労働者協同組合及び労働者協同組合連合会の適正な運営に資するための指針(厚生労働一八八)
2022年5月27日

厚生労働省告示 第百八十八号

 労働者協同組合法(令和二年法律第七十八号)第百三十条第一項の規定に基づき、労働者協同組合及び労働者協同組合連合会の適正な運営に資するための指針を次のように定めたので、同条第三項の規定により告示し、令和四年十月一日より適用する。

  令和四年五月二十七日

厚生労働大臣 後藤 茂之

   労働者協同組合及び労働者協同組合連合会の適正な運営に資するための指針

第一 趣旨

 この指針は、労働者協同組合法(令和二年法律第七十八号。以下「法」という。)第百三十条の規定に基づき、労働者協同組合(以下「組合」という。)及び労働者協同組合連合会の適正な運営に資するため、必要な基本的事項を定めたものである。

第二 組合の性質

 組合は、組合員が出資すること、各組合員の意見が反映され事業が行われること及び組合員が自ら組合の行う事業に従事することを基本原理とする組織であって、剰余金の配当について、組合員が組合の事業に従事した程度に応じて行うことができるものとされ、出資額に応じた配当を認めない非営利の法人であり、地域における多様な需要に応じた事業を通じて地域社会に貢献し地域社会の課題を解決することで、持続可能な地域社会の実現を目指すものであること。

 地域社会の課題の解決のためには、特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)に規定する特定非営利活動法人、中小企業団体の組織に関する法律(昭和三十二年法律第百八十五号)第三条第一項第六号に掲げる企業組合等の組合以外の法人形態で活動することも考えられ、組合は、これらの既存の法人制度と共存するものであり、地域社会の課題の解決のために活動を行おうとする者の選択肢を広げ、こうした活動を一層促進する意義があるものであること。

第三 組合に関する事項

 一 基本原理

 組合は、組合員が出資すること、各組合員の意見が反映され事業が行われること及び組合員が自ら組合の行う事業に従事することという基本原理に従い、事業を行わなければならないこと。

 なお、組合員自らが他の組合員とともに意見を出し合いながら就労の場を創るという組合の性格に鑑み、各組合員が意見を出すことができる仕組みを設けており、また、組合の事業に必要な財産的基礎についても組合員自らによって確保されるべきとの考えにより、組合員に出資を義務付けているものであること。

 二 事業に関する事項

  (一) 組合が行うことができない事業等

 組合は、法第七条第二項及び労働者協同組合法施行令(令和四年政令第二百九号)第一条の規定に基づき、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号)第二条第三号に掲げる労働者派遣事業(以下この(一)において単に「労働者派遣事業」という。)を行うことができないこととされている趣旨は、組合員が出資し、組合員それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、組合員自らが組合の行う事業に従事するという法第三条第一項の組合の基本原理と相反するためであること。

 また、労働者派遣事業を行う者を子会社にすることは、法第三条第一項及び第七条第二項の規定の趣旨に反する脱法的な運用であり、厳に避けるべきものであること。

 なお、組合が行おうとする事業が行政庁の認可等を必要とするものである場合には、当該事業を行うに当たっては当該認可等を受けることが必要であることに留意すること。

  (二) 組合員による組合の行う事業への従事

 組合は、組合の基本原理を踏まえると、本来、全ての組合員が組合の行う事業に従事することが適当であること。ただし、これが難しい場合にあっては、次に掲げる事項に留意すること。

   イ 法第八条第一項の規定により、総組合員の五分の四以上の数の組合員が組合の行う事業に従事することが義務付けられていること。また、総組合員の五分の一以下の数の組合員が組合の行う事業に従事しないことが許容されている趣旨は、育児や介護等の家庭等の事情により一時的に組合の行う事業に従事できない組合員が引き続き組合員の資格を継続することを認めることにあること。

   ロ 法第八条第二項の規定により、組合の行う事業に従事する者の四分の三以上が組合員であることが義務付けられていること。また、組合の行う事業に従事する者の四分の一以下が組合員以外であることが許容されている趣旨は、業務の繁忙期における人手不足に対応するため一時的に組合員以外の者が組合の行う事業に従事すること、出資金を分割して払い込む者が当該払込みの完了までの間、組合の行う事業に従事すること等を認めることにより、組合の事業活動に柔軟性を持たせることにあること。なお、組合は、事業を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されることを基本原理とする組織であり、臨時的に組合の行う事業に従事する者について、組合員の資格を与えないまま、永続的に事業に従事させることは想定されていないこと。

