負担を軽減すること等を目的として、所定労働時間を短縮する制度である。
③ 在宅勤務制度
事業主が自主的に設ける勤務制度であり、パソコン等の情報通信機器を活用した場所にとらわれない柔軟な働き方(テレワーク)により、自宅で勤務することで、通勤による身体への負担を軽減することが可能となる。
④ 試し出勤制度
事業主が自主的に設ける勤務制度であり、長期間にわたり休業していた労働者の円滑な職場復帰を支援するために、勤務時間や勤務日数を短縮した試し出勤等を行うもの。職場復帰や治療を受けながら就業することに不安を感じている労働者や、受入れに不安を感じている職場の関係者にとって、試し出勤制度があることで不安を解消し、円滑な就業に向けて具体的な準備を行うことが可能となる。
イ 治療を受ける労働者から支援を求める申出があった場合の対応手順及び関係者の役割の整理
治療を受ける労働者から支援を求める申出があった場合に円滑な対応ができるよう、対応手順や、事業主、人事労務担当者、産業保健スタッフ、上司や同僚等の関係者の役割をあらかじめ整理しておくことが望ましい。
ウ 関係者間の円滑な情報共有のための仕組みづくり
治療と就業の両立のためには、労働者本人を中心に、主治医、事業主、人事労務担当者、産業保健スタッフ、上司や同僚等が、本人の同意を得た上で支援のために必要な情報を共有し、連携することが重要である。特に、就業継続の可否、必要な就業上の措置及び治療に対する配慮に関しては、症状、治療の状況、就業の状況等を踏まえて主治医や産業医等の意見を求め、その意見に基づいて対応を行う必要がある。このため、主治医に労働者の就業の状況等に関する情報を適切に提供するための様式や、就業継続の可否、必要な就業上の措置及び治療に対する配慮について主治医の意見を求めるための様式を定めておくことが望ましい。(必要に応じて厚生労働省労働基準局長が定める様式例を活用)
エ 治療と就業の両立支援に関する制度や体制の実効性の確保
治療と就業の両立支援に関する制度や体制を機能させるためには、日頃から全ての労働者に対して、支援制度及び相談窓口の周知を行うとともに、管理職に対して、労働者からの申出又は相談を受けた際の対応方法や、支援制度及び体制について研修等を行うことが望ましい。
オ 労使や産業保健スタッフの協力
治療と就業の両立支援に関して、支援制度及び体制の整備等の環境整備に向けた検討を行う際には、衛生委員会等で調査審議するなど、労使や産業保健スタッフが連携し、取り組むことが重要である。
(5) 事業場内外の連携
治療と就業の両立支援の取組に当たっては、産業保健スタッフや主治医と連携するとともに、必要に応じて、主治医と連携している医療ソーシャルワーカー、看護師等や、都道府県労働局、都道府県の産業保健総合支援センター、保健所等の保健師、社会保険労務士等の支援を受けることも考えられる。
5 治療と就業の両立支援の進め方
治療と就業の両立支援は以下の流れで進めることが望ましい。
(1) 治療と就業の両立支援を必要とする労働者が、事業主に申出を行った上で、主治医から支援に必要な情報を収集して事業主に提出(必要に応じて厚生労働省労働基準局長が定める様式例を活用)
治療と就業の両立支援の検討は、支援を必要とする労働者からの申出から始まる。安衛法に基づく健康診断の結果に基づいて医療機関を受診し、又は自ら医療機関を受診する等により、自らが疾病にり患していることを把握し、主治医等の助言により治療と就業の両立支援が必要と判断した労働者は、治療と就業の両立支援に関する事業場内ルールに基づいて、主治医から支援に必要な情報を収集して事業主に提出する必要がある。この際、労働者は事業主が定める様式等を活用して、就業の状況等に関する情報を主治医に提供した上で、主治医から次のアからエまでの情報の提供を受けることが望ましい。
ア 症状、治療の状況
・現在の症状
・入院や通院による治療の必要性とその期間
・治療の内容やスケジュール
・通勤や業務遂行に影響を及ぼしうる症状や副作用の有無とその内容