  (三) 公正な競争

 組合は、組合員に対し、不当に低い賃金を支払うこと等により事業を実施することで、公正な競争を阻害することがないこと。

第四 組合員に関する事項

 一 組合員の性質

 法第一条に規定する「組合員自らが事業に従事する」の趣旨は、組合員が事業者であることを意味するものではなく、組合が事業者であり、個々の組合員は組合と労働契約を締結して組合の事業に従事する者であることに留意すること。

 二 組合への加入

 組合への加入の自由は重要な協同組合の原則の一つであり、法第十二条第一項において、組合員たる資格を有する者が組合に加入しようとするときは、組合は、正当な理由がないのに、その加入を拒んではならないこととされていること。組合は、当該正当な理由の判断に当たっては、加入の自由が不当に害されることのないように留意すること。

 法第十二条第一項の正当な理由としては、例えば、加入しようとする者側の理由として、加入しようとする者が法第十五条第二項各号に掲げる除名事由に該当する行為を現にしている、当該行為をすることが客観的にみて明らかであること、加入しようとする者が加入の申込前に外部から組合の活動を妨害していた者であること等が考えられること。また、組合側の理由として、組合員の数が組合の事業を行うのに必要な数を大幅に超過している等、加入を認めると組合の円滑な事業活動や組織運営に支障をきたすことが予想されること等が考えられること。

 三 組合員の除名

 組合は、組合員の除名が組合員たる資格を喪失させる重大な効果を有するものであることに十分留意し、組合員の除名を行うに当たっては、除名の対象となる組合員が法第十五条第二項各号に掲げる組合員に該当するかを十分に確認すること。また、当該組合員を除名する場合には、当該組合員に対し、その旨を総会の日の十日前までに通知し、かつ、総会において弁明の機会を付与した上で、法第六十五条の規定による総会の特別の議決(総組合員の半数以上が出席し、その議決権の三分の二以上の多数による議決)を行う必要があること。

 四 労働契約の締結等

  (一) 労働契約の締結に係る趣旨

 組合は、その事業に従事する組合員(組合の業務を執行し、又は理事の職務のみを行う組合員及び監事である組合員を除く。以下この四において同じ。)を労働者として保護する観点から、法第二十条第一項の規定により、組合員との間で、労働契約を締結しなければならないこと。

 このため、組合員には、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)、最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)、労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)等の労働関係法令が基本的に適用されることとなるが、これらの具体的な適用に当たっては、具体的な個々の実態に応じて、各労働関係法令に定める労働者に該当するか否か等が判断されるものであること。

  (二) 組合員の募集

 組合は、組合に加入しようとする者を募集する際に、職業安定法(昭和二十二年法律第百四十一号)第五条の三第一項の規定により、労働条件を明示しなければならないこと。その際、組合は、組合員との間で労働契約を締結しなければならないことについても明示すべきであること。

  (三) 組合員の脱退

 法第二十条第二項の規定により、組合員の脱退は、当該組合員と組合との間の労働契約を終了させるものと解してはならないこととされている趣旨は、労働契約を終了させる目的で恣意的に特定の組合員を脱退させることを防ぐことにあることに留意すること。

  (四) 理事の職務のみを行う組合員

 理事の職務のみを行うこととして組合との間で労働契約を締結していない理事を理事の職務以外の事業に従事させることは、法第二十条に違反するものであること。そのような理事を理事の職務以外の事業に従事させる場合には、当該理事との間で労働契約を締結することが必要であること。

 五 組合員の意見を反映させる方策

 組合の基本原理の一つである「その事業を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されること」(法第三条第一項第二号)を担保するために、法第二十九条第一項第十二号において、組合員の意見を反映させる方策に関する規定を組合の定款の必要的記載事項としていること。

 この具体的な方策については、各組合において、各組合員の意見をどのように集約し、どのように組合の事業運営に反映させるのかについて、その状況を踏まえて定めるものであると想定されていること。例えば、意見集約の方策としては、開催方法、開催時期又は頻度、最終的な意思統一の方法等が明らかにされている会議、意見箱等を用いた日常的な意見集約等が考えられること。

 また、法第六十六条第一項の規定による各事業年度における組合員の意見を反映させる方策の実施の状況及びその結果についての通常総会への報告は、各組合員が出した意見の事業実施への反映状況が全ての組合員に確実に共有されるようにするためのものであること。

第五 設立等に関する事項

 一 組合については、法定の要件を満たし、主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによって成立する(準則主義)が、組合の設立後に法令で定める方法で届け出る必要があること。具体的には、組合は、法第二十七条の規定により、設立の登記をして成立した日から二週間以内に、登記事項証明書及び定款を添えて、その旨並びに役員の氏名及び住所をその主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事(二において「都道府県知事」という。)に届け出る必要があること。

 二 定款を変更したときは、法第六十三条第三項の規定により、その変更の日から二週間以内に、変更に係る事項を都道府県知事に届け出る必要があるほか、役員の氏名又は住所に変更があったときは、法第三十三条の規定により、その変更の日から二週間以内に都道府県知事に届け出る必要があること。

 三 法第百二十四条第一項の規定により、毎事業年度、通常総会の終了の日から二週間以内に、貸借対照表、損益計算書、剰余金の処分又は損失の処理の方法を記載した書面及び事業報告書並びにこれらの附属明細書を行政庁に提出する必要があること。

第六 管理に関する事項

 一 役員の定数

  (一) 法第三十二条第二項の規定により、組合の役員の定数については、理事は三人以上、監事は一人以上とする必要があること。

  (二) 各組合における役員の定数については、定款の必要的記載事項であり、組合自治の下、各組合において判断するものであること。ただし、組合の事業に全く従事しない専任理事が組合員の半数を占める等、極端に多くの組合員を役員にすることは、当該役員が第四の四の(四)と同様に法第二十条に違反し、労働契約を締結することなく組合の事業に従事するおそれがあるため、総組合員数が少ない組合や組織運営の実情等やむを得ない理由のある組合を除き、役員の定数は総組合員数の一割を超えることがないようにすることが望ましいこと。

 二 剰余金の配当

  (一) 賃金と剰余金の関係

 賃金は、労働契約に基づく労働の対価であるのに対し、剰余金は、法第七十七条の規定により、組合が賃金等の経費を支払い、損失を補填し、法第七十六条第一項の準備金、同条第四項の就労創出等積立金及び同条第五項の教育繰越金を控除した後に、組合員が組合の事業に従事した程度に応じて組合員に分配できるものであることから、賃金の支払いと剰余金の配当は全く異なるものであることに留意すること。

 また、賃金を不当に低く抑えることで剰余金を多くすることがないよう、第四の五の組合員の意見を反映させる方策等を通じて、各組合において、組合員が安心して生活できる水準の賃金を定めることが望ましいこと。

  (二) 剰余金の配当に関する考え方

 剰余金の処分については、法第二十九条第一項第八号の規定により定款に記載する事項として組合に委ねられているが、剰余金の配当を行うこととなった場合には、その配当は、法第七十七条第二項の規定により組合員が組合の事業に従事した程度に応じてしなければならないこと。ただし、その具体的な方法については、各組合において組合員の意見を反映して決定されるべきものであるとの考えから、定款に記載する事項として組合に委ねられていること。

 なお、剰余金の配当が公平に行われるようにするため、組合の事業に従事した程度の具体的な評価に当たっては、組合の事業に従事した日数、時間数等が主な考慮要素となるほか、業務の質や責任の軽重等も考慮されるものであること。

 三 組合員監査会

 組合員監査会は、組合の基本原理を踏まえ、全ての組合員が組合の活動に従事したいというニーズがある小規模の組合(組合員の総数が二十人を超えない組合)において、理事や組合の使用人を兼職することができない監事に代え、理事の活動を理事以外の全ての組合員が監査することで、組合の適切な運営を確保するものであること。

 なお、組合員監査会による監査がなれ合いによるものとなることを防止する観点から、法第五十一条第十項の規定により、組合は、監査の結果である監査報告を一定期間事務所に備え置き、組合の債権者による閲覧等を可能とする必要があること。