イ 就業継続の可否に関する意見
ウ 望ましい就業上の措置に関する意見(避けるべき作業、時間外労働の制限、出張の可否等)
エ 治療に対する配慮が必要な事項に関する意見(通院時間の確保や休憩場所の確保等)
また、労働者は、主治医からの情報収集や、事業主とのやり取りに際して、主治医と連携している医療ソーシャルワーカー、看護師等や、都道府県の産業保健総合支援センター、保健所等の保健師、社会保険労務士等の支援を受けることも考えられる。
治療と就業の両立支援を必要とする労働者から事業主に相談があった場合は、労働者が必要かつ十分な情報を収集できるよう、産業保健スタッフや人事労務担当者は、事業主が定める就業の状況等に関する情報の提供のための書面の作成支援や、治療と就業の両立支援に関する手続きの説明を行うなど、必要な支援を行うことが望ましい。また、主治医の意見を求める際には、機微な健康情報を取り扱うこととなるため、産業医等がいる場合には産業医等を通じて情報のやり取りを行うことが望ましい。
なお、労働者による主治医からの情報収集が円滑に行われるよう、事業主は、日頃から、治療と就業の両立支援に関する手続きや、事業主が定める様式等について、周知しておくことが望ましい。
主治医から提供された情報が、治療と就業の両立支援の観点から十分でない場合は、産業保健スタッフがいる場合には、労働者本人の同意を得た上で、産業保健スタッフが主治医から更に必要な情報を収集することが望ましい。なお、産業保健スタッフがいない場合には、労働者本人の同意を得た上で、人事労務担当者等が主治医から必要な情報を収集することもできる。
(2) 事業主が、主治医から提供された情報を産業医等に対して提供し、就業継続の可否、就業上の措置及び治療に対する配慮に関する産業医等の意見を聴取
事業主は、就業上の措置及び治療に対する配慮を検討するに当たり、主治医から提供された情報を産業医等に対して提供し、就業継続の可否、就業可能な場合の就業上の措置及び治療に対する配慮に関する産業医等の意見(主治医の就業上の措置及び治療に対する配慮に関する意見の確認を含む。)を聴取することが重要である。産業医等がいない場合は、主治医から提供された情報を参考とする。
(3) 事業主が、主治医や産業医等の意見を勘案し、就業継続の可否を判断
事業主は、主治医や産業医等の意見を勘案し、就業を継続させるか否かの判断に当たり、就業上の措置及び治療に対する配慮の具体的な内容や実施時期等について検討を行う。その際、就業継続に関する希望の有無や、就業上の措置及び治療に対する配慮に関する要望について、労働者本人から聴取し、十分な話合いを通じて本人の了解が得られるよう努めることが必要である。
なお、検討に当たっては、疾病にり患していることをもって安易に就業を禁止するのではなく、主治医や産業医等の意見を勘案して可能な限り配置転換、作業時間の短縮その他の必要な措置を講ずることによって就業の機会を失わせないようにすることに留意が必要である。
(4) 事業主が、労働者の就業継続が可能と判断した場合、就業上の措置及び治療に対する配慮の内容、実施時期等を検討・決定し、実施(入院等による休業を要しない場合の対応)
ア 治療と就業の両立支援プランの作成
事業主は、労働者に対し、治療を受けながらの就業継続が可能であると判断した場合、就業によって疾病の症状が増悪することがないよう就業上の措置及び治療に対する配慮を決定し、実施する必要があるが、その際必要に応じて、具体的な措置や配慮の内容及びスケジュール等についてまとめた計画(以下「治療と就業の両立支援プラン」という。)を作成することが望ましい。
治療と就業の両立支援プランの作成に当たっては、産業保健スタッフ、主治医と連携するとともに、必要に応じて、主治医と連携している医療ソーシャルワーカー、看護師等や、都道府県の産業保健総合支援センター、保健所等の保健師、社会保険労務士等の支援を受けることも考えられる。
また、治療の終了後すぐに通常の勤務に復帰できるとは限らないことに留意が必要であり、治療と就業の両立支援プランに以下の事項を盛り込むことが望ましい。
① 治療、投薬等の状況及び今後の治療、通院の予定
② 就業上の措置及び治療に対する配慮の具体的内容並びに実施時期・期間
・就業上の措置の内容(就業場所の変更、作業の転換(業務内容の変更)、労働時間の短縮等)
・治療に対する配慮の内容(通院時間の確保等)
③ フォローアップの方法及びスケジュール(産業保健スタッフや人事労務担当者等による面談等)
イ 治療と就業の両立支援プラン等に基づく取組の実施とフォローアップ
事業主は、治療と就業の両立支援プラン等に基づき、必要な就業上の措置及び治療に対する配慮を実施する。治療の経過によっては、必要な措置や配慮の内容、時期・期間が変わることも考えられるため、労働者に状況を適時確認し、必要に応じて治療と就業の両立支援プラン、就業上の措置及び治療に対する配慮の内容を見直すことが必要である。
なお、治療と就業の両立支援プラン、就業上の措置及び治療に対する配慮の内容の見直しの検討に当たっては、人事労務担当部門や産業保健スタッフ等が組織的な支援を行うことが望ましい。
ウ 周囲の者への対応
労働者に対して就業上の措置及び治療に対する配慮を行うことにより、周囲の同僚や上司等にも一時的に負担がかかる。そのため、就業上の措置及び治療に対する配慮を実施するために必要な情報に限定した上で、負担がかかる同僚や上司等には可能な限り情報を共有し理解を得るとともに過度の負担がかからないようにする。また、人事労務担当部門や産業保健スタッフ等による組織的な支援を行うことが望ましい。
(5) 事業主が、労働者に対し、長期の休業が必要と判断した場合、休業開始前の対応及び休業中のフォローアップを行うとともに、労働者の疾病の症状が回復した際には、主治医や産業医等の意見、労働者本人の意向、復帰予定の職場の意見等を総合的に勘案し、職場復帰の可否を判断した上で、職場復帰後の就業上の措置及び治療に対する配慮の内容、実施時期等を検討・決定し、実施(入院等による休業を要する場合の対応)
ア 休業開始前の対応
主治医や産業医等の意見を勘案し、労働者が長期に休業する必要があると判断した場合、事業主は、労働者に対して、休業に関する制度(賃金の取扱い、手続を含む。)と休業可能期間、職場復帰の手順等について情報提供を行うとともに、休業申請書類を提出させ、労働者の休業を開始する。
また、治療の見込みが立てやすい疾病の場合は、休業開始の時点で、主治医や産業医等の専門的な助言を得ながら、休業終了の目安も把握する。
イ 休業期間中のフォローアップ
休業期間中は、あらかじめ定めた連絡方法等によって労働者と連絡をとり、労働者の状況や治療の経過、今後の見込み等について確認するほか、職場復帰に向けた労働者の不安や悩みを相談でき、活用可能な支援制度等について情報提供ができる窓口を設置し、明確化することが重要である。労働者は、休業期間中は、主治医の指示等に基づき、治療を受けること、服薬すること、適切な生活習慣を守ること等、疾病の治療や回復に専念することが重要である。
なお、労働者自身による職場復帰に向けた準備も重要であり、必要に応じて、事業主から労働者に職場復帰に関連する情報を提供することも考えられる。
ウ 職場復帰の可否の判断
労働者の疾病の症状が回復した際には、事業主は、以下により職場復帰の可否を判断する。
① 労働者本人を通じて、事業主が定めた様式等を活用して職場復帰に関する主治医の意見を求める。なお、労働者は、主治医の意見を求めるに際して、主治医と連携している医療ソーシャルワーカー、看護師等の支援を受けることも考えられる。主治医から提供された情報が十分でない場合は、産業保健スタッフがいる場合には、労働者本人の同意を得た上で、産業保健スタッフが主治医から更に必要な情報を収集することが望ましい。なお、産業保健スタッフがいない場合には、労働者本人の同意を得た上で、人事労務担当者等が主治医から必要な情報を収集することもできる。
② 主治医の意見を産業医等に提供し、職場において必要とされる業務遂行能力等を踏まえた職場復帰の可否に関する意見を聴取する。産業医等がいない場合は、主治医から提供を受けた情報を参考とする。
③ 労働者本人の意向を確認する。
④ 復帰予定の職場の意見を聴取する。
⑤ 主治医や産業医等の意見、労働者本人の意向、復帰予定の職場の意見等を総合的に勘案し、配置転換も含めた職場復帰の可否を判断する。
エ 職場復帰支援プランの作成
事業主は、職場復帰が可能であると判断した場合、必要に応じて、労働者が職場復帰するまでの計画(以下「職場復帰支援プラン」という。)を作成することが望ましい。職場復帰支援プランに盛り込むことが望ましい事項は、(4)アに規定する入院等による休業を要しない場合の治療と就業の両立支援プランと同様であるが、職場復帰支援プランの場合は、職場復帰日についても明示する必要がある。
職場復帰支援プランの作成に当たっては、産業保健スタッフや主治医と連携するとともに、必要に応じて、主治医と連携している医療ソーシャルワーカー、看護師等や、都道府県の産業保健総合支援センター、保健所等の保健師、社会保険労務士等の支援を受けることも考えられる。
また、職場復帰支援プランの作成に当たっては、退院や治療の終了後すぐに通常の勤務に復帰できるとは限らないことに留意が必要である。
オ 職場復帰支援プラン等に基づく取組の実施とフォローアップ
事業主は、職場復帰支援プラン等に基づき、必要な就業上の措置及び治療に対する配慮を実施する。治療の経過によっては、必要な措置や配慮の内容、時期・期間が変わることもあるため、労働者に状況を適時確認し、必要に応じて職場復帰支援プラン、就業上の措置及び治療に対する配慮の内容を見直すことが必要である。
なお、職場復帰支援プラン、就業上の措置及び治療に対する配慮の内容の見直しの検討に当たっては、人事労務担当部門や産業保健スタッフ等による組織的な支援を行うことが望ましい。
カ 周囲の者への対応
労働者に対して就業上の措置及び治療に対する配慮を行うことにより、周囲の同僚や上司等にも一時的に負担がかかる。そのため、就業上の措置及び治療に対する配慮を実施するために必要な情報に限定した上で、負担がかかる同僚や上司等には可能な限り情報を共有し理解を得るとともに過度の負担がかからないようにする。また、人事労務担当部門や産業保健スタッフ等による組織的な支援を行うことが望ましい。
(6) 治療後の経過が悪い場合の対応
労働者の中には、治療後の経過が悪く、病状の悪化により、業務遂行が困難になり、治療と就業の両立が困難になる場合もある。
その場合は、事業主は、労働者の意向も考慮しつつ、主治医や産業医等の意見を求め、治療や症状の経過に沿って、就業継続の可否について慎重に判断する必要がある。
事業主は、労働のため病勢が著しく増悪するおそれがある場合には、あらかじめ産業医その他専門の医師の意見を聴いた上で、安衛法第68条に基づき、就業禁止の措置を取る必要がある。
(7) 業務遂行に影響を及ぼしうる状態の継続が判明した場合への対応
労働者に、治療後に、業務遂行に影響を及ぼしうる状態が継続することが判明した場合には、作業の転換等の就業上の措置について主治医や産業医等の意見を求め、その意見を勘案し、十分な話合いを通じて労働者本人の了解が得られるよう努めた上で、就業上の措置を実施する。
期間の限定なく就業上の措置の継続が必要となる場合もあり、その際には、人事労務担当者、上司や同僚等の理解、協力が重要である。
また、就業上の措置の状況について、定期的な確認等により必要な対応を行うことが重要である。
(8) 疾病が再発した場合の対応
労働者が職場復帰後、同じ疾病が再発した場合の治療と就業の両立支援も重要である。事業主は、治療と就業の両立支援を行うに当たっては、あらかじめ疾病が再発することも念頭に置き、再発した際には状況に合わせて改めて検討することが重要である。